第352話(終・第九章第32話) カウントダウン

 プロデューサーさんに勝利した私。

 あの人のことですからまたとんでもないことをしてくるのではないか、と警戒していましたが、復活して襲ってくる、などということはなく……。

 勝てた、という実感が少しずつ持てるようになっていきます。


 ふぅ、と息をつこうとした時、



――ドドドドドドドドッ



 すごい数の足音と妙な振動が伝わってきました。

 ……後ろの方から?


「なんの音――え」


 振り返って見ると、そこには……。

 私はぎょっとしました。

 何故なら、



――右から左、上から下まで、まるで壁……というか大きな波のように「シニガミさんたち」が一斉にこちらに押し寄せてきていたのですから……!



 恐ろしい、そう形容するのが適切であるような光景でした。


「「「「「「「「「「あっ、セツちゃん! まだここにいたんだ――」」」」」」」」」」

「ひゃわああああああああっ!?」


 ……私、思わず「彼女たち」のいない方に逃げていました。



 私は飛び退いてから(私のスピードで)気づきました。

 そうする必要は別になかったのではないか? と。

 相手はシニガミさんだったのですから。

 

 ふと見たらすごい数の「シニガミさんたち」がそこにいて、びっくりして足に力を入れたために制御できずに結構な距離を取ってしまっていた私の元に「彼女たち」がやってきます。


「「「「「「「「「「に、逃げなくてもいいんじゃないかな?」」」」」」」」

「そんな大勢でやってこられたら逃げるって……」


 不満げな「シニガミさんたち」。

 私は苦笑いです。

 想像してみてほしいです。

 百を軽く超え、下手をしたら千にも到達しているかもしれない同じ顔の人たちが気づいたらすぐ近くにいてその全員が自分の方に向かってきている、という光景を。

 いくら現実ではないとはいえ、いきなりは流石に心臓に悪いものがあります……。


 私がシニガミさんにそのことを指摘をして、彼女が謝罪したあとのこと。

 シニガミさんが私に確認してきました。


「えっと、それで、なんだけど……。プロデューサーはどうしたの、かな? 分身を増やして見て回ってるんだけど見つけられなくて……。もう一人は倒したんだけど」

「あっ、あゆ……ロードはやったんだ。……プロデューサーさんならやっつけたと思う。変なことをしてこなければ、だけど……。向こうから仕掛けてきたから、やるしかない、って思って」


 私がプロデューサーさんを倒したことを伝えると、そっか……、と呟いたあと決意の宿った目で私を見据えてきたシニガミさん。

 その様子を見て、私は彼女が何を言いたいのかをなんとなく察しました。


「残ったのは僕たちだけ、ってことみたいだね……」

「もし何もしなかったら、文句を言われそう……」

「戦うしかない、かな……?」


 彼女が聞きたかったのは、このあとのことについて。

 戦いに消極的だと、あの「運営」のことですから仕切り直しになるということも考えられます。

 ですから私たちは、戦うことにしました。

 難癖をつけられないために、お互いに真剣に。



 シニガミさんと向き合います。

 彼女が告げてきました。


「……悪いけど勝たせてもらうよ? 前、負けてすっごく悔しかったから……!」


 そう言って、私に手をかざしてくる「シニガミさんたち」。

 『巻き戻し+』を私に使ってくる! と直感します。


「私は、最強にこだわるつもりはないけど、マーチちゃんたちの期待に応えたいから、全力で行く……!」


 スキルを使われる前に私は素早さを活かして頭上へと大量に猛毒薬を投げます。


「アシッドクラウドバーストっ!」


 猛毒の豪雨を発生させて。

 そしてそれを維持したまま私は「シニガミさんたち」が形成する壁へと突っ込んでいきました。


「ひぇっ!? う、嘘!? なんで躊躇いもなくぶつかりに――あだっ!?」

「うわっ!」

「ちょっ!? こっち来ないで――いぎっ!?」


 私に当たったシニガミさんがその衝撃に耐えられなくて撥ねられます。

 飛ばされたシニガミさんが近くにいた別のシニガミさんに当たって。

 シニガミさんに当たったシニガミさんも飛ばされてまた別のシニガミさんを巻き込んで。

 それがどんどん連鎖して被害は大きくなっていきました。

 私が敵を投げた時に発生するビリヤード状態が、この全力の突進でも起きていたのです。


 ちなみに私の頭上には猛毒の巨大な雲が発生していますからそれによるダメージもありました。

 この雲をつくるために使った猛毒薬の品質はULT品質ですが、性能は少し抑えてあります。

 プロデューサーさんの軍勢と戦った時は、相手も私と同じHPを持っていて私と同じ回復量のHP継続回復状態であることが想定されたためHPがどれだけ高くても一瞬で0にできるRank:Maxの猛毒薬を使用していました。

 ですが今回は、耐性を貫通こそしますが私のHPを一度で削り切れないものにしています。

(私はシニガミさんがHP9,999,999,999,999,999でないことを把握しているので、シニガミさんを倒せて私は耐えられるように設定してあります……私は一秒経てばHPを9,999,999,999,999,999まで回復できる状態になっていますから、豪雨の中にい続けたとしても凌げます)


 一人のシニガミさんに当たっても私は止まることなく突き進みました。

 二人、三人、四人……と当たって次々に撥ねていきます。

 撥ねたのが一人でもかなりの「シニガミさんたち」を巻き添えにしていたのですが、撥ねたのが二人、三人、四人……と増えていくと被害はものすごいことに。

 『巻き戻し+』を使われるわけにはいきませんから止まるわけにもいきませんでしたが……。



 猛スピードでの突撃とアシッドクラウドバースト。

 この二つの攻めで「シニガミさんたち」はてんやわんやになっていました。


「痛いっ!?」「ほんと――」「待って……っ!?」「ねえ、あの雲、何!?」


 猛毒の豪雨に晒された「シニガミさんたち」や私に吹き飛ばされた「シニガミさんたち」を助けようと「彼女たち」の時間を戻そうとしていましたが、私の速さについては来れないようで。

 治すよりも被害に遭う数の方が遥かに多く。

 治すことを諦めて『バイロケーション』で増えることにしたらしいシニガミさんでしたが。

 その意味はあまりありませんでした。

 「発電所エリア」から飛び出した私は、「シニガミさん」がいるところを全速力で駆け巡っていて。

 それで少し時間はかかりましたが。

 「森林エリア」で当たりを引き当てました。



――複数の「シニガミさんたち」が何がなんでも治さなくちゃ! といった様子で助けようとする存在が一人だけいたのです。



 それを見て、とっさにその辺りにアシッドレインに使う薬を猛毒薬から封印薬に変えた「破魔の雨」で突っ込んでいったら。

 その大事にされていたシニガミさんが黒い粒子になって消え、周りのシニガミさんたちも一人残らず消えていって。

 私が勝ち残った、というアナウンスが響き渡りました。


 こうして私は最強プレイヤーの称号を手に入れることになったのです。



 そして、これはイベントから一カ月と少しあとのことになるのですが……。

 今まで好き勝手にやってきた「運営」に審判が下される日がやってきます。

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