第350話(終・第九章第30話) Pのカタストロフ6
「いやはや、決着はつきませんでしたか。PvPイベントの時は瞬殺でしたのにねぇ」
突如、背後から声が聞こえてきて急いで振り向くと、そこには先ほどまではいなかった人物の姿がありました。
「……いつの間に?」
「簡単なことです。スキルを使いました。『フロアウォーカー』に『パワーアップの秘玉』を使って進化させた『フィールドウォーカー』を」
私が警戒心を隠さずに尋ねるとその人物・プロデューサーさんは愉快そうに答えてきました。
スキルをパワーアップさせた……?
「パワーアップの秘玉(スキル)」はイベント優勝の景品である地図がないと手に入れられないはずですが、いったいどうやって……っ。
少し考えて、ライザがあの時、第十四層のエリアボスの間でこの人と遭った時に言っていたことを思い出しました。
「進化ってどうやって――そ、そっか! 『アイテム創造』……!」
「おや? 気づきますか。ネタを選ぶ物好きさんがいなくても正解に辿り着けるとは思っていませんでしたよ」
私が思っていたことを言葉にしてしまったら、プロデューサーさんから肯定されます。
それから彼は、こちらが聞いたわけではないのですが、べらべらと語り始めました。
「その通りです。今はもう『アイテム創造』ではなく『アイテム創造+』ですが。『アイテム創造』を使って『パワーアップの秘玉(スキル)』をつくり上げました。それで僕が所有しているスキルは全て進化させているんです。『フロアウォーカー』は『フィールドウォーカー』に、『アイテム創造』は『アイテム創造+』に、『オートカウンター』は『ダメージ・バステ・デバフ全反射』に! ……ちなみに、種族も属性もジョブも強化済みですよ? あなたたちにできて僕にできないことはない、と心得ておいてください」
スキルも種族も属性もジョブも、それぞれの「パワーアップの秘玉」で強化している、と。
自分の手札を明かしているのは相当な自信があるからなのでしょう。
『アイテム創造+』も面倒な性能をしていそうですが、一番厄介なのは『ダメージ・バステ・デバフ全反射』な気がします。
名前の通りのスキルだとするなら、ダメージを与えることとバステやデバフを掛けることを全て跳ね返すスキル、という性能のはず……。
私の攻撃手段は、投げるか猛毒薬の二択ですから、この人は私の攻撃への対策ができている、ということになります。
戦うことになったらまずいかもしれません……。
私が相手の出方を窺いつつも少しずつ距離を取っていると、プロデューサーさんが宣言してきました。
「さてさて! ユーザー最強と『運営』最強が出会ってしまったのです。やることは一つでしょう。
――ギフテッド・オンラインの最強を決めるのです!
白黒はっきりさせようじゃありませんか!」
急に始まってしまった戦闘。
素早さはポーションが使える私の方が上……だと思っていたのですが、
「なっ!?」
一瞬で私の懐に飛び込んできたプロデューサーさん。
低くした態勢のまま身体を回転させて私のお腹に蹴りを入れてきます。
私はわけがわからないまま吹っ飛ばされました。
「うぐっ!? すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……っ!」
身体を壁に叩きつけられた痛みを深呼吸することで和らげようとする私にプロデューサーさんが告げてきます。
「言ったでしょう? 僕には『アイテム創造+』があると。それで僕は
――本来このゲームには存在しない、あなたがつくったULT.Rank:Maxポーションの生成も可能なのです。
従って、僕のステータスはカンストしています。あなたにできて僕にできないことはないと心得てください」
「……っ」
……それは種明かし。
彼の素早さが速かったのはスキルでULT.Rank:Maxポーションをつくれるから、それが真相でした。
私は相手がそんなに速く動くとは想定していなかったため判断が遅れて攻撃を防ぎきれなかったのです。
相手がもう一度突っ込んできます。
ですが、今度の攻撃はいなすことができました。
トリックがわかっているのです。
来る、とわかっていれば対応することが可能です。
プロデューサーさんは連続で攻めてきました。
回し蹴りに裏拳、エルボーに踵落とし、など……。
それら全てを私は躱したり受け流したりして防ぎきりました。
相手の表情から少しだけ余裕の色が消えます。
「……ほう。もう追いつきますか。……しかし、こんなものは序の口です。これからが本番ですよ!」
しかし、すぐに表情を元の余裕のある顔に戻すプロデューサーさん。
それから彼は両手を広げると、
「いでよ、コクレアタウルスス! ウィーペラシヌス!」
二種類のモンスターが召喚されました。
一方は、ウシの頭にクマの身体、カタツムリの殻を背負った巨大なモンスター
もう一体は、ロバの尻尾が毒蛇の頭になっている巨大なモンスター
私はすぐさま対処しようと猛毒薬を生成してそれを掛けようとしました。
ですがそれに、待ったをかけられます。
「くくっ。それ、やめておいた方がいいと思いますよ? これらは『残酷のカプルピクニス』と同等の力を持っていますから」
……プロデューサーさんから。
私はそれを聞いて動きを止めていました。
私が攻められなくなっていることに気をよくしたのか、プロデューサーさんがまたしても語りだしました。
曰く、コクレアタウルススは空間を歪めて攻撃対象を自在に変更できる力を持っていて、ウィーペラシヌスは全てのアイテムの効果を受けない特殊効果を持っている、のだとか。
その説明を受けている間に私の視界はぐにゃりと曲がっていました。
気持ち悪いです……っ。
私がよろめくと、プロデューサーさんは畳みかけようとしてきます。
「さて! それでは証明の時間です! 僕がギフテッド・オンラインで最強である、ということのね!」
そう言って彼は、
――私を取り囲むように二種類のモンスターたちを大量に招喚しました。
~~~~ イベント特設ステージ「森林エリア」 ~~~~
「あぎゃああああっ!?」
ロードはのた打ち回っていた。
Pを対象に『天上天下唯我独尊』を使ったら、ダメージが跳ね返ってきたためである。
「なんでだ!? 俺が攻撃した側なのにっ!?」
しかし、相手のスキルのことを何も知らないロードはパニックに陥っていた。
そこへ一人の人物が近づいていく。
「スキルだよ。確か、『オートカウンター』、だったかな?」
「誰だ!? って、お前、おっぱい女!」
「……君、サイテーだね」
それはシニガミだった。
「なんで生きてるんだよ!? 俺、ちゃんとやったはずなのに……!」
ロードは彼女が生きていたことに狼狽えた。
「ああ、それはね――」
だから、彼女からの説明を遮った。
話を聞かなかった。
「どんな方法で俺のスキルから逃れたのかは知らねぇが、これで確実に仕留めてやる!
――『黒粒子化』っ!」
ロードが、シニガミから奪ったそのスキルをシニガミに使うと、シニガミはその場に倒れた。
「ハ、ハハハハハッ! バカな奴だ! 不用意に俺の前に現れるなんてな!」
勝ったと思い込んで勝鬨を上げるロード。
……だが。
――ガツンッ!
背中と後頭部に複数の衝撃を受ける。
ロードが振り返って見るとそこには、
――十人以上のシニガミの姿があった。
ロードは「彼女たち」に一斉に錫杖で打たれていたのである。
「なっ!? う、嘘だろ!?」
Pから受けたカウンターのダメージもあって。
ロードは黒い粒子となって消えていった。
そのあと。
倒れていたシニガミはむくりと立ち上がった。
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