第346話(終・第九章第26話) Pのカタストロフ2
~~~~ 運営サイド ~~~~
十二月十九日の夜。
「くそっ、くそっ!」
自分の部屋に戻ってきた一人の人物が頭を掻きむしっていた。
少し前。
この人物はゲームの世界にいた。
一切の身動きが取れず、スキルも使えない状態で。
とあるギルドの面々の足止めをしようとした結果だ。
返り討ちに遭っていた。
この人物は、そのバステをゲームの中では治せなかった。
そのため、現実に戻ってプログラムを弄ることで自分のキャラクターの状態異常を解くという荒業を行っていた。
この人物は「ギフテッド・オンライン」の「運営」の人間・プロデューサーだったのだ。
……職権乱用もいいところである。
結構な時間をかけてプログラムを完了させ、ゲームの世界に戻ったプロデューサー。
その時には既に彼が足止めをしようと画策していた「彼女たち」はその場にはいなかった。
今の段階では何もない第十五層にい続ける意味はないので、この時間はUターンして街まで帰っている最中に違いない、とプロデューサーには考えられた。
実際には、その「彼女たち」は「踏破者の証」を使ってギルドハウスまでひとっとびしていたわけだが、プロデューサーはそこまで思考が及んでいなかった。
一度ダンジョンの外に出ればモンスターフロアのモンスターはリポップする仕様になっている。
そのため、今から追い駆ければどこかで会えるはずだ! そう判断したプロデューサーは彼がいたエリアボスの間から出ようとした。
扉の方へと向かって行ってその扉を開けようとしたその時、扉が固く閉ざされる。
そして現れる――ミラープディン16体。
――エリアボスの間の安全地帯化が修正されていたのである。
プロデューサーは愕然とさせられた。
結局、『アイテム創造』で「生還の円環」をつくって第十四層の街に転送されたことでプロデューサーは事なきを得たわけだが……。
彼の、「彼女たち」に対する執念は強まることになった。
「SNSに寄せられる、優勝者が変わらなくてつまらないというコメントは著しく減ったが、僕は一位を取れる見込みがないゲームなんてつまらない派なんだ……! いい気でいられるのも今のうちだからな! 絶対に引きずりおろしてやる、
――『ファーマー』!」
~~~~ セツ視点 ~~~~
「いやぁ、来てくださってありがとうございます、セツさん」
「はあ……」
十二月二十八日(木曜日)。
私はイベント特設ステージにいました。
というのも、今月のイベント「ギフテッド・オンライン個人最強決定戦・バトルロワイアルイベント」の開催場所がここだったからです。
PvPイベントの予戦で使われた「砂漠」、「海」、「火山」、「谷」があったあのステージなのですが、それを今回のイベントのためにリメイクした、とのこと。
四つあるエリアは「森林」、「氷山」、「鉱山」、「発電所」に置き換わっているそうです。
クリスマスイブに「運営からのお知らせ」が来た時は呆然とさせられました。
こんな年末にイベントを行うとは……。
イベントの内容は、ユーザー側で一番強いプレイヤーと「運営」サイドで一番強いプロデューサーが戦ってギフテッド・オンラインの一番を決める、というもので……。
(他のプレイヤーの方たちはどちらが勝つのか予想し、当たったら景品がもらえるイベントになっているそう)
ユーザー代表が、これまでのイベントの成績で私になったそうなのですが……。
……これ、私が忙しかったらどうするつもりだったのでしょうか?
幸いというかなんというか……私は冬休みの宿題もお家の大掃除ももう終わっていて、お母さんにゲームをやっていいという許可をもらえていますが、こちらのことをあまり考えられてはいないような気がしてなりません。
本来なら、私とプロデューサーさんの一対一、で行われる予定だったそうなのですが、イベント告知がなされてから物言いをつけられたらしく……。
このイベント特設ステージには私とプロデューサーさんの他に二人のプレイヤーが招集されていました。
(それでイベントのタイトルが「バトルロワイアルイベント」に変更された模様です)
「へっ! 最強を決める戦いなんだから俺が呼ばなきゃおかしいだろ! 最強プレイヤーの座は俺のものなんだからな!」
一人は……。
……。
……はぁ。
……あゆみちゃんです。
この感じ……「運営」にしつこく抗議をしたのは彼でしょう……。
もう……本当に何をやってるのあゆみちゃん……。
そしてもう一人は……。
「はうぅ……」
……シニガミさん。
彼女は完全にとばっちりのようです……。
一人増えるなら、特設ステージのエリアは四つあるのだからもう一人増やした方が纏まりがよく見える、という意見が「運営」の会議で出て、最強プレイヤーとして名高かったシニガミさんに白羽の矢が立ってしまった、とか……。
シニガミさん……。
「大丈夫、シニガミさん?」
顔色の悪い彼女のことを黙って見ていられず、私は声を掛けました。
「う、うん……って言えればよかったんだけど……。これ、勝者の予想があるから絶対に戦ってるとこを映される、でしょ……? 僕、一からのやり直しになってから配信してなくて……。この姿を晒してなかったんだ……。でも今日、晒しちゃう、って思うと気分が……っ」
大丈夫ではなさそう……。
私はたまらずシニガミさんの背中を擦りました。
これほどまでに嫌なら辞退した方がいいのではないか、と言いたくなってしまいますが、今回に限ってはそれはできないことでした。
何故なら
――相手があゆみちゃんだからです。
あゆみちゃんは元々シニガミさんが持っていたスキルを奪うという暴挙に出ています。
いわば、彼女からしてみれば因縁の相手。
ここで引くことはシニガミさんにはできなかったのです。
(ギフテッド・オンライン個人最強決定イベントに
シニガミさんの気分を落ち着かせようとしていると、あゆみちゃんが近づいて来て言いました。
「はっ、こんなんが元最強プレイヤーなのかよ? すっげぇひょろっちそう! こんな奴、俺の敵じゃないな! おい、刹那! あの時は調子が悪かっただけだからな!? 思い上がるなよ!? 今日の俺は絶好調だぜ! 刹那もそこの女も! 女は男に勝てねぇってことを思い知らせてやるよっ!」
【※あゆみの間違った認識です。差別を推奨するものではありません】
……無神経にもほどがあります。
いい加減言い返してやりたくなった私ですが、それは横から感じられた気配によって止められました。
――シニガミさんがものすごい殺気を放っていたから。
……とりあえず、私の相手は彼ではないようです。
私は、にやにやといやらしい笑みを浮かべている問題プロデューサーさんを視界に入れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます