第345話(終・第九章第25話) Pのカタストロフ1
「『delete』」
何がどうなって……?
突然現れた鏡のプディンに囲まれてそれらに私たちに化けられて万事休すかと思ったら、今度はそのプディンたちがなんの前触れもなく消え去って……。
目まぐるしく変わった戦況に呆然とさせられる私たち。
ただ、この状況をつくり出したのは私の隣にいたコエちゃんであること、それだけは辛うじてわかっていました。
コエちゃんが言葉を発すると同時に消滅していったミラープディンたち、という光景を目の当たりにしたプロデューサーさんが狼狽えました。
「なんでミラープディンズが!? ……あなたですね!? いったい何をしたんですか!?」
彼もこのようなことになっているわけが理解できていないようです。
コエちゃんは私たちにもわかるように話してくれました。
「……少し設定を弄ってこの空間全体を安全地帯に変えただけです。安全地帯にはモンスターは入れないのでしょう?」
「なっ!?」
この場所全域を安全地帯に変えた……。
安全地帯はモンスターが入れない場所です。
だからモンスターであるミラープディンたちはこの場所に存在できなくて消えてなくなった、とコエちゃんは説明していました。
(ちなみに、カラメルは私の腕の中にい続けていました……テイムモンスターだから? それとも、カラメルが特別なのでしょうか?)
……あと。
一番大事なことも、コエちゃんは言っていたのです。
――設定を弄った、と。
それはつまるところ、コエちゃんがプログラム自体に干渉している、ということ。
彼女は現実にある機械を操れます。
その能力で、ゲームの中からではなく外からミラープディンたちの対処をしていたコエちゃん。
それってむちゃくちゃなような気が……。
ただ、私たちの持ち物もコピーしてしまうミラープディンズへの対策として私たちは復活薬含むほとんどのアイテムを置いてきてしまっていましたから、コエちゃんのこの行動に救われたことは事実です(万が一に備えて「生還の円環」は持っていましたが)。
助けてもらったので強く言うことは私にはできません……。
一方でプロデューサーさんはというと、コエちゃんの発言の重大な部分を重要だと思っていないのかあまり気に留めていないようでした。
「そんな! この場所を安全地帯にする術はないはずです! 『テント』も安全地帯にするスキルも使えないようにしているのですから! ……『フロアマスター』! 『フロアマスター』っ! ……くっ! ミラープディンがポップしません……!」
この空間全体を安全地帯に変えた、という方に意識がいっています。
このゲームのプログラム上、本来エリアボスの間は安全地帯にすることはできないそうで、この場所が本当に安全地帯になっているのかどうか、と、ミラープディンが消えた原因、を必死になって探ろうとしていました。
『フロアマスター』が発動しないことに焦りだすプロデューサーさん。
そこをライザが畳みかけます。
「『フロアマスター』は封じられました。……どうしますか? あなたの残りのスキルは『フロアウォーカー』、『オートカウンター』、『アイテム創造』の三つですよね? それで、まだ
「ぐ、ぐぬぬ……っ。……なんでも見通せるスキルは厄介極まりないですね」
彼女が、あなたのスキルは把握している、と言ったことで、プロデューサーさんは、ふぅ……、と息をついて観念したように思われました。
……しかし。
「見通せるのならわかっていますよね、ネタを選ぶ物好きさん? 僕の『アイテム創造』が『アイテム創造+』になっていることを! その効果は本来存在しないアイテムをつくることも可能なのです! まあ、複雑な設定ができなのは玉に瑕ですが!」
何かの液体が入ったビンを生み出し、それを飲み干したプロデューサーさん。
それから、
「ぷはぁ! これで僕は相手のスキルは受けない状態になりました! これで終わりです! 食らいなさい、『全滅玉!』」
三十センチはありそうな花火の玉をつくり出し、それを地面へと投げつけました。
直後、ピカッと光り、真っ白に染められる私の視界。
そのアイテムの名前からして、次は大きな衝撃が襲ってくるだろうと想像できて、私は身構えました。
……ところが。
どれだけ待っても衝撃を感じることはなく……。
眩しさで閉じていた目を開けてみると、私は衝撃を受けました。
驚きという、まったく別の衝撃でしたが。
私たちはいつの間にか、
――狭い空間の中にいたのです。
「どこ、ここ……!?」
「さ、さっきのアイテムで飛ばされた、ってこと!?」
私たち12人が入ったらあまり余裕がない、扉のない壁に囲まれた部屋。
先ほどまで広いエリアボスの間にいたのに強烈な光に目を閉じて次に開けた時には知らない場所にいた、という展開に他のみんなも動揺していました。
……コエちゃん以外は。
ライザが「調べて」この状況の説明をしてくれます。
「……わーたちは転送なんてされていねぇみてぇです。ここ、エリアボスの間でした。この壁は恐らく、コエがプログラムを弄ってつくり出したものです」
ライザのおかげで謎が解けて、みんな落ち着きを取り戻しました。
取り乱していた人がまだ一人、外にいましたが。
「ど、どうなっているんですか、これは!? 復活してみたら、こんなところにないはずの壁ができているなんて……! こ、壊せない!? これは、ダンジョンの壁!?」
プロデューサーさん、ライザの声が届いていなかったようで平静さを取り戻すことができていませんでした。
彼の声は、騒いでいたため私たちの耳にも聞こえていましたが。
「こ、こうなったら壁を壊すアイテムをつくって、それから『ラッキーファインド』の面々をどこかに飛ばす『強制転移陣』を創造して……!」
何をしようとしているのか、を晒すプロデューサーさん。
パニックに陥っていたことで恐らく無意識に発していたのだと思います。
これを聞いたライザは私たちに、特に私、クロ姉、マーチちゃんに指示をしました。
「皆さん、あちらに詰めて! セツ、カラメルから素材をもらって製薬してください! クロはそこの壁に『ブレイクスルー』を! あとはマーチ、お願いします!」
「りゅ!」
ライザの指示を受けて、カラメルが体内から薬の素材を取り出して私に渡してきます。
それを見て、私は何をつくればいいのかを理解しました。
求められている薬をすぐにつくってそれに手早く『ポーション超強化』を施し、マーチちゃんへ。
「はい、マーチちゃん!」
「了解なの!」
「作戦開始。破壊する!」
私がマーチちゃんに私特製ポーションを渡したのを確認したクロ姉が動きます!
『ブレイクスルー』でライザが指定した壁を壊すと、その奥にいたプロデューサーさんの姿を捉えられました。
向こうも壁を壊そうとしていたのか、その直前で壁が壊れたことに驚愕の表情で固まっていました。
そこにマーチちゃんがすかさずスリングショットで射ます。
弾は私特製の麻痺薬。
「ぐへぁ!?」
それは命中しました。
痺れて動けなくなるプロデューサーさん。
これで脅威は取り除けたはずです。
……ライザは相変わらず、ですね。
それから、コエちゃんが壁を撤去して、私は念のためカラメルから素材をもらって封印薬をつくってプロデューサーさんにかけておいて、そそくさと「光のゲート」をみんなでくぐりました。
予想外の妨害がありましたが……何はともあれ、第十四層クリアです。
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