第344話(終・第九章第24話) 「運営」の本気11
「か、勝てた……っ」
ミラープディンを掃討し終えて一息ついていたところにマーチちゃんとライザがやってきます。
「予想通りだったの。ごり押し感が否めないけど……」
「ほんと、上手くいってよかったです。下手したら再度変身されて手がつけられなくなりやがるところでしたよ?」
彼女たちは心底ホッとした表情を浮かべていました。
……確かに、この作戦は無茶な部分があったと思います。
――相手が呪いのような特殊効果を付与された状態から回復する前に仕留める、というこの計画には……。
相手が私たちに変身したのを見てから『巻き戻し』を使わないと本来の性能の私たちの装備をコピーされてしまうかもしれませんでしたし、反応が遅くなって相手に先に『巻き戻し』を使われてしまったら隙をつけなくなる可能性が出てくる……。
思っていたよりも、プディンの形態に戻ってから再度変身するのにかける時間が短かったことには焦らされました。
シニガミさんにはかなりシビアなタイミングを要求してしまいましたが、それを成し遂げてくれた彼女には感謝しかありません……。
「……肝を冷やしましたよ。もっとマシな方法はなかったのですか?」
疲れ切った様子ではぁーっと呆れ混じりの溜息をつくススキさん。
「あったらそっちを採用してるでしょ? 今思いつく限りでは最善だったと思うわよ?」
ススキさんを宥めるサクラさん。
「まあ、うちには素早さカンストしてるのが三人、カンストできるのが一人と一匹、カンストまではいかないまでもかなり上げられるのが一人いたからね。実際、その驚異的な素早さのおかげでどうにかなったわけだし」
「うん。セツさんやライザさん、クロさん、それにマーチちゃんとカラメルちゃんとサクラちゃんが、すごい勢いで変身を終わらせようとするあの子たちを止めてたもんね。それに、この方法じゃないと、全員で無事に突破する、っていうのは無理だったんじゃないかな?」
キリさんとパインくんは私が思いついたあの作戦を評価してくれて。
「りゅ~!」
カラメルは私に胸に飛び込んできて。
「う、上手くいってよかったよぉ……!」
「お疲れさまっす。例の件、考えとくっすよ?」
「うぎぎ……! なんで福知山さんといい感じになってるの!? ……でも、今回は福知山さんのおかげなのは確かだしぃ……!」
シニガミさんの功労を称えるアンジェさんと、認めてはいるベリアさん。
「ふっ、全ては結果論。終わり良ければすべて良し! 即ち、ボスへの対抗策、思いついたセツちゃんは神!」
クロ姉は私を全肯定してくれていました。
兎にも角にも、全員揃って第十四層を切り抜けられた私たち。
ススキさんの言う通り、エリアボスをもっと安全に倒せる方法を思いつければよかったのですが、私が思いついたのはこの危険な方法一つだけ。
このメンバーならやれる、と疑ってはいませんでしたが、みんなに無理を押しつけるようなことをしてしまったのは確かです。
特にシニガミさんには責任重大な役を負わせてしまいました。
そのことをシニガミさんに謝罪すると彼女は、
「だ、大丈夫! 犠牲を出さないやり方はこの方法しかなかったと思うし! そ、それに、役に立てて嬉しかったから……」
と言ってくれて……。
彼女にそう言ってもらえると、少し気持ちが楽になります。
私とシニガミさんが話している間にマーチちゃんがドロップアイテムを回収していたようで、「光のゲート」が出現しました。
とりあえずくぐっちゃおう、ということになって私たちは「光のゲート」に向かったのですが……。
――「光のゲート」の前に突然誰かが姿を現して。
……なんでしょうか、この既視感……。
すごく嫌な予感がします。
その人物は、面長でお坊ちゃんのような髪型、半開きの目に長い睫毛、高すぎる鼻、若干上顎前突気味のおちょぼ口、長身痩躯の男性。
私は見たことのない人物でしたが、この場所にいる、ということを考慮すると……。
私が答えを導き出す前に、サクラさん、キリさん、パインくん、アンジェさんが反応を示しました。
「あっ!」
「あの人って……」
「ど、どこかで見たことあるような……?」
「……ギフテッドライブで、じゃないっすか?」
彼女たちは明言しませんでしたが、もう一人、なんでも知ることができる彼女が苦虫を噛み潰したような顔をしてその人物の名前をはっきりと口にしました。
「……何しにきやがったんですか?
――P」
ライザがその名前を発した瞬間、私は空気がぴりつくのを感じました。
サクラさん、キリさん、パインくん、アンジェさんは警戒するように、
シニガミさんは怯えるように、
マーチちゃん、クロ姉、ススキさん、ベリアさんは怒りを露にして、
Pと呼ばれた人物のことを見たのです。
状況を理解できていないのは私とコエちゃんだけのようでした。
そんな私たちに近くにいたシニガミさんが説明してくれます。
「……この人、プロデューサーだよ。PvPの時、セツちゃんたちに難癖をつけてきてた、あの……」
「っ!」
プロデューサー!?
この人が……。
私たちの視線を集めたその人……プロデューサーさんが言ってきました。
「ええ、ええ。面白くないです、面白くないですよぉ。このままあなたたちを独走させるわけにはいかないのです。他のプレイヤーたちのことも考えてください。一番になれるかも、っていう希望を絶たれたらゲームはやる意味が一つ減ってしまうじゃないですか。一位をどうやっても取れないゲームなんてつまらない、そうは思いませんか?」
などということを。
これにライザが返します。
「……だから、
「一位を取れないからやめていく人がいるのは事実です」
「こちとら一位を取るために努力をしているんです。決められたルールの中で正々堂々とやっている。文句を言われる筋合いはねぇんですよ。一位を取りたいなら、わーたちよりも努力をすりゃあいいだけの話じゃねぇですか」
「……はぁ。弱者の気持ちがわからない奴に何を言っても無駄ですか……。このままでは埒が明かないので仕方ありません」
ライザもこの人には迷惑を掛けられているからかつい喧嘩腰になってしまっていました。
対するプロデューサーさんは頑なで、私たちに非があるというような言い方を貫き通します。
自分が正しい、と信じてやまない様子のプロデューサーさんは、私たちを聞き分けのない子を見るかのような目で見てきて。
「警告を無視したのはそちらですからね? 恨むなら自分たちの理解力のなさを恨んでくださいよ? ――『フロアマスター+』」
彼は唱えました。
スキルを発動した……?
プロデューサーさんが両手を広げると、
――どこからともなく大量の鏡のようなプディンが……!
「な、何!? どうなって……!?」
愕然とさせられる私たち。
プロデューサーさんが宣います。
「フロア内に登場するモンスターを操れるスキルです。パワーアップさせていますので無限にポップさせることもできるのですよ!」
高々に笑うプロデューサーさん。
姿を変えていくミラープディンたち。
16体に対処するのも無茶なことをしたというのに、私たちを囲んでいるのはその数を遥かに超えていて……!
絶望、してしまっていました。
……ですが。
「『delete』」
隣にいた子がそう呟いた瞬間、ミラープディンたちは一体残らず消えて行ったのです。
それをやったのは、
――コエちゃんでした。
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