第342話(終・第九章第22話) 「運営」の本気9
「……よく思いつきましたね、そんな方法……」
「似たようなことをつい最近やってたでしょ? だから……」
私が思いついた方法をみんなに伝えると、ライザが唖然としていました。
私も搦め手だとは思っているので、その反応は正しい気がします。
ライザのこの様子からすると、できなくはなさそうですが……。
みんなの役に立てた、と前向きに捉えることにしましょう。
「お姉さんの案、やるのはほとんどクロとシニガミなの」
「そうっすね。僕たちはついていくだけって感じっすもんね。責任重大っすっけど、やれるっすか、美珠?」
「……うっ。が、頑張る」
「愚問。セツちゃんからのお願い。私が完璧に遂行させる」
この作戦のカギとなるのはクロ姉とシニガミさんです。
彼女たち以外には役割がほぼありません。
重要な役割を任されることになるシニガミさんにアンジェさんが、大丈夫? と尋ねます。
シニガミさんは不安そうにしていましたが、もう一人の要であるクロ姉はやる気に満ち溢れていて、絶対に成功に導く! と言いきりました。
燃えています。
ということで、私たちは第十四層エリアボス・ミラープディンズの討伐に向けて準備をすることにしました。
「えっと、あれとそれ、あとこれも増やして」
「お、多いの……っ」
「……十二人いる。50以上の武器・防具に八個ずつ、特殊効果を付ける必要がある。大変」
マーチちゃんは装備の特殊効果を変えるための素材を生み出すことに狩り出されていました。
付与する特殊効果は400以上で、必要となる素材は1,600を超えますので……。
「あっ、それはもういらない……」
「ああ! また増やしすぎたの! 必要になる素材って何で決まってるの!? 付ける特殊効果によって違ってくるのはわかるけど、何につけるかによっても変わってくるのは意味わかんないの!」
「……いっそのこと『アイテム合成の教本』を使って『万能鍛冶素材』つくりますか、マー――」
「お願いっ!」
しかも、同じ素材を増やせばいいというわけではなく、違う特殊効果を付与しようとすると異なる素材が必要になり、同じ特殊効果でも武器と防具で微妙に求められる素材が変わってくるという仕様があり……。
もう揃っている素材を間違えて増やしてしまったマーチちゃん。
嘆く彼女にライザが、「ナントカナリ草」のようにどの鍛冶素材としても代用できるアイテムを「アイテム合成の教本」でつくることを提案しました。
マーチちゃんは食い気味にライザに頼み込んでいました。
っていうか、これ、クロ姉の指示の仕方に問題がある気がするんですけど……。
素材Aを何個、素材Bを何個、素材Cを何個、素材Dを何個……と、一度に増やす素材と増やしてほしい数を言っていたのですから。
それはマーチちゃんも間違えてしまうと思います。
……あっ、私はMP回復ポーションをつくってマーチちゃんとクロ姉(アイテムの品質アップをしている)に渡していました。
私たち「ファーマー」が作業をしている場所から少し離れたところで、シニガミさんが気持ちを落ち着かせていました。
シニガミさんの力が必要なのは戦闘開始直後を想定していますので、今はゆっくりしてもらっている形です。
アンジェさんの手を取って深呼吸を繰り返していました。
アンジェさん、シニガミさんに手を握り続けられていて少し戸惑っています。
そして……。
「……ねえ? これで本当にうまくいくんでしょうね?」
今のシニガミさんとアンジェさんを見て、不満でたまらないといった様子のベリアさんが私たちの元にやってきました。
彼女、これで失敗したら私発狂するわよ!? とも言っていて……。
それに対して、ライザが返します。
「この作戦がうまくいくかどうかはシニガミにかかってます。ですから、あいつの精神を安定させることは最重要課題かと。シニガミはアンジェを信頼しているみてぇですので、あれがシニガミを落ち着かせられる最も効果的な方法だと思います」
「……」
抗議をしに来たベリアさんでしたが、ライザの言葉にはベリアさん自身も認めざるを得ない部分があったようで、彼女は引き下がっていきました。
一方でサクラさんたちは……。
「あたしたちも今はやることがないわね……」
「まあ、私たちの出番はシニガミさんが先駆けの役割を全うしたあと、ですからね」
「なんならレベル上げにでも行っとく? ……クロたち、そんな時間かかんないかもだけど」
「今回はボク、何もできなさそうだけど、レベル上げなら手伝えるかも……!」
と言って、第十三層のダンジョンにレベリングに行っています。
(第十三層「モンスター実験室」ダンジョンには、無限湧き、と呼ばれる敵キャラクターを倒しても際限なく出現し続けるポイントがあるそうで、そちらに)
そうして時間が経って……。
ついに準備が大体終わりました。
ですが、この日はもういい時間になっていたためゲームを終了することに。
続きは明日、ということになり、ライザがサクラさんたちにそのことをギルド用のチャットで伝えてそれぞれログアウトしました。
……………………
翌日(十九日)。
学校から帰ってきて、私たちはゲームの世界のギルドハウスで集まりました。
時刻は③の20時49分。
ライザが再確認を行います。
「さて、それではミラープディンズ討伐準備の最終工程に入ります。それが終わり次第『古代文明の地下遺跡』の最下階に向かうということで。……シニガミ、大丈夫ですからそんなに緊張しないでください」
「わ、わわ、わかってる、け、けど……っ」
今から最終工程、クロ姉がみんなの装備の特殊効果を変更していきます。
昨日、ライザが素材を纏めに纏めてつくった「万能鍛冶素材」をマーチちゃんが増やしてクロ姉が品質を上げていたアイテムを使って。
これが終わればいよいよミラープディンズとのリベンジマッチが始まります。
だからでしょう。
重要な役を任されているシニガミさんが極度の緊張でカチカチになってしまっていました。
……これは心配です。
どうにかしてシニガミさんの緊張を和らげたい、と思った私はアンジェさんに目配せをして。
彼女は私の意図を汲み取ってくれて、シニガミさんに言いました。
「……仕方ないっすね。美珠、上手くいったらなんでもいうこと一つ聞いてあげるっすよ」
「え? なんでも?」
「うん」
「っ! 頑張るっ!」
流石アンジェさん。
たったの一言でシニガミさんの緊張をほぐしてしまいました。
シニガミさんの扱いに慣れていますね。
ほどなくして、クロ姉が全員の装備の特殊効果の変更を終えました。
「それでは出発しましょう」
ギルドハウスを出ようとする私たち九人。
そんな私たちに、シニガミさん、アンジェさん、ベリアさんの三人が疑問を投げかけてきます。
「え、えっと、どうやって行くの?」
「……あっ! またB1階から攻略していく必要があるっすよね!?」
「あれ、すっごく時間がかかるじゃない! っていうか、この――」
「ああ、大丈夫です。ついてきてください」
不安を覚えている彼女たちに、大丈夫、と言って前を歩いていく私たち。
ギルドハウス付近にある一つの魔法陣の中に踏み入れて、
――一瞬で『古代文明の地下遺跡』B56階へ。
「『転移シート』で繋げてるんで」
「「「え、ええええええええっ!?」」」
仰天する三人の声が響きました。
兎も角、大きな扉を開けて。
ミラープディンズ・リベンジマッチ開始です!
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