第341話(終・第九章第21話) 「運営」の本気8(セツ視点)

「な、なんで……!?」


 気がついたら、私は第五層にいました。

 確か、第十四層の最下階でエリアボスと戦っていたはずなのですが……。


 ……そうでした。

 私たちの姿をした半透明な存在……。

 第十四層のエリアボスは自分たち自身との戦いになるのだと解釈していました。

 ですが、自分たちの姿に化けられるのは一人一体ずつだと思っていたのに、私と戦っていた半透明な私は二体に増えて……!

 力はその一体一体が私と互角……。

 両方とも私と同じ強さだったのです!

 そんなの、対処できるわけがありません。

 私は何もできずされるがままの状態になっていました。


 私はHPと防御力も高いので相手のカンストした攻撃力を振るわれてもすぐに倒されるということはありませんでしたが、手足を拘束されて身動きを封じられて……。

 どちらの半透明な私も私と同じ力を持っていますから振りほどくことも叶わず、HPが減っていっているのを感じさせられる、という時間が続きました。

 恐怖、でしかなかったです。

 心が折れそうになりながらも、必死に抜け出そうとしていたら(無我夢中で目を閉じていたようです)……。

 真っ暗になった視界が二回白く明滅して。

 目を開けたら、私たちのギルドハウスが目に入ってきて……っ。


 混乱する私に声を掛けてくる人がいました。


「スキルを変更して、一人称わーに使ったアイテムの効果を指定した対象も受けられるようにするっつースキルを取得しました。それでセツを指定して、『帰還の笛』を使い戦闘を離脱、『踏破者の証』を使って帰ってきたっつーことになります」


 ライザです。

 彼女が今の状況を説明してくれました。

 私はたまらずライザに抱きつきました。

 あのままだったら、私は一からのやり直しになってしまっていたはずですから。


「ありがとう、ライザ……!」

「っ、……いえ」



 しばらくして私はライザからそそくさと離れました。

 みんなが周りにいることに気づかず、結構長い間ライザに抱きついているのを見られていたのです。

 恥ずかしかったです……。

 私たちはまだギルドハウスの中に入っておらず外でそういうことをしていた、ということもあって居たたまれませんでした……。

(私が気がついたのは転移した直後だったので……「踏破者の証」を使ってギルドハウスを指定すると転移するのは建物の前、扉からそれほど離れていない場所になります)


 私たちは建物の中に入って話し合うことにしました。

 内容は、第十四層のエリアボスについて、です。


「……してやられましたね。相手はミラープディン――こちらの姿、ステータス、スキル、技、状態、装備、所持アイテムを完コピするプディンです。姿は半透明で見分けられるのですが……。それが16体……。この数はギルドに加入できる人数の最大で設定されています」


 ライザが「視て」取得してくれていた情報を伝えてくれます。

 ミラープディン……、挑戦者をスキャンしてその人の姿をとり、その人ができることを再現してしまうモンスター……。

 私自身と戦っているような感覚で本当にやりにくかったです。


「バラバラで挑む、っていうのもナシだよね? 最後、セツちゃんとかマーチちゃんとかクロさんとかシニガミちゃんとか増えてたし」


 キリさんがライザに確認しました。

 個人もしくはパーティ単位でミラープディンに挑むのは現実的じゃないよね? と。

 それは私も思っていたことでした。

 キリさんの言葉を受けて、パインくんがハッとします。


「そ、そっか……! セツさんとマーチちゃんとクロさんと、あとたぶんシニガミさんの四人だけは二人いた……! 16体が標準なんだ……!」



――あそこのエリアボスは16体が標準。



 まさにその通りでしょう。

 私たちを模したのでてっきり私たちそっくりな12体が相手なのか? と錯覚していましたが、12人で挑んでも相手は12体ではありませんでしたから。

 向かってきたのは16体……。

 一人で挑んだからと言って相手が一体になる、とは考えにくいです。


「そうですね。一人で挑んでも16体を相手しないといけねぇ仕様のようです。分けて戦いに行くのは自らハードモードにするようなもんなので推奨いたし兼ねます」


 ライザが肯定したことで、絶対に12人で挑む、ということは決定しました。


 前提は決まったのですが、問題は……。



――攻め方です。



「で、でも、どうするの? あたしのコピーはあたしのスキルの効果を乗せた状態で技を使ってきたのだけれど……」

「僕のコピーは『バイロケーション』を使ってた……!」

「……私の『ダーインの遺産』もコピーされてたわね」

「ススキちゃんの『大爆発』とボクの『堅牢優美の障壁』も……」

「ボクのコピーはスリングショットを装備してて魔石も使ってたの。リゼも増やしてたし……」

「……断定。相手の装備、全部、私がつくったものだった」

「うちはずっとライザのコピーに追われてたよ……。チョー大変だった。あの素早さはセツちゃんのポーションの効果受けてるって。攻撃はそんなしてこなかったから助かったけど」


 こっちの姿、ステータス、スキル、技、状態、装備、所持アイテムを再現するプディン……。

 こんなの、どう対応すれば……っ。


「……もっと強化する必要があるのでしょうか?」

「でも、それだと相手も強くなる気がするの」

「……装備で特殊効果をコピーされないようにする?」

「そんなことできるのかしら? ライザさんの『アナライズ』を封じてたのよ?」

「……ああっ! 僕が『黒粒子化』を持ってたら……!」

「勝ててたかもしれないっすっけど、その場合はみんなと一緒に行動してないっすよね、美珠?」

「……あっ! 『強制転移』っていうのがあったわよね! それであの部屋の中に閉じ込めてるあいつをボス部屋に送り込んで全ての敵がそいつに変わるのを待ってから同じく『強制転移』でボス部屋に突撃する、っていうのはどうかしら!?」

「うわっ、それえっぐ……! けど、それができたら楽ではあるかも。そこんとこどうなん、ライザ?」

「無理ですね。ボス戦が始まると転移系のスキルを使っても部屋の中には入れない仕様になっていやがります」

「正攻法じゃないと無理なのかな? ……ちょっとひどいやり方だったからできなくて少しホッとしちゃったけど……」


 みんな、頭を悩ませていました。


 私たちが強くなったら相手も強くなってしまう……。

 『黒粒子化』があればクリアできたかもしれませんが、今そのスキルを取得することは不可能……。

 『強制転移』でずるをすることもできない……。


 ……あれ?

 彼女たちの話を聞いていて、私はふと思いついたことを口にしました。


「ねえ、もしかしたらなんだけど――」

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