第340話(終・第九章第20話) 「運営」の本気7

~~~~ 第十四層エリアボスの間・入口付近 ~~~~



【セツが半透明な何かに投げ飛ばされた時のこと】



「あがっ!?」

「セツ!」


 ライザたちは戦慄していた。

 セツが容易く投げ飛ばされてしまったのだ。

 あのセツが。

 彼女たちのギルドのメンバーの中で一番強いといっても過言ではないあのセツが。


 入口とは対面になる壁にぶつけられたセツの元にものすごい速さで迫っていく半透明な何かの姿を捉えたライザはハッとしてセツを助けに向かおうとする。

 しかし、



――十体を超える半透明な物体が彼女たちを取り囲んだ。



「っ!?」


 言葉を失うライザたち。

 実は、ライザだけはこうなる可能性があることを知っていた。

 だが、知っているだけ、と、実際に見る、のとでは感覚が異なる。

 見た光景があまりにも衝撃的で、ライザの反応は他のメンバーたちのものと同じになってしまっていた。

 彼女たちの目に映ったもの、それは――自分たちの姿をした敵だった。


 半透明のマーチ

 半透明のライザ

 半透明のクロ

 半透明のサクラ

 半透明のススキ

 半透明のパイン

 半透明のキリ

 半透明のコエ&カラメル

 半透明のシニガミ

 半透明のアンジェ

 半透明のベリア


――ミラープディンズ。


 それが第十四層のエリアボスの名前だった。



 セツたちの姿に化けたミラープディンズは、彼女たちのような動きをする。


 半透明な分身体を生み出した半透明なシニガミ。

 それを見たライザは我に返り、


「シニガミ! あれを押さえてください! あんな数で攻められたらひとたまりもありません!」

「わ、わかった!」


 シニガミに指示を出して「半透明なシニガミたち」を止めてもらう。


 そうしているうちに半透明な真っ赤な剣を数十本生成していた半透明なベリア。


「っ! あいつ、私の力を……! あれは私がやるわ!」


 それを見たベリアが自分のスキルを使われたことが気に食わなくなる。

 ライザに言われるまでもなく真っ赤な剣を生成して半透明な真っ赤な剣と交わらせた。


 次に動いたのは半透明なサクラ。

 瞬間的にライザに迫りその首を刀で切り落とそうとしてきた。


「いっ!?」


 ライザは短い悲鳴を上げる。

 だが、彼女の首は繋がったままだった。

 サクラが鞘(納刀中)で半透明なサクラの攻撃を受け止めたからである。


「大丈夫!? あれの相手はあたしがやった方がいいかしら!?」

「た、助かりました! お願いします!」


 スキルの特性上、間合いを取って刀を鞘に納める半透明なサクラ。

 サクラと半透明なサクラは睨み合った。


 その次に仕掛けてきたのは半透明なススキ。

 ライザに接近してスキルを使おうとしてきた。


「ライザさん!」


 それをパインが障壁で防ぐ。

 それで半透明なススキのスキルは防ぐことができた。

 しかし、そのタイミングで半透明なクロが障壁もろともパインを狙ってくる。

 なんでも壊せてしまえると想像できる槌を大きく掲げて勢いよく振り下ろしてきた半透明なクロ。


「ひぃっ!?」


 パインが身を強張らせるが、半透明なクロは彼から見て左方向へと吹っ飛んで行った。

 やったのはクロ。

 槌を横にフルスイングして半透明のクロを打ったのである。

 そのままクロは半透明のクロを仕留めるべく、それが飛んで行った方へ駆けていった。


 守っているだけではダメだ! とススキが一発逆転をかけて『大爆発』を行う。

 ところがそれは、半透明なパインの障壁で防がれる。

 それだけではなく、HPが1になったススキを狙って魔石の弾が飛んできた。

 半透明のマーチの仕業だ。

 相手のマーチの攻撃はパインの障壁がなんとか間に合って無事だったススキ。

 彼女たちがホッとしたのも束の間、半透明のススキが『大爆発』を起こした。

 パインがとっさに仲間を障壁で守る。

 今度は本物のマーチが、HPが1になった半透明のススキを狙うが、それは相手のパインによって阻まれる。

 一進一退の攻防だ。


 相手の『大爆発』がもたらした白煙に紛れて移動する何かをライザが感じ取る。


「っ! くそったれが!」


 それはパインを狙っていた。

 ライザは急いで駆け寄り、それを蹴り飛ばした。

 ライザがノックバックさせたもの、それは半透明のキリだった。

 ダメージを与える瞬間以外その存在を認識できないようにすることができる半透明のキリ。

 ライザは『アナライズ』があるので見破れるが、他のメンバーはそうではない。

 実際に迫られていたパインでさえ、近づかれていることに気づいておらず目をしばたかせていた。

 神出鬼没な半透明なキリは、その位置を把握できるライザが見張っておかなければ危ない。


 逃げる半透明のキリをライザが追うのを見て、本物のキリは、ライザのサポートをしたい、と考えて動き出そうとしたところ、キリは襲われた。

 半透明のライザに。

 それに目をつけられたキリは逃げ回ることを余儀なくされる。


 そしてコエだが、彼女は半透明のカラメルに攻められていて、本物のカラメルがそれを防いでいた。



 どこものっぴきならない状況で「帰還の笛」を使う余裕なんてなかった。

 相手が自分たちを模しているようで力が拮抗している。

 隙をつくってしまったら押されてしまう。


 なんとか劣勢にならないように抗っていたライザたちであったが、均衡は崩れることになった。



――一人離れたところにいるセツが、二体の半透明はセツに嬲られているのを目撃してしまったことで。



 彼女たちは取り乱した。

 セツがやられていることに。

 そして、



――彼女にだけ、二体の半透明な存在がついていることに。



「な、なんで……っ」

「お姉さんのとこだけ……!?」

「二体ともセツさん……!?」

「何故セツさんだけ……!?」

「も、もし、一人一人がセツさんの力を持ってるとしたら……!」

「セツちゃんがヤバい……っ!」

「ふ、増えて向かおうにも邪魔されて……!」

「これ、こっちにいるのも増える、なんてことないわよね!?」

「阿月! それフラグになるからやめるっす!」

「セツさん……!」


 ひどく動揺したがそれでも。

 自分たちを攻めてくる半透明の物体の攻撃を防ぐことはできていた。

 辛うじて、ではあったが。


 相手が優勢になってしまったのは、


「……くそったれが! やらかしました! あの四体、全く動いてなかったから、って一人称わーは油断してやがりました……っ!」



――相手が16体だったこと。



 セツたちと同じ数だけ動き出して、残りの四体は微動だにしていなかったため、彼女たちはライザも含めて、敵は12体だと思い込んでしまっていたのだ。

 その四体は追加で、セツ、マーチ、クロ、シニガミに形を変えていた。

 半透明のシニガミが二体になったことで増えるスピードは本物を超える。

 さらにそこに二体の半透明のマーチがリゼの複製を何体もつくり始める。

 ぶっ壊れ性能の特殊効果を40も武器・防具につけられる敵クロが二体に増えたら、恐ろしい以外の言葉はないだろう。


 ライザは判断した。


「て、撤退します! スキル変更『二人の絆』! アンジェ! 『天使の歌声』を!」

「りょ、了解っす!」


 ライザは、アイテムを使った時指定した対象にもその効果を得られるようにするスキルを取得してセツを指定、それからアンジェに『天使の歌声』を使うように指示。

 無敵になった瞬間、予め万が一の場合に備えて決めていた通りにセツ以外の全員が「帰還の笛」を使用し、戦闘を離脱した。

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