第334話(終・第九章第14話) 「運営」の本気1

「ありがとうございました、ススキさん! 一時はどうなるかと……!」

「い、いえ……。私はライザに従ったまでですから」


 第十三層のエリアボス・オトギモンスターズは、ススキさんがいたことで倒すことができました。

 『パラダイムシフト』の効果でオトギタチシェスの防御力はカンスト状態から「1」に。

 他のオトギモンスターたちを障壁で守っていたオトギタチシェスでしたが、自身に障壁を展開することや『絶対防御』を使用するのは間に合いませんでした。

 サクラさんが、ススキさんが『パラダイムシフト』をオトギタチシェスに掛けたのを見て瞬時に動いたのでオトギタチシェスはサクラさんの圧倒的な素早さについて行けず切り伏せられたのです。


 オトギタチシェスがいなくなったことで戦況は一変。

 何重にも張られた障壁はクロ姉の力をもってしても壊したそばから補充されていて突破することができなかったのですが、その障壁を展開するオトギタチシェスが敗れたことで守られなくなったオトギスクオスを圧殺。

 オトギスクオスがいなくなり『投擲反射』の脅威がなくなったことを瞬間的に理解したマーチちゃんがオトギアホクビを秒で討ち破りました。

 味方がいなくなってしまったら、『分身』と『残像』が主な戦術だったオトギリスセフはただ逃げるだけです。

 分身体を増やしに増やして囮に使われもしましたので、本体を捕まえるのには一苦労でしたが……。


 私が今回の立役者であるススキさんに感謝の言葉を伝えると、ススキさんは謙遜します。

 ライザのおかげだ、と。

 確かにライザも(いつもながら)ファインプレーだったと思います。

 彼女がエリアボスの情報を得られなかったことで、このダンジョンには何かがある、と睨まなければ私たちはいつもの四人でこのダンジョンに挑んでいたでしょうから。

 その場合、


 オトギスクオスに私のポーションとマーチちゃんの行動を封じられ、

 オトギタチシェスがつくった障壁を打ち壊すことができず、

 オトギリスセフの数に翻弄され、

 オトギアホクビは障壁と『投擲反射』に守られているためやりたい放題される、


 という事態に陥っていたかもしれません。

 私たちにはライザがいて彼女なら何か閃いてくれる可能性がなくはないので、倒すのは絶対に無理だった、とは言いきれませんが、下手をすれば全員やり直さなければいけない状況に追い込まれていた可能性もあります。

 それを踏まえると、ススキさんが私たちと一緒にいてくれたことには大きな意味があるように思えました。

 ですから私は、やはりススキさんには感謝すべきだと感じます。


「それでもススキさんがいなかったら大変なことになっていた気がするので。あなたのおかげでみんな無事だったのだと私は思います」


 私がそう言うと彼女は、


「あ、あはは……。本当に私は何も……。今度からはライザに言われる前に気づけるようになりたいですね。自分のスキルですので……」


 一瞬暗い表情になりましたが、自分のスキルで解決することができる問題が出てきた時そのことに自分で気づけるようになりたい、と決意して、自力で表情を明るくさせていました。

 今のススキさんの気持ちは私にもわかる気がします。

 生じた問題を解決するのに自分のスキルが一番向いていることくらいは自分が最初に気づきたい、という気持ちは私も同じでした。

 いつも真っ先に気づくのはライザです。

 彼女がそういったことに適したスキルを持っているのはわかっていますが、いつまでもライザに頼ってばかりではいられない、とは常々思っていました。

 ですから私は、密かに目標を立てました。



――ライザからも頼ってもらえるような存在になる、と。




 「光のゲート」をくぐって、第十四層へ。


 第十四層古代エリア「ジュラジュラの街」。

 そこは原始時代のような、文明が未発達な印象を受ける場所になっていました。

 教科書で見たような竪穴の住居が並んでいます。

 NPCの住民たちも生物の皮や毛でつくったような服を着ていて、現実とのギャップがすごい……。

 ただ、ゲームだからなのか普通に会話をすることができました。

 言葉が通じなくて武器を手に取り囲まれたりしたらどうしよう……、と心配していましたが杞憂でした。

 それと、このエリアには恐竜がいるのだとか。

 ……時代設定、おかしくないですか?

 ゲームだからいいのかな……?


 とりあえずライザが、嫌な予感がしていた第十三層はクリアできたので、これからの攻略はパーティごとにするのか、このままの体制で続けるのか、どうするのか? と確認してみると、彼女は渋い顔をして返してきました。



「……まだギルドで行動しましょう。ここ、エリアボスだけでなくダンジョン4そのものの情報を抜き取れねぇように措置が施されていやがります」



 第十四層も第十三層に続き……いいえ、それ以上に『アナライズ』対策がなされている、とのこと。

 第十三層があれだったので、分かれて攻略するのは危険、と判断した私たちは引き続きギルドメンバー12人体制で挑むことにしました。



 第十四層ダンジョン4は「古代文明の地下遺跡」という場所でした。

 エリア北側にある環状列石の中に入るとダンジョン空間に飛ばされます。

 早速地下に繋がる階段がありB1階へ行くと、降りてきた階段が消失しました。


「えっ!?」

「も、もう!?」


 私たちは驚かされました。

 何故ならこの演出は、



――モンスターフロアに入った時の演出だったのですから。



 現段階では最難関のダンジョンで初っ端から逃げ道を塞がれる、という展開は精神的に追い詰められたような感覚にさせられます。

 何が出てくるのか? とものすごく警戒させられましたが、出てきたのはリスセフ二体。

 罠を疑ってびくびくしながら倒しました。

 すると下りの階段が現れて……。


「……え?」


 ……え?

 終わり……ですか?

 もしそうなら、拍子抜けもいいところですが……。


 みんな、戸惑いながら階段を降りていくと、



――消失する下ってきた階段……!



「はぁ!?」

「また!?」


 そこはモンスターフロアになっていて……!

 に、二連続です!

 私たちの警戒がピークに達するなか現れたのは、



――二体のアホクビ……!



「……ん?」

「……あれ?」


 なんなのでしょうか、これは……?

 ふざけているのか、それとも……。

 このダンジョンで「運営」が何をしたいのかが計り知れません……。

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