第333話(終・第九章第13話) 第十三層「モンスター実験室」2
「うぐ……っ!?」
「「「「「「「「セツ(さん)っ!」」」」」」」」
撥ね返された耐性を貫くバステポーションによって私は立っていることができなくなりました。
床へと崩れていく私を見た仲間のみんなの慌てた声が耳に聞こえてきます。
完全に伏してしまうとみんなの士気に関わってくる! と判断した私は、前のめりに倒れていく最中で復活薬がその効果を発揮すると同時に大きく一歩足を出して踏ん張りました。
「だ、大丈夫……!」
「「「「っ! よ、よかった……!」」」」
これで仲間の戦意が失われなくて済むはずです……!
しかし、困りました。
このスクオスの先ほどの動き……。
ポーションを使うのを止められないタイミングで割り込んでくるなんて……っ。
それに、このスクオスはライザとクロ姉が押さえてたはずなのに……。
私が抱いた疑問、それを私が口にする前に
「こいつら、『バフ上限撤廃』も持ってやがります! オトギリスセフがオトギスクオスに素早さバフを掛けたことでオトギスクオスの素早さがカンスト状態になっていやがります!」
ライザが、その気になっていたことの答えを教えてくれました。
『バフ上限撤廃』による素早さカンスト状態……。
これはかなり嫌な状況です……!
投擲が無理なら……!
一撃でHPを削り切れれば特殊効果も関係ないかもしれない、と投げて倒そうとしたのですが、
――ピシャッ!
「うぐっ!?」
突然目の前にハニカム構造の壁がつくり出されて、私が攻撃するのを妨害されて弾かれてしまいました。
透明感がないため『堅牢優美の障壁』ではないでしょう。
敵の誰か……!
見渡すと、少し離れたところにいるタチシェスが私のことをじっと睨みつけるように見ていることに気づきます。
これをやったのはあのタチシェスだと直感しました。
タチシェスのことを観察していると、リスセフがものすごいスピードで迫ってきて……!
私の顔を目がけてその二本の尻尾を振り回してきました!
顔を上にあげるようにしてなんとか回避して、相手から距離を取ります。
私たちは一カ所に固まりました。
その時にライザが口を開きます。
この部屋に入ったことでそれまでは遮断されていた情報が得られた、とのこと。
知ることができた情報をライザは開示してくれました。
その間も、相手は黙って待ってくれる、ということはなく、迫ってくるのをいなす必要はありましたが……。
第十三層のエリアボスはオトギモンスターズ。
ダメージを与えることに特化しているオトギアホクビ
守ることに特化しているオトギタチシェス
兎に角速いオトギリスセフ
トリッキーな動きをするオトギスクオス
これらが一体ずつの合計四体。
それぞれ得意としていることと苦手としていることが分かれているそうです。
その性能はどれも厄介なものでした。
オトギアホクビは、私たちのHPを減らすことに固執すような特殊効果を揃えています。
受けたダメージを撥ね返す『オートカウンター』、威力を高めて攻撃範囲も広げられる『チャージ』、相手の防御を無視する『防御貫通』、重ね掛けすることで攻撃力をカンストさせられる『攻撃バフΩ魔法使用可』など……。
HPも極めて高く、 回復できる『超再生』も持っているため、生半可な攻撃では倒すことができません。
オトギタチシェスは、ハニカム構造の『障壁』を展開してオトギアホクビたちを守ったり、『防御バフΩ魔法使用可』や、受けるダメージを1にできる『絶対防御』、攻撃してきた相手の体勢を崩せる『パリィ』などがあり、耐久性能が非常に高いそう……。
特に問題なのが『経験値吸収』で、直接触れた相手の経験値を奪って自身のレベルを上げられるのだとか……。
オトギリスセフは、『素早さバフΩ魔法使用可』でオトギアホクビたちの素早さを上げ、私たちの攻撃への対処をしやすくしてきます。
あと、『分身』で自身の数を増やしたり、『残像』で攻撃を躱したり……。
オトギアホクビの魔法で複数の分身体たちの攻撃力がカンストしてしまうとその数の多さに手がつけられなくなる可能性があります。
そうならないように早い段階で数を減らしていかなければなりません。
『人のふんどし』という、対象の装備を奪う特殊効果も有していたそうですが、それはクロ姉が装備に付与してくれた特殊効果で防ぐことができていました。
オトギスクオスは、『投擲反射』や『アイテムばらまき』、『アイテム破壊』など、アイテムに関係する特殊効果を多く持っているとのこと。
『投擲反射』の所為でバステポーションが届きません……。
また、オトギスクオスの直接攻撃が当たると所持しているアイテムを床に散らばらされて、オトギスクオスがアイテムに攻撃するとそのアイテムが消滅してしまうみたいです……。
さらにオトギスクオスは嫌らしい特殊効果を持っていて、それが『偽装』。
敵の見た目を変えてしまうようで、増えたオトギリスセフに使われると面倒なことになるのは想像に難くありません。
オトギアホクビの攻撃はパインくんの『堅牢優美の障壁』で防ぎ、
オトギタチシェスはサクラさんが牽制し、
オトギリスセフの増殖は私、シニガミさん、ベリアさんの三人がかりで食い止め、
オトギスクオスはクロ姉が引きつけ……。
アンジェさんは万が一に備えて待機、
カラメルはコエちゃんの護衛、
キリさんは『急激な気候変動』を使いましたが効果がなかったため隠れていてもらい、
マーチちゃんも『投擲反射』が怖いので……。
ライザも事故を避けるため、今回は戦ってもらっていません。
四体のエリアボスはカバーし合っているため一体でも倒すことができたなら突破口が開けるはずですが、一体ずつ倒そうにも他の三体がそれを許してはくれず……。
かと言って四体を同時に相手にするのでは力不足で倒しきれません……。
相手がその全ての特殊効果を併せ持つ一体であるよりも、四体で連携を取られるこの戦いの方が難しいように感じました。
このままでは……。
精神的な疲労を感じるこちら側の方が不利になります……っ。
相手はAIなのでパフォーマンスが低下することは見込めません。
対してこちらはどうしても下がってしまう……。
これは撤退も視野に入れなければいけないのではないか? そう頭によぎった時。
彼女が言いました。
――「『パラダイムシフト』です、ススキ!」
そう発したのはライザ。
彼女が閃いて指示を飛ばしたのです。
「わ、わかりました!」
言われた通り『パラダイムシフト』を発動するススキさん。
それを受けたのは彼女の一番近くにいたオトギタチシェスでした。
バフがデバフに変えられて防御力が「1」になったオトギタチシェスにサクラさんの一閃が炸裂、オトギタチシェスは一撃で黒い粒子に変わっていきました。
それから決着はすぐでした。
障壁で守られなくなったオトギスクオスをクロ姉が叩き潰し、オトギスクオスのカバーがなくなったことでマーチちゃんの弾丸(バステポーション)がオトギアホクビを仕留め……。
オトギリスセフには逃げ回られ、増え続けられたので少し討伐するのに時間がかかりましたが、私、シニガミさん、ベリアさんで一掃することができました。
確かにここのエリアボスに私たち「ファーマー」の四人だけで挑んでいたら突破することはできなかったかもしれません。
やっぱりライザってすごいですね。
激戦を無事に終えることができたことで私たちはホッとしていました。
しかし、
――「運営」の本気はここからだったのです。
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