第329話(終・第九章第9話) 「ラッキーファインド」が通る3
~~~~ ゲーム内・第七層「アホクビの魔法神殿」 ~~~~
「キェエエエエッ!?」
「よ、よし! 倒せた!」
何回目かの攻撃が入り、最後のアホクビが黒い粒子へと変わっていく。
アホクビを倒した剣を持った青年は肩で息をしていた。
「な、ナイス、メルクリ。なんとか片付いたね」
「か、回復しますね、皆さん……!」
「だ、第七層でこの難易度……。来週解禁されるという第十三層・第十四層を攻略できる気がしませんよ……」
青年は一人ではなかった。
彼には仲間たちがいた。
弓使いの女性と錫杖を持った少女、大楯を持った青年である。
彼らは先ほどまで四体のアホクビに囲まれていたが、それをチームワークでなんとか乗り切っていた。
剣を持った青年が最も敵を倒したり仲間を守ったり、と動き回っていたので、そんな青年に弓使いの女性が労いの言葉を掛ける。
錫杖を持った少女がメンバーのHPの減り具合を見て手当てを行い、大楯を持った青年が愚痴を零していた。
彼らの後方には一人の人物がいる。
その時計の杖を持った魔法使いが彼らに声を掛ける。
「あと少しだからと気を抜いてはいけませぬぞ?」
時計の杖を持った魔法使いは青年たちの指南役であった。
青年たちがピンチに陥った時、彼のスキル『全部俺のターン!』でカバーし、青年たちがやられないように付き添っていたのである。
そうしていたのは、彼が彼らのギルドのギルドマスターだったからに他ならない。
時計の杖を持った魔法使いのサポートがあって、青年たちは「アホクビの魔法神殿」ダンジョンの27階まで上ってくることができていた。
あと一つ上に行ければ最上階だ。
ここまで来て、油断していたことでピンチに陥って「帰還の羽」を使わざるを得なくなって逃げ帰った、となってはシャレにならない。
青年は、気を引き締めて進もう! とパーティのメンバーに注意を促そうとした。
その時。
――ドドドドドドドドッ
聞こえてきた足音。
その音は一つや二つではない。
数十もの足音が重なって聞こえてきていた。
「な、何か来る! みんな、気を付けて……!」
何かわからないがすごい数がこちらにやってきている……! そのことを感じ取った青年は警戒した。
青年の言葉に、他のメンバーたちも身構える。
ただ一人、時計の杖を持った魔法使いだけは無言で柱の方へと寄って行っていたが。
少しの時間が経ち、壁で見えなくなっている位置から姿を現したのは、
「「「「「ご、ごめんね、通るね!?」」」」」
「「み、道を譲ってくれて、あ、ありがとう……!」」
「「「あっ、トラップ! ここ剣山あるから気を付けて!」」」
「えっ!? ひぎっ!? 貫通ダメージ痛い……!」
「「「「あ……っ! 増えすぎて押されて罠の魔法陣の中に入れられちゃってる『僕』が出ちゃってる……!」」」」
黒い神官服を着た整いすぎている顔立ちの人物。
……と、全く同じ人物が百人以上。
「「「「まっ!?」」」」
現実だったとしたらあり得ない光景を唐突に目の当たりにした青年たちは素っ頓狂な声を上げてしまう。
数えきれないほどの同じ容姿、同じ体格の人物たちが走って自分たちの方に向かってきているというインパクトの大きさに、青年たちは反射的に道の端に寄っていた。
黒い神官服を着た同じ顔の人物たちが彼らの目の前を通過していく。
(その中に二人ほど違う顔の人物が混じっていたが、青年たちは気づかなかった)
青年たちはその人たちの後姿が見えなくなったあともしばらくの間その人たちが消えていった方を眺めながら呆然としていた。
時計の杖を持った魔法使いが手を叩きながら呼び掛けたことで青年たちは我に返りダンジョン攻略を再開させた。
先ほどあったことは、そのことに思考を割かれるといざという時とっさに対応できなくなる恐れがあるため彼らは一旦あの光景を頭の隅に追いやることにした。
そうして十分ほど探索や戦闘をこなしてボスオートマが待機する部屋の前まで辿り着く。
安全地帯に入り、少し休憩してからボスに挑もう、と決まったところに。
一人の女の子がやってきて、すぐにボスに挑まないのなら先に挑んでもいいか? と尋ねてくる。
オーバーオールを着た黒髪おさげの小さな女の子が。
すぐに挑む気がなかった青年たちはその子に順番を譲ることにした。
どこかで見たことのある子だな……、と引っ掛かりを覚えながら。
おさげの女の子が階段に向かって行って、あともう少しで安全地帯の出入口が封鎖される位置に到達する、といったタイミングで白衣を着た少女が安全地帯に滑り込んできた。
その少女は女の子に文句を言う。
なんで先に行っちゃうの!? と。
この発言から、少女と女の子が一緒に攻略していたことは明らかだ。
おさげの女の子は少女からの問い詰めに、ああいうことはゲームを始める前に済ませておいてください、と返していた。
少女はゲームの世界ではできないことをするために現実に戻っていたのだ。
言い分としては、おさげの女の子の方が的を射ていたため、文句を言った少女の方が謝ることになっていたが。
ただ、そのやり取りを剣士の青年たちは聞いていなかった。
薬師の少女を見た瞬間、彼らはその子から目を逸らせなくなっていたのである。
おさげの女の子がボス部屋への道を開けて入って行ったものだから、少女は青年たちに深く頭を下げて女の子のあとを追っていった。
ボス部屋へのゲートは……閉じ切る前に開通。
そのことに青年たちは仰天した。
白衣の少女がおさげの女の子に手を引っ張られてボス部屋から出てくる。
青年たちは絶句してしまっていた。
青年たちの前を通り過ぎていった少女だが、最上階へと繋がる魔法陣の前で女の子を諭し、立ち止まって振り返る。
それから声を掛けてきた。
「あの、クロノスさん、ですよね? あの時は協力していただいてありがとうございました! 最近は来店されていないみたいですけど、また是非、お店の方に寄ってください!」
時計の杖を持った魔法使いに。
用が済んだと見た女の子に引っ張られて魔法陣へと進めさせられた少女は付け足すように、クロノスさんのお友だちの皆さんも歓迎しますから! と言って、光に包まれて姿を消していった。
「いやはや……。嵐のように来て去って行かれますな、『ラッキーファインド』の店長殿は……」
時計の杖を持った魔法使い・クロノスは今の一連の出来事に感心を通り越してもはや呆れていた。
青年たちはというと、言葉を紡げられる心理状態ではなかった。
実は、剣士・メルクリ、弓使い・テラマーテル、神官・ウェンティ、盾使い・マルスの四人は薬師の少女とは随分前に会っていた。
事件を起こした迷惑プレイヤー・アメショを無力化する作戦を決行する時にも会っているが、その時が初めてではない。
彼らが「ラッキーファインド」のお店に来た時……は、対応したのは薬師の少女ではなく、そこでは会っていない。
彼らが初めて薬師の少女と会ったのは、
――第一層「スクオスの森」ダンジョン。
助けを求める少女を突き放した人たちの中に彼らは含まれていた。
その時のことを、彼らは少女の顔を見た瞬間に思い出していた。
なんであんなことをしてしまったんだ、とひどく後悔して掛ける言葉を見つけられないでいた彼ら。
(緊急クエストの時もそうだったため成果を出せなかった)
責めてくれればまだ謝るきっかけを得られたかもしれない。
だが、皮肉なことに。
少女の方は彼らのことを憶えていなかった。
彼らの後悔は、まだ続くことになりそうだ。
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