第328話(終・第九章第8話) 「ラッキーファインド」が通る2

~~~~ 十二月十二日(ゲーム内) 第七層「アホクビの魔法神殿」 ~~~~



「くっそ……っ。なんなんだよ、このダンジョンは……!」

「嫌だ……! もう戻されたくない……!」

「トラップが多すぎる。安定の『運営』。心折しんせつ設計……!」


 あるパーティが第七層の最難関ダンジョン「アホクビの魔法神殿」を攻略していた。

 彼らはそのダンジョンの至るところに設置された罠の魔法陣に翻弄されて神経を衰弱させていた。

 第七層のダンジョンは階段ではなく魔法陣を使って上の階へと上って行く構造をしている。

 しかし、それゆえにどこが正規のルートなのかわかりづらく、上の階に転送してくれる魔法陣のダミーとして、下の階に戻す魔法陣であったり、モンスターハウスに送られる魔法陣であったり、フロア中のモンスターを呼び寄せる警笛の魔法陣であったり、バステやデバフを盛ってくる魔法陣であったりと、様々なトラップが仕掛けられていた。


 彼らはもう、限界寸前だった。

 そのため、ダンジョン踏破イベントで集めた白い魔石と交換することで手に入れていた「簡易テント」を使って休むことにする。

 彼らが、諦めずに進むか、それとももう無理だと判断して戻るか、話し合いをしていた時だった。


 近くの魔法陣から一人の人物が現れる。

 その人物は黒い神官服に身を包んだ顔がものすごく整っている人物であった。

 体格からして女性であることは一目瞭然で、男だらけのパーティであった彼らはその人物に見惚れていた。


 彼らは三人のパーティであった。

 そのため今魔法陣から現れた人物に、一緒に攻略しないか? と誘おうとする。

 女性がいたら頑張れる気がしたのだ。

 そしてあわよくば、かっこいいところを見せてパーティに加わってもらえたなら……! などと考えていた。

 しかし、男たちのリーダーが女性に話し掛けようとした瞬間、魔法陣が輝きだしてまた人物を召喚した。

 黒い神官服に身を包んだ顔がものすごく整っている人物を。

 先ほどやってきた女性と瓜二つ。

 男たちは落胆した。

 どうやら双子っぽいので二人はパーティを組んでいるのだろう、ということは彼女たちを誘うと五人で行動することになって経験値を得られなくなってしまうから一緒に行動することはできないな……、と。

 それでも惜しい気持ちはあって、彼女たちのことを眺めていた。

 次の瞬間、またしても輝きだした魔法陣。

 そして現れた、



――黒い神官服に身を包んだ顔がものすごく整っている人物。

 


 男たちは目が点になる。

 双子ではなく三つ子だったのか……? と解釈しようとした。

 だが、まだ終わりではなかった。

 四人目の黒い神官服に身を包んだ顔がものすごく整っている人物が現れる。

 それだけにとどまらない。

 五つ子、六つ子、七つ子……、とどんどん増えていき……。

 黒い神官服に身を包んだ顔がものすごく整っている人物の数は二十人を超えた。

 男たちは開いた口が塞がらなくなった。


 男たちは、どこかの男性アイドルのような人物が自分自身を増やすことができるスキルを持っている、という認識をしていた。

 だから、同じ女性がこれだけ存在していても、それはスキルとは関係のないことだと捉えていた。

 優に五十を超えた同じ姿の女性たちを見て、男たちは思った。



――ああ、疲れてんだな、俺たち……。



 と。

 男たちは「帰還の羽」を使って帰ることにした。



~~~~ セツ視点 ~~~~



 第六層をクリアした時は、現実で大体午後六時半という時間だったためその日の攻略はこれで終了ということになりました。

 第七層の街で私たちはログアウトしました。



 翌日(十二日)。

 ③の二十時ちょっと過ぎにコエちゃん、シニガミさんと集まって攻略再開です。


 「リスセフの氷の宮殿」ダンジョンに挑んだ時のように、カラメルにコエちゃんにバフを掛けてもらって、私たちは第七層ダンジョン4「アホクビの魔法神殿」の中へと入って行きました。

 このダンジョンは階段ではなく魔法陣を使うことで上の階に進める構造をしています。

 私はこのダンジョンを一回攻略していますが、その時はライザがいました。

 彼女が先導してくれたため最上階まで最短ルートで上ることができていましたが、彼女に頼りきりだったため、頭の中に地図が残っていませんでした……。

 私はそのことを素直に打ち明けて謝りました。

 これでこのダンジョンを踏破できるのだろうか? と私は不安を覚えていたのですが……。

 シニガミさんが有能すぎました。



 シニガミさんの『バイロケーション』



 通常なら分身体と思念伝達はできなかったそうなのですが、『バイロケーション+』にパワーアップしたことで分身体と思っていることを言葉にせずに通わすことが可能になっていました……!

 この「シニガミさん連絡網」を使ってダミーの転送魔法陣を回避、無事に上階へと上ることができました。

(分身体に魔法陣の上に立ってもらうことで)

 ですので、とってもスムーズでした。

 罠の魔法陣は一度発動したら一定時間が経過しないとその機能を取り戻せないみたいだったので、回復する前に通過させてもらって。

 バステ・デバフにしてくる魔法陣もありましたが、クロ姉が付与してくれた特殊効果で私たちには効きませんでしたし……。

(私は装備ではなく自作のポーションで防ぎましたが)



 最上階を目指している最中。

 24階の安全地帯でアンジェさんとベリアさんに逢いました。

 くたくたに見える二人……。

 彼女たちは昨日(現実)からこのダンジョンに入っているため疲れていても仕方がないと思います。

 何時間もダンジョンに挑んでいるのにクリアできない、というのは精神的に参りそう……。

 そのストレスは相当なようです。

 シニガミさんが、一緒に行こう、と言うと、いつもなら反発して嫌味を言うベリアさんが今回は素直に応じるほどだったので……。


 ちなみに、サクラさんたちは第八層に進んでいるそうです。

 人数制限のペナルティを受けないために別行動をとっていた、のだとか。



 アンジェさんたちとの合流後、私たちはシニガミさん、アンジェさん、ベリアさんの三人と、私とコエちゃんの二人に分かれることになりました

 私と回りたい、というコエちゃんたっての要望です。

 カラメルも、そうしたい! と言っているようでした。

 なので、私がライザに頼まれたことは一応終わっていたわけですが、コエちゃんたちの望みを叶えるため、また経験値が入らなくなるというペナルティを避けるために班割りをした形です。


 シニガミさんたちが先に行って少し経ってから私たちも攻略を再開しました。

 シニガミさんたちと別れる前にカラメルがシニガミさんに向けて何かをしていましたが……。

 私が、攻略二回目なのにルートを全く憶えていないことを改めて二人に謝っていると、カラメルがその形を変えました。

 行く場所を指し示すように。

 それに従って歩いていくと、上の階に繋がる魔法陣の元に着くことができたのです。

 カラメル、どうしてわかったの!?

 す、すごすぎます……っ!

(あとでわかったことなのですが、カラメルはシニガミさんに小さな分身体をつけていて、それを発信機のように使っていたそうです)

 ……というか私、不甲斐なさすぎでは?

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