第327話(終・第九章第7話) 「ラッキーファインド」が通る1
「なあ、あんたら。次、譲ってやるよ。俺たちはもう二回くらい敗走させられてるからさ。この二組とももう顔なじみだ。いいだろ、お前ら?」
順番待ちをしていたうちの一人が私たちに向けてそう言ってきました。
その表情はにやにやとしていて何か思惑があるように感じられます。
「お、おい、そんな勝手なことを……っ」
「次は俺らの番だったんだ。俺らが最後尾に回るからいいだろ? あの子らを先にやらせてやろうぜ?」
「ま、まあ、それなら……」
エリアボスに挑む順番を変える、ということで少しだけ揉めたようですが、話はまとまったようです。
「というわけだ。お先にどうぞ」
この人が私たちに順番を譲ることにどのようなメリットがあるのか? と探りたくなりました。
どうすればこの人の意図を計り知ることができるだろう? と考えていると、不意に私たちから結構な距離を取ったところにいる三人の男の人たちが視界に入ります。
彼らは何やらひそひそと話していました。
その顔は、三人が三人とも私たちを嘲笑っているかのようで……。
話している内容は私には聞き取れなかったのですが、コエちゃんがしっかりと聞いていてこっそりと教えてくれました。
「『俺たちでも何回も逃げ帰ってるんだ』、『そうだそうだ。「ファーマー」気取りの世間知らずを連れててクリアできるわけがない』、『無様に敗走するところを嗤ってやろうぜ』、『ああ、そうしよう』……だそうですよ?」
「なるほど……。ありがとう、コエちゃん」
どうやら、私たちのことをよく知らない彼らは私のことを、「ファーマー」ではない、と誤解していて、身の程を弁えろ、と考えているだけみたいでした。
何か仕掛けている、というわけではないのなら、お言葉に甘えさせてもらいましょう。
こちらも急いでいるわけですし。
好都合です。
「あっ、ありがとうございます! 行こう、コエちゃん、シニガミさんも」
私は順番を譲っていただいた方たちにお礼を言って、コエちゃんとシニガミさんと一緒に大きな扉をくぐっていきました。
「……まあ、精々頑張るんだな」
という誰かの声を背に受けながら。
……まあ、第五層のエリアボスは入った瞬間に「シニガミさんたち」とカラメルが屠ってしまいましたが。
(……私は何もしていません)
私たちはそのまま第六層へと進んでいきました。
~~~~ 第五層ダンジョン4「スクオスの天空城」エリアボスの前の間 ~~~~
「けっ。雑魚をキャリーしながらここのボスが倒せるもんかよ。泣きながら帰還するのがオチだっつーの」
セツたちに順番を譲った男のパーティ4人が無様に敗走するセツたちのことを夢想しながら嗤い合う。
「ああ……扉が……。あの子たちは大丈夫だろうか……」
順番を守れ、と言っていた人とその仲間たちはセツたちのことを心配する。
「気にするのは無意味。負けるってことはあの子たちが弱いのがいけないんだ」
もう一つのパーティは関心を示していなかった。
それから間もなくエリアボスの間へと続く扉は固く閉ざされた。
その扉の前にいる誰しもが、それほど時間もかからずに終わるだろう、と予想していた。
実際、その通りだった。
扉はすぐに開けられるようになる。
――彼女たちが入って行った四秒後に。
『戦闘が終了しました。ゲートが通行可能になります』
「えっ!? 速っ!」
「なっ!? いくらなんでも速すぎだろ!」
エリアボスの前の間にいた人たちは予想の斜め上の展開に慌ててボス部屋の扉を開けてその中を確認した。
「だ、誰もいない……」
「エリアボスもいないな……」
「『帰還の羽』を使ったんだとは思うが、ボス部屋に入ってすぐ使うなんて……チキン過ぎないか?」
エリアボスの間は静かなものだった。
誰も、何もいなかった。
扉の前にいる彼らは、あの子たちは「帰還の羽」を使って逃げ帰ったのだろう、と結論付けようとした。
その時、
「――あ」
セツたちに順番を譲った男のパーティの一人がそんな声を漏らした。
何かを発見した、というような声を。
「なんだ? どうした?」
「あ、あれ……」
パーティの一人は本当に何かを見つけていた。
その人物が指を差すその方向に彼ら全員の視線が集まる。
そして、
「「「「「「「「っ!?!?」」」」」」」」
震撼した。
そこにあったもの、それは、
――エリアボスを倒さないと出現しない「光のゲート」だったのだから。
扉の前にいる彼らの予測は当たっていた。
ただしそれは、すぐに終わる、という部分に関してのみ。
一秒(以内)でボスを倒し、一秒(以内)でドロップアイテムを回収し、一秒(以内)で「光のゲート」まで移動して、一秒で転移する――そんなことができるなんて、その場にいる誰にも想像することができなかった。
「な、なんなんだよ、あいつら……っ」
彼らは呆然と立ち尽くしていた。
ゆっくりと消えていく「光のゲート」を視界に収めながら……。
~~~~ セツ視点 ~~~~
第五層をクリアしたのが③の23時36分。
シニガミさんと第二層の攻略を始めてから約三時間で四層分進めていました。
一般的な進行速度を考えるとかなり速い方だ、ということをライザに連絡した時に教えられました。
カンストしてる私の素早さが異常でそれを基準にするな、と。
ライザに連絡した理由は、アンジェさんたちの進捗状況を知るためです。
時間も時間なので、彼女たちが第八層に進んでいたら今日はもう追いつけそうにないのでここでやめようかな? と考えて。
ライザに確認すると、アンジェさんたちはまだ第七層にいる、との答えが返ってきたため、私たちは、とりあえず行けるとこまでは進もう、という判断をしました。
その際、ライザから指摘をされます。
『セツ。まさかとは思うんですが、コエの足に合わせてる、ってことはねぇですよね?』
この言葉に最初は、それってコエちゃんに無理をさせろってこと? まさかライザがそんなひどいことを言うなんて……! と思いましたが、続く彼女の言葉に私は驚嘆させられました。
『コエにはカラメルにパフを掛けてもらえば速く移動できますよ? カラメルはレベル的にMPをあまり気にしなくてもいいですし、なんなら敵から奪えますし』
「……あっ」
……盲点でした。
コエちゃんに疲労の具合を、カラメルにバフのことを、それぞれ確認すると二人とも、問題ない、とのことで……。
ライザのアドバイスを実践すると、第六層「リスセフの氷の宮殿」ダンジョンは一時間でクリアすることができてしまいました。
第六層よりフロア数が少ない第五層「スクオスの天空城」ダンジョンを攻略するのには一時間半かかっていたのですが……。
……ちょっともったいないことをしてしまった気分になりました。
ちなみに、第六層のエリアボスの前の間にもちょっとした行列ができていたのですが、第五層の時と同じように順番を譲られました。
第六層のエリアボスも瞬時に倒す(例の如く私は何もやっていません)と、ボス部屋前の間から絶叫が。
急いで扉を開けて確認すると、彼らは私たちのことを恐ろしいものを見るような目で見ていました。
なんでも彼らの中に、プレイヤーとモンスターの位置がわかるサーチ系のスキルを持った方がいて、それでエリアボスの反応がなくなったことに驚愕していたらしいのですが……。
……そんな目を向けて来なくてもよくないですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます