第325話(終・第九章第5話) 大型アップデートの前に2
というわけで私たちは、ギルドメンバー全員が第十三層に到達すること、を目指して動くことになった……のですが。
「ギェエエエエエエエエッ!?」
それから起きた展開に、私は呆然とさせられていました。
ライザと別れたあと。
私はシニガミさんと合流しました。
「あっ、いた! シニガミさん!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「そ、そんなに驚かなくても……」
「ご、ごめんなさい……」
サブハウスの裏手にある秘密のオアシス(背の高い植物に隠されているためそう呼んでいます)の方で膝を抱えながら水面をボーッと眺めていた彼女に声を掛けると、ものすごく驚かれてしまいました。
本当に前のシニガミさんとは違いすぎて少し戸惑ってしまいます……。
彼女が怯えていた様子だったので、そんなに心配しないでも大丈夫であることを伝えようとしたのですが、謝られてしまいました。
うーん……、どう接すればいいんだろう……?
シニガミさんの見た目が変わっていることも、私が彼女に対して戸惑ってしまう要因の一つではありました。
(未だに慣れていません……)
変わったあとの彼女の容姿について、私は触れないようにしてきましたが。
シニガミさんは前の姿に戻りたがっていたし(しかし『黒粒子化』を失ったことに対して、前の彼女の熱狂的なファンがどのような行動に出るのかわからないため戻れなかった)、前の姿とは明らかに違う部分を見られることに抵抗があるようでしたので。
『私』も触れられたくない部分でしたし……。
ですので、彼女に嫌な思いをさせないためにもその部分は見ないようにしていたのですが、まさかのシニガミさんの方から触れてきました。
私の胸をじーっと見るという形で。
「な、何……?」
私は現実の感覚で、とっさに見られていた部分を腕で隠し少し身体を捻るようにしてその部分を彼女の視線から逃れさせようとしました。
すると、慌てだすシニガミさん。
「えっ、あ……っ! ご、ごめん! 女の子の胸を見るなんて最低だよね!? で、でも、そんなつもりで見てたんじゃなくて! そ、その、僕は薬師さんみたいな感じの方がよかったのにな、っていうか! ……あっ、いや、これも失礼だよね!? な、なんて言えばいいんだろう……!?」
必死に弁解をしてきました。
……確か、シニガミさんがギルドに加わった際にアンジェさんが教えてくれましたっけ。
シニガミさんは心と身体の差異に悩んでいる、って……。
シニガミさんはやり直しになった際に急いでキャラ設定を終わらせているそうなので、今の姿の方が現実の姿に近いということになります。
身体は女の子ですが、心はそうではない……。
ですから、シニガミさんは今の自分の姿、特にある一部分が気に入らなくて、そのある一部分でいえば正反対と言っていい今の私の姿を羨ましいと思っているのかも……。
そのことに考えが及んだ私は打ち明けることにしました。
「えっと……。私、設定でスタイルを弄ってますよ?」
「……ふぇ?」
「リアルでは、その、シニガミさんが特に気にしている部分はそれほど変わらないくらいある、と思います……」
「……。ええっ!? そ、そうなの!?」
私が現実の私のことを少し伝えると、彼女には大変驚かれました。
そのあと、同じ悩み(その部分が大きいことを気にしている、という点においては同じと言いきっていいはず)を持つ者同士、嫌なあるある話で花が咲きました。
見られたくないのに視線を集めてしまう、とか。
夏がちょっと大変とか、視線を集めてしまうとか。
運動するには向いてないとか、視線を集めてしまうとか。
こっちの苦労も知らないで妬まれるとか、視線を集めてしまうとか……!
それは言ってもどうにもならない愚痴だったのですが、共感しあえたことでシニガミさんとはだいぶ打ち解けられた気がします。
シニガミさんとの親睦が深まったところで、私はライザが考えていることをシニガミさんに伝えました。
「あっ、そうだ! ライザが言ってたんだけど、来週に大型のアップデートが行われるみたいで、新しく追加されるエリアがどうにも一筋縄じゃ行かなさそう、って考えてるんだよね。だから、みんなで攻略した方がいいんじゃないか、って話になって」
「そっか……。鑑定士さんは鋭いからその予想は当たりそうだね。……あっ、それで一番攻略が遅い僕のところにセツちゃんが来たってこと?」
「うん。そうなる、かな。シニガミさんはアンジェさんたちと合流したら問題なく進めるだろうから早く合流できるようにサポートをお願いする、って」
「ああ、なるほど……」
こうして、一度やり直しになってしまったシニガミさんのダンジョン再攻略がスタートすることになったのです。
……ちょっと話し込んでいたため遅くなってしまいましたが。
私とシニガミさんは「リスセフ遺跡」に向かいました。
ライザによると、『黒粒子化』を失ったシニガミさんは攻撃できるスキルを持っていない、とのことだったので私は、苦戦を強いられることになるかもしれない、と少し心配していました。
彼女が選んでいる職業が、相手を攻撃する際には攻撃力が十六分の一になる神官系のジョブであった、ということも懸念材料の一つだったのです。
ですが……。
「「「「「「「「やあっ!」」」」」」」」
「ギェエエエエッ!?」
「……」
私のこの心配は杞憂でした。
シニガミさん、『黒粒子化』を失っていても強さは健在です。
『バイロケーション+』……あれ、チートな性能をしています。
MPがある限り自分の分身をつくることができる、って……。
ダンジョンに入った時の私は失念していましたが、そもそもシニガミさんのレベルって9,999あるんですよね……。
攻撃も素早さも22万を超えていたんでしたっけ……。
攻撃は十六分の一にされるので1万4千くらいにまで下げられてしまうのですが、それでも第二層を攻略するには十二分。
錫杖を振り回して一発……。
一撃で相手を倒せてしまうのでまったく問題なんてない数値でした。
シニガミさんは、低下してしまう攻撃力を数でカバーする! と言って増えていましたが……。
――今、私の周りには257人のシニガミさんがいます。
これ、過剰戦力というのでは……?
あっ、またリスセフが八人のシニガミさんに錫杖で打たれて消滅していきました。
一人の攻撃で倒せていたので、そこまでしなくてもいいと思うのですが……。
そして、冒頭へ。
「ギェエエエエエエエエッ!?」
「「「「「「「「やったぁ! エリアボスを倒したよ!」」」」」」」」
「……」
第二層のエリアボスを倒してハイタッチをするシニガミさんたち。
……これ、私いります?
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