第324話(終・第九章第4話) 大型アップデートの前に1

 休日。

 首都を超えた先の県にある大図書館に行くと、そこで私が出会ったのは私と同じくらいの子でした。

 ……私よりも年下かな?

 丸みのある輪郭にくりっとした大きな目と耳の上辺りで纏められている短めのツインテールが特徴的な女の子。

 鼻や口は小さめで、身長は私の方が若干高かったです。

(本当に僅かな差でしたが……)

 たぶん、未来と同じくらいなのではないでしょうか?

(私はぎりぎり140センチあって、未来は140センチに満たない、と聞いたことがあります)


 その子ですが、私が彼女に初めて会った時、彼女は棚の一番高い場所にある本を取ろうとしていました。

 懸命に手を伸ばしていたのですが一向に届きそうになく、私が代わりに取ることに。

 ……とはいえ、身長差はさほどないので私が手を伸ばしても結果は同じだったのですが、図書館の中にあった脚立を持ってきてそれを利用して。

 すごく悲しい現実を叩きつけられたような気がしました……。


 兎に角、そんな経緯があって私とその子は少しだけ話しました。

 彼女が求めていたものを抜き出してその表紙を見て私は驚きました。

 ……え? これをこの子が読むんですか? と。

 正直、ちょっと疑ってしまいました。

 何故なら、それは十センチほどの厚さがある英語ではない外国語で書かれた本だったのですから……。

 私が思わず、これはどういった本なのか? と尋ねると、彼女は答えてくれました。

 ドイツ語の医学の本である、と。

 彼女はお医者さんになることを目指していたのです。

 私はその難しそうな本を読む彼女の姿を見て刺激を受けました。

 私ももっと頑張らないと……! と。

 私は目的の本を数冊手に取って、ノートを取りながら学習をしていきました。



……………………



 家から大図書館までは結構距離があるため、行けるのは休日だけ。

 平日は時間の流れが緩やかなゲームの世界で店番をしたり、マーチちゃんたちと会っておしゃべりをしながら、暇な時間にコエちゃんにいろいろと教えてもらっていました。

 あと、十二月の頭には期末テストがあり、三週間ゲームができない時もありましたが。


 そんな日々を過ごして、十二月十一日。

 期末テストは今まで以上の好成績で終えることができ、久しぶりにギフテッド・オンラインの世界にやってきた私に既にログインしていたライザが言ってきました。


「お久しぶりです、セツ。ちょっといいですか?」

「うん。どうしたの?」

「来週、大型アップデートが実施されることが決まったみてぇです。第十三層・第十四層が実装される、とか」


 彼女が教えてくれたのは、250日記念のアップデートの件でした。

 私とライザは第十二層をクリアしているため新エリアが実装されるのを待つだけの状態なのですが……。

 問題は私たち以外にありました。


「アメショの件が片付いたらまたお店に一時的なブームが来たじゃねぇですか? 仕方がねぇことだとは思ってますが、それが収まらねぇうちに二人称なーがテスト勉強で不在だったこともあってまたマーチたちを狩り出してて……。端的に言うと、マーチたちがまだ新エリアに行ける状態じゃねぇんです」

「そ、そうなんだ……」


 ここ最近、ずっと慌ただしくしていましたから、マーチちゃんたちの攻略が進んでいない、とのことです。

 PvPイベントがあってそれに優勝したことで認知度が上がり、第二次「ラッキーファインド」ブームが訪れました。

(第一次のブームは、アンジェさんが紹介してくれたことで起きています)

 それからすぐにアメショ討伐クエストが発行されたことでその対応に追われることに。

 それが片付いたら第三次「ラッキーファインド」ブームが到来してまた忙しくなって……。


 そんなこんなで、


 マーチちゃんとクロ姉は第九層

 サクラさん、ススキさん、パインくん、キリさん、アンジェさん、ベリアさんが第七層

 コエちゃんが第五層

 シニガミさんに至っては第二層


 から未クリアとなっているそうなのです(ライザ調べ)。

 ギルド内でかなりの差が……。

 私は前回アップデートされた時、ライザとともに即行でクリアしてしまっていたので、こんなことになっていることに気がついていませんでした。


「あの『運営』、何かよくないことをやってきそうな気がしてならねぇんです。ですから新エリアが実装される前にマーチたちを第十三層(現在は真っ白な空間)まで引き上げておきてぇ、と思ってるんですが……」


 何かを懸念しているライザ。

 確かに彼女の言う通り、階層が進むにつれてギミックが複雑化している気がします。

 私はライザと一緒に攻略していたので行き詰まることはなかったのですが、ライザがいなかったら、タイムアタックどころかクリアできていたかも怪しいです。


(例1・第十層「リスセフ大金山」

    行き先が複数あるトロッコに乗る。

    どこに繋がっているのかは不明。

    中にはダンジョンの入口に戻されるルートもある。


 例2・第十一層「アホクビ大地獄」

    幻の床、見えない階段、中に入れる鏡と入れない鏡がある。

    中でも厄介だったのは見えない敵と一部のアイテムが透明であること。


 例3・第十二層「タチシェス地下帝国」

    暗くて何も見えない。

    落ちると下層B47階まで行かせられる穴がある場所がある。

    ただし、進むには四つの鍵が必要。

    持っていないなら戻る必要あり)


 これまで以上に難易度の高いギミックが出てきたとしたら、マーチちゃんたちもライザの力を借りなければ厳しくなるだろうことが容易に想像できました。

 それにライザが嫌な予感を覚えているということは、そうなる確率が高いような気がしますから。

 ですから、私も彼女の意見に賛成しました。


「……そうだね。別々に攻略するのも寂しいし……。それでどうするの? 私たちでキャリーする? それとも、マーチちゃんたちが攻略に専念できるように私たちでお店のことを全部こなす?」


 私が確認すると、ライザは提案します。


「それなんですが、一人称わーがお店のことを見ながらマーチたちが行き詰まった時に通話機能でアドバイスを送ります。セツは、そうですね……。シニガミがアンジェたちと合流できるようにサポートしてください。今のあいつならレベルでごり押しできると思いますが、如何せん大分離れてるので。新エリアが解放されるまでにそこに到達するにはできるだけ早くあいつらを一緒にさせるべきでしょう」

「わかった」


 というわけで私たちは、ギルドメンバー全員が第十三層に到達すること、を目指して動くことになりました。

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