第323話(終・第九章第3話) 事件があったあとのこと3

 京王未過も逮捕されました。

 使用人の男性が流出させたデータの元となるものが家宅捜索によって出てきたためです。

 未過は、弁護士を呼んで! と騒ぎ立てていたそうですが、その弁護士の先生も捕まっていました。

 なんでも京王古来とズブズブの関係でこれまでに未過が起こした犯罪行為を事件として取り上げられないように動いていたのがその人物だったからです。

 この人物だけでなく、ニュースとして取り上げられないために抱え込んでいたマスメディアに影響力のある人物や、警察の中で立場のある人物、その下で働いていた彼らの部下たちも捕まっています。

 京王古来が行った証拠隠滅に加担していたことが明らかになったので。


 私と未来が知っている人物も逮捕されていました。


 合同文化祭が行われていたあの日、私と未来に事情を聞いてきた警察の方たちがいました。

 その人たちは個別に私と未来から聴取をしていたのですが、どこか偏った聞き取り方をしていたことが印象に残っています。

 もう一度よく考えてみて? 本当にそんなことがあったの? と何回も聞き返されて。

 警察の方にそんなことを言われたらはっきりと、そうだ、とは言いきれない感じになって、初めは確信していたのに迷いが少し生じてしまいました。

 そうして戸惑っているうちに、被害者は事件のショックで気が動転しており記憶があいまいになっている状態である、と警察官の人たちに結論付けられて、また日を改めて聴取しよう、と締めくくられて……。


 未来の方は、勘違いということは? 遊んでただけだったんじゃない? ひどい目に遭ってるっていうのに正しく記憶できてるって断言できる? 君の中ではあれはひどい目に遭ったとは分類されていないってこと? などと返されたそうです。

 特に最後の言葉にはカチンと来て未来は抗議をしたようですが、最終的には私のところと同じ終わり方だった、とのこと。

 私も未来も唖然とさせられました。

 これって、京王未過が不利になる証言を残さないようにしている……? という話を聴取が終わって未来と会ってから彼女と話していたのですが、案の定でした。


 この警察官たちが捕まっていたのです。


 ちなみに、私とライザを助けようとしてくれたちょっと怖そうな見た目の方も私たちと同じように個別で事情聴取を受けていました。

 あの方は私たちよりも早く終わっていたそうで、迎えも来ていたし帰りの時間も迫っていたということで帰っていってしまったようです。

 助けてもらったお礼をさせてもらいたかったのですが、残念です。


 未来と月見さんが通っている学校の合同文化祭は中止になってコエちゃんが気を落としてしまったり、

 そのあとすぐにサクラさんたちと合流できたものの聴取に時間がかかっていて、もうそろそろ帰らないといけない時間になってしまっていたり、

 百合女にシニガミさんたちが来ていたらしい(パインくんのスマホに連絡があった)のに、会うことができなかったり……。

 コエちゃんやサクラさんたちと楽しく過ごす予定だったのに苦い思い出となってしまいました。



 そして一番の問題ですが……。

 これらのことをゲームの世界でマーチちゃんに話した時の彼女の様子です。

 一見すると普段通りのように捉えられたのですが、よく見ていると違和感を覚えました。



――マーチちゃんは無理して明るく振る舞っている



 そのように私の目には映ったのです。

 彼女に何があったのか、それは定かではありません。

 ですが、彼女を苦しめる何かがあったことは確かだと思います。

 私は彼女が抱えている苦しみを少しでもどうにかしたくて、彼女に何があったのかを尋ねました。

 しかし、彼女はものすごく言いにくそうにしていて……。

 だから私は、そんな彼女の顔を見ていられなくて、彼女に、無理に答えなくてもいい、と言っていました。

 私はマーチちゃんを元気にしたかったのに、私の質問がマーチちゃんをさらにつらくしている気がしたから……。


 マーチちゃんがどうして本当は悲しんでいるように見えたのか、その理由は結局わかりませんでした。

 マーチちゃんとのお話を終えて彼女が現実に戻ったタイミングでログアウトして、ご飯の時間まで将来のためのお勉強をすることにした私。

 現在の医療のことについて調べていると、それは目に入ってきました。



――「DtoDダイブ・トゥ・ドリーム」による身体障害について



 ハッとしました。

 確かマーチちゃんは……っ。

 気がついたら私の手は動いていて、そのページを開いていました。



――ヘルギアによる事故の数は154件。


  「DGドリームゲームズ」のゲーム「DtoDダイブ・トゥ・ドリーム」には欠陥がある。

  ゲームをプレイしている最中に無理やりゲーム機・ヘルギアを外されると

  障害が生じてしまうという大きな欠陥だ。

  「DG」は保証を行うと言っているが、このようなゲームを世に出した

  この会社の罪は重い。

  販売することを認可した国も同罪だ。


  154件の事故のうち、身体の一部に障害が生じたのが139件。

  身体全体または広範囲に障害が生じたのが13件。

  記憶障害及び人格の崩壊を起こした事例が1件。

  脳死、1件。


  このうち、一部に障害が生じた方々はリハビリの成果があり、

  彼らは今、日常生活に支障が出ないほどまで回復しているそうだ。

  しかしながら、広範囲に障害が生じた8名、記憶障害を生じてしまった1名、

  脳死と判定された1名は未だ回復していないのが現状である。


  最初の事故が発生してから間もなく四年が経つ。

  発売からわずか四カ月で154件の事故を起こしたゲーム機を「DG」は

  回収・修理・返却を行った。

  それからは事故は見られなくなっていた。

  しかしつい先日、新たな事故が確認された。


  著者が調べたところ、それは、今年の四月二十九日に起きていたという。

  約1,300日の間を開けて新たな事故を起こしたのだ。

  「DG」は何も学んでなどいなかった。

  著者は抗議する。

  同志を集める。

  一緒に戦ってほしい。

  こんな会社が存在していていいはずがない、と――



 ……ここに書かれていることって。

 マーチちゃんのこと……?

 思い出しました。

 マーチちゃんはヘルギアの問題によって下半身を動かせない状態になっている、ということを。


 私はマーチちゃんが患っている症状について調べました。


「……っ」


 そこに書かれていたことに、私は言葉を失いました。



――神経が傷んでいた場合、軽症なら一カ月、中等症なら二~三カ月、重症の場合は三~六カ月で回復する見込みがあるが、六カ月を超えても回復しない場合は後遺症が残る可能性がある。


――脊髄損傷の場合、自然に回復することはなく、また、完治することはほぼない。



 その日は十一月四日。

 マーチちゃんが事故に遭ったのが四月二十九日。

 ……ボーダーとされる六カ月が過ぎていました。

 私は愕然として、何も考えられなくなってしまいました。


 そんな私の元にコエちゃんが、ご飯の準備ができました、と呼びに来ました。

 私が固まっているのを見て、私が見ているものを見てその理由を察したコエちゃんがその時私に言ったのです。



――「近年、研究が進んでいますので再生医療で治すことが可能になってきています」



 と。

 その彼女の言葉で、私は少しですが安心できて何も考えられなくなっていた状況から脱せました。

 そして思いました。


 もっと知識を身につけなくちゃ……! と。



 それから私はコエちゃんに頼るだけではなくて、自分でもいろいろなことを調べるようになりました。

 大図書館に行くようにもなり、私はそこで一人の少女と出会いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る