第317話(第八章第34話) 波乱の文化祭4
~~~~ 現実 百合花萌芽女学園の敷地内 ~~~~
百合花萌芽女学園の門をくぐる三人の人物の姿があった。
「こ、ここが百合女……。僕たちが通ってる高校とはスケールが違いすぎるね」
「お嬢様学校っすっからね。姉妹校の光陸学園もこことは違って共学っすっけど裕福な子たちが通うとこっていうのは同じらしいっすよ?」
「ほぇー……」
「福知山さんはここに通っててもおかしくないんじゃない? と思うわよ」
「……むー」
「あら? 誉め言葉じゃない?」
「ダメっすよ、阿月。美珠を揶揄っちゃ。そういうことする人、僕は好きじゃないっす」
「……むー」
ギフテッド・オンラインでは、シニガミ、アンジェ、ベリアとして遊んでいる三人だ。
彼らは百合女の文化祭の規模の大きさに度肝を抜かれていた。
大きな校舎を視界にいれた熾織が彼の背中にしがみついている美珠に聞く。
「……それで、セツさんたちもこの文化祭に来てるんすよね? この大きさっすっけど、どこに行けば会えるとかわかったりするっすか?」
「ちょっと待ってね。パインくんにメッセ送ってみる。……あっ、来た。うーんと、今は特別教室棟一階のメイド喫茶にいる、って。なんかすごく疲れてそうだけど……」
「え? なんで?」
美珠はパインこと松里の連絡策を教えてもらっていた。
それで美珠が送ったメッセージへの彼からの返信が、何故か文字だけでも疲弊しきっているのが伝わってきたことには三人とも頭を悩ませたが。
とりあえず居場所は判明したため、パンフレットを見て松里たちがいるであろう場所へと向かおうとする。
……だが。
「光陸学園一年F組には絶対に勝ちますわ! わたくしたち百合女の二年F組にお越しを……あっ! そこのあなた! 絶対に似合いますわ! 是非にわたくしたちが催しております、誰でも執事になれる喫茶、に来ていただけませんか!? っていうか、来てください!」
「え? 私――って、ちょっと!?」
「阿月!?」「烏丸くん!?」
誰でも執事になれる喫茶、なる出し物を催しているという女子生徒に阿月が捕まり、連行されてしまったのである。
……………………
というわけで、執事服に着替えさせられてしまった阿月。
現実の阿月は長身で、強面であるがわりかしイケメンなためその服装が似合っていた。
本人はコンプレックスに思っている部分ではあるのだが。
阿月を連れ去った女子生徒の足が思った以上に速かった所為で阿月は熾織たちと離れてしまっていた。
阿月の写真撮影に群がる百合女の生徒たちをなんとか振り切って阿月は廊下へと退散する。
まずは熾織たちと合流したい、と考えた阿月であったが、スマホは着てきた制服の中だ。
それらは例の執事喫茶のブースがある教室に置いてきてしまっていた。
今はその場所に戻る気になれない。
どうしようか……、と阿月が考えていたところ、突然声を掛けられる。
「お前もお嬢の招集を聞いていなかったのか? 早く行かねぇとやべぇぜ?」
「ま、また!? ちょ、ちょっと……!」
今の阿月と同じような格好をした男性に腕を掴まれて、阿月はまた、どこかへと連れていかれてしまった。
~~~~ セツ視点 ~~~~
「……っ!」
私は四人の大きな男の人たちに取り囲まれて移動を余儀なくさせられていました。
前後と左右を抑えられているので逃げられません。
怖くて声も出せず……。
そうして私は、人通りがまったくないどこかの教室の前にまで連れていかれました。
「お嬢様! 連れて参りました!」
「でかしたわ! 黒服たち! 入りなさい!」
「ハッ!」
私の前にいた燕尾服を着ていた大きな男の人がドアに向かってそう言うと、ドアの奥から返事があって。
私は強制的に教室の中に入れさせられました。
背の高い男の人たちに囲まれている所為でここがどういった場所なのかわからず、恐怖は増す一方……。
私が怯えている間に、話は進んでいました。
「早かったじゃない」
「痛み入ります!」
女の人の声……?
対応しているのは私の前にいる男の人……。
「それじゃあ早速、そいつが漏らしてる映像を撮りなさい! あたしがやられたのと同じように! 名前を忘れた時は少し焦ったけど、間抜けで助かったわ! またこの学校に来て、思い出させてくれるなんてね! さあ、やってしまいなさい!」
「承知いたしました!」
会話の内容はよくわかりませんでしたが、よくない事態に向かって行っていることは感じ取れました。
どうにかしてここから脱け出さないと……! と考えていると、目の前の男の人が横に移動して、私の視界に百合女の制服を着た一人の女子生徒が入ってきました。
この人が、男の人たちに指示を出していた人……?
一般的な身長に、痩せ気味の体型。
つり目に高めの鼻、裂けているように大きな口、ギザギザの歯。
膝裏まで伸びているお姫様カット。
そんな女子生徒は、胸を張り、腕を組み、天井を仰ぐようにして嘲るような視線をこちらに向けてきていて……。
……。
初めて見る方です。
私にすごい恨みがあるような言い方をしていたので会ったことがあるのではないか? と思っていたのですが……。
「……え? 誰?」
「「「「……え?」」」」
彼女もポカンとしながら私に
私を囲んでいた男の人たちもポカンとしています。
え? 何この状況……?
「違うわ! こいつじゃない! あたしに恥をかかせたのはもっと小さくて無表情ないけ好かない『埼京刹那』よ! こんなおっぱいじゃない!」
「し、しかし……! プレートには『埼京刹那』と書かれています!」
「同姓同名の別人でしょ!?」
「「「「なっ!?」」」」
「何間違えて連れてきてんのよ!?」
「「「「も、申し訳ございませんっ!」」」」
……話を聞く限り、どうやら私は人違いで攫われてしまったようです。
なんと人騒がせな……。
これってもう、私には用はない、ってことでいいんですよね?
「……えーっと、用があるのは私に、ではないんですよね? ということは私は帰っても――」
この場から出て行ってもいいか、と尋ねようとした時。
女子生徒の口からとんでもない言葉が――。
「関係ない子があたしの秘匿情報を知っちゃったじゃない! ……こうなったら、
――恥ずかしい写真でもなんでも撮って口止めしなさい!」
「「「「ハッ!」」」」
――え。
な……っ。
男の人たちが私にじわじわと詰め寄ってきてる……!
(私が人違いだと判明した時、全員女子生徒の方に向かって行っていて離れてたのに……!)
ど、どうしよう……! 足が……っ!
私は
頭が真っ白になる中、
――ガタンッ!
物音が聞こえてその方へ視線を向かわせると、
「んん! んー!」
床に、彼女がいました。
――手足を拘束されて、口も塞がれている
「っ!」
彼女の近くにも別の大きな男の人がいて。
それを見た瞬間。
私は、私に迫る包囲網を掻い潜って
しかし、かかっていた鍵を開けて出ようとした時、廊下から教室に入ってくる人たちがいて……!
「お嬢~。来ましたよ~」
「遅い! だけど、いいタイミングで来たから不問にしてやるわ! そいつらを捕まえなさい!」
「りょ~かい~」
なんかチャラそうな人と怖そうな人……っ。
ここにいる人たちの仲間……!?
二人に出口を塞がれて、私たちは窓側の方へと追いやられてしまいます……。
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