第316話(第八章第33話) 波乱の文化祭3
~~~~ 現実 首都内・新幹線のホーム ~~~~
「つ、着いたぁ……」
「お疲れ」
「だらしないわね。たかだか二時間半の移動でへとへとになるなんて。体力なさすぎでしょ?」
三人の人物が降り立った。
一人は学ランの中にパーカーを着込んでいる子(諸事情でボタンを留められないため学ランの前は開けられている)。
一人は学ランを着た中性的な容姿の子(ボタンはしっかりと留めている)。
一人はセーラー服を着ているがたいがいい子。
溜息交じりに疲労感を露にするパーカーの子を学ランの子が労う。
その様子を見て、セーラー服の子が悪態をついた。
セーラー服の子は二人の仲が良いことが面白くなかった。
セーラー服の子からの辛辣な言葉に、パーカーの子は涙目になる。
「た、確かに体力がある方じゃないけど、今は肉体的に疲れてるわけじゃ……」
オロオロし始めてしまったパーカーの子に、学ランの子がすかさずサポートをする。
「この子、出歩くと、どこに行っても注目されるんすよ」
「……ふーん」
セーラー服の子はやはり面白くなさそうだ。
パーカーの子が言う。
「うぅ……。もうやだよ……。じっと見られるのも、聞こえるとこで噂されるのも……っ。好きでこんなになったわけじゃないのに……!」
到頭泣き出してしまったパーカーの子に、学ランの子はどうにかしてその子を慰めようとした。
「だ、大丈夫っすよ! 僕がついてるっすっから! 僕はずっと味方っすっから!」
俯くパーカーの子の顔を覗き込みながら真剣な表情で学ランの子はそう告げた。
すると、パーカーの子が学ランの子に抱きついた。
そして言った。
「そっか! そうだよ! 見えないようにしちゃえばいいんだ! 熾織に密着してれば腕と熾織で隠せる! 一番見られたくないとこに視線がいかない! 今日はもうこうやって移動しよう!」
「ええっ!?」「はぁ!?」
慌てる学ランの子とセーラー服の子。
「ちょっと! 離れなさいよ!」
「み、美珠!? 違う意味で視線が集まってるっすよ!? そ、それに、また別の問題が――」
パーカーの子の突然の行動をやめさせようとする二人だったが、パーカーの子は腕の力を緩めて学ランの子の顔を見て伝えた。
「こういう時、本当に頼りになるね! ありがと、熾織っ!」
「あ……うん」
無垢な笑顔を向けられて学ランの子は押し黙った。
「だから離れなさいってばぁ!」
駅の中にセーラー服の子の低い声が響いていた。
~~~~ セツ視点 ~~~~
「えい! ……ああ!」
縁日のようになっている校門から校舎へと続く道で、私たちは今、射的をしていました。
最初に松里くんがやって、当たってはいたのですが、落ちず……。
キリさんは外れてしまい、サクラさんの撃った弾はとんでもない方向に……。
私も松里くんと同じで当たっていたのですが景品獲得とはならず……。
……このような結果になったのも無理はないかもしれません。
何せ、狙っていたのがクッションだったのですから。
射撃の景品にクッションって……。
普通のフィギュアみたいな景品もあったので、わざわざクッションを狙う方も狙う方かもしれませんが、何故それを狙っていたのかというと、そのクッションがカラメルみたいだったからです。
……ほしかったなぁ。
残念です。
諦めるしかないか……、と思っていたその時、
「あの景品がほしいのですか?」
コエちゃんが尋ねてきました。
「うん。でも、難易度が高すぎるみたいだから無理かな、って……」
「わかりました。うち落ちします」
「――え」
私がその景品をほしがっていることがわかると、射的専用の銃を構えるコエちゃん。
そして、
――パン、パン、パンッ!
と残弾全て同じ景品の同じ場所に寸分
射的用のコルク銃なので一回一回弾を補充しなければいけないはずなのですが、その動きが流れるようにスムーズで驚くほど速く、まるで連射をしているかのようでした。
この子は機械なので精密にできるのでしょう。
その結果、
――ぽとっ
と、クッションは棚から落ちました。
「どうぞ、セツさん」
「えっ!? いいの?」
「はい、そのために取ったのですから」
「ありがとう、コエちゃん!」
景品を店員の生徒さんから受け取ったコエちゃんは、それをそのまま私の方に差し出してきました。
私が受け取ってお礼を言うと、むふー! と少し得意気になったコエちゃんが可愛かったです。
コエちゃんからのプレゼント、大事にしようと思います。
……あっ、店員さんはコエちゃんに若干引いていました。
それからフライドポテトを買って(学生だと三割引きになるそうです)、それをみんなで摘まんで(コエちゃんは食べられないので見ているだけでしたが)、校舎の中も見てみようか、という話になりました。
校舎の入口に向かっている途中、私はリアルで会ったことがある人物の姿を見つけます。
「……ススキさん?」
「ん? あっ、セツちゃんだ! やっほー!」
昇降口付近にいたのは、ウェーブかかった金髪をサイドテールにしている小麦色の肌の少女・ススキさんでした。
彼女ですが、フレンチメイド服に身を包んでいて段ボールなどでつくられた看板を掲げています。
「あら、月見ちゃん」
「こんなところで何をしているのですか、月見? 油を売っているのですか?」
「遊んでるんじゃないよ!? お客さん呼んでんの! ほら!」
「……え? メイドになれる喫茶……?」
私たちの元に駆けてやってきたススキさん……月見さんに、サクラさんが明るく声を掛け、キリさんが軽口を言います。
それに対してススキさんがツッコんで、持っていた看板を叩いて示しました。
そこに書かれていた文字を松里くんが読んで……、
――え? メイドになれる喫茶?
なんだかすごく嫌な予感がします。
ここにいてはいけない気がして、そっと抜け出そうとしたのですが、
――がしっ
……月見さんに手首を掴まれました。
「つぅかまぁえたぁ! セツちゃん、絶対似合うと思うんだよねー! うちの喫茶、寄ってってよ! っていうか連行しまーす!」
「着ようとは思わないんですが!? あの、ちょっと!?」
有無を言わさず、私は月見さんに引っ張られて連れていかれてしまいました。
ちなみに、私を掴んでいたのは彼女の右手であり、もう片方の手にはもう一人被害者がいて……。
「ちょ、ちょっと、月見ちゃん!? なんでボクも!? ボク、男の子だよ!?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! マツリン(松里)なら着こなせるって! うちが保証したげるから!」
「そんな保証いらないよ!」
「二名様ご案内ー!」
……松里くんです。
彼は男の子なのに……月見さんは問答無用で連れ去りました。
……
…………
……………………
……ひどい目に遭いました。
光陸学園一年F組のブースが入っている教室に連れていかれて無理やりフレンチなメイド服に着せ替えられた私と松里くんは写真撮影の嵐に見舞われました。
月見さんだけでなく、彼女のクラスの方たちやサクラさんとキリさんも私たちのことをスマホで撮影していて……。
コエちゃんも来ていましたが彼女はじっと私たちのことを見つめているだけでした。
……写真を撮られてなくてよかったかな?
瞬きをしていなかったのは怖かったですが……。
しばらくは身動きが取れないような状態にさせられていましたが、お手洗いに行く、と言ってなんとか抜け出した私。
そういえばライザはどこにいるのだろう? と考えながら廊下を歩いていた時です。
――私は後ろから口を塞がれました。
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