第315話(第八章第32話) 波乱の文化祭2
「そ、そういえば、今日のことをシニガミさんにも話したんだけど、そうしたら、行けたら行く、って言ってたよ? 関西の方に住んでるから必ず行けるって断言はできないみたいだけど……」
キリさんたちから解放されて……いえ、サクラさんは離れてくれましたが、キリさんとコエちゃんからはまだ腕を拘束されていますね……。
そんな状態ではありましたが、そろそろ向かわないと開始と同時に会場に入れなくなりそうな時間になっていたため、私たちは百合花萌芽女学園の方へ歩き出しました。
そして先ほどの言葉は、移動中にパインくん……松里くんが話してくれたことです。
シニガミさん……。
アメショが起こした事件をなんとか解決したあと、あれからシニガミさんは、私、マーチちゃん、ライザ、コエちゃんの五人でギフテッド・オンラインの世界を旅していました。
その目的は、アメショによるスキル強奪事件の後始末をするためです。
私たちは、スキルを元の持ち主の方に返すということを行っていました。
ライザが『アナライズ』でアメショの被害に遭われたプレイヤーを調べて、その方がやり直しになっていなかったらシニガミさんの『巻き戻し』で。
やり直しになっていたらマーチちゃんの『ポケットの中のビスケット』で増やした「スキル変更の巻物」を使って。
たまに、同じく被害に遭われた方のスキルを先に取得してしまおうとする人もいたのですが……。
そういう考えがある人は行動に現れるようで、コエちゃんが僅かな仕草からそう企んでいるかどうかを見抜けました。
なので、そこからは私の出番です。
コエちゃんに教えてもらって事前に対処しました。
バステポーションを使って。
そうすると大抵の方は、諦めて自分が奪われたスキルを再取得するか、やり直しになってから新たに得たスキルのままで続けるか、を選択してくれました。
ライザが調べられるので嘘は通用しませんし、もし違うスキルを取られたとしてもバステポーションをまた掛けてその間にクロネコさんに応援に来ていただいて「スキル変更の巻物」を無理やり使わせて得たスキルを手放させればいいわけですし。
……『魔女裁判』。
汎用性がありすぎる恐ろしいスキルです……。
その旅は昨日も行っていて。
(望んだスキルを手に入れられずに逆上して襲い掛かってきた人からシニガミさんを守ってもらったりしました)
(今のシニガミさんはレベルが低いので)
その時にシニガミさんに文化祭の話をしていたのでしょう。
彼女も私たち「ラッキーファインド」のギルドメンバーになっているので誘ったのだと思います。
「一緒に回れたらいいね」
「う、うん……っ」
私がそう言うと、松里くんは満面の笑みで頷きました。
その笑顔は、小さくてはかなげで、けれど、とてもきれいな一輪の花が開いたようで。
……どうしよう。
松里くんが可愛すぎます……。
それからゲームの話をしながら歩いていると、目的地に辿り着いたのは体感ではすぐでした。
「……大きい……っ」
見えてきた建物の存在感に圧倒されます。
真っ白な宮殿のような造りと意匠が豪華すぎる鉄の縦格子に私たちは息を呑みました。
「……どうしたのですか? 行きますよ?」
何も言えずに固まってしまっていた私たちでしたが、コエちゃんが声を掛けてきてくれたことでそれぞれ我に返りました。
先を行くコエちゃんのあとを追って、私たちは身が縮むような立派な門をくぐっていきました。
百合女のセキュリティは堅固なようで、入校許可証が発行されないと中に入ることができない仕組みでした。
機械が指紋認証や静脈認証、顔認証、虹彩認証、声紋認証、筆跡など様々な認証をして本人確認が取れたら名前が書かれたプレートが発行されます。
(個人のデータは政府が管理しています)
それを首から下げていれば、不法侵入者として警備ロボットに取り囲まれることがなくなるのだとか。
私たちは問題なく百合花萌芽女学園の敷地内に入ることができました。
……あれ?
コエちゃんはどうやって入ったんだろう?
(コエちゃんのデータはないはず……)
気になって彼女の胸元につるされているプレートを見てみると、
「コミナト・メイ……?」
そこには知らない名前が表記されていました。
漢字で書くと「小湊五月」……。
わけがわからなくて首を傾げていると、彼女は自身の口元に立てた人差し指を持っていきます。
……あっ、これって……。
前に彼女が言っていた、機械を人に似せる研究をしている施設の人造人間をつくる装置を操った、という技術でここの機械も操っている……?
……そうしないと入れなかったのかもしれませんが、いろいろとアウトな気がしてなりません。
私が、こんなことをして大丈夫なのかな……? と頭を悩ませていると、コエちゃんが言ってきました。
「さて、それでは文化祭というものを見て回りましょう♪」
……こんなにも楽しみにしているコエちゃんに、ダメだ、とは私には言えません。
小湊さんには申し訳ありませんが、黙っていることにさせてもらいました。
私たちは百合女の敷地内を巡ることにしました。
セキュリティのゲートを通過したところに百合女か光陸学園の生徒の方がいてその方からパンフレットをいただいていたので見てみると……。
焼きそばやフライドポテト、たこ焼き、クレープなどの飲食店。
射的や輪投げ、ビンゴゲーム、お化け屋敷、リアル脱出ゲームなどのゲーム。
フォトスポットやモザイクアート、プラネタリウム、映画上映などの展示。
演劇やダンス、バンド演奏などのステージ発表。
いろいろ気になるところがあって迷ってしまいます。
コエちゃんも興奮しているようで。
その様子を見た私たちは、とりあえず近くにあるものから見ていくことにしました。
この時の私は知りませんでした。
この文化祭にまさか、あんなことが待っていようとは……。
~~~~ ライザ視点 ~~~~
「やっと登校してきたわね、ゴミ女!」
「……」
……ああ。
ついてねぇです。
マジでついていやがりません。
久しぶりに登校して一番に見る顔が
わーの人生、呪われてんじゃねぇですかね?
もう出席日数的にアウトな気がするんで逆にブッチしてもよかったんですが、そうもいっていられなくなっちまったんですよね。
この文化祭だけは、どうしても……。
震える手を強く、強く握りしめているわーに、京王は詰め寄ってきました。
「あの時あたしに恥をかかせたあのガキのことをあたしに教えなさいよ! あんたの知り合いなんでしょ!? さっさと教えなさいよ! そうしたら、今日はあんたに何もしない、って誓ってあげるわ!」
……何を言ってやがるんですか、こいつは?
今日は、って……。
それに。
わーが彼女のことを売るわけねぇじゃねぇですか。
少し煽ってみます。
「……名前憶えた、とか言ってやがりませんでした?」
「どうでもいい奴の名前なんていちいち憶えてないわよ! そんなことにこのあたしの記憶領域を使うだなんて馬鹿馬鹿しいじゃない! 入校記録とか見ればいいだけだったはずなのにデータ消えてて、復元できない、って言われたし……! マジであいつ無能!」
「……」
……なるほど、バカで助かりました。
少しホッとしてたところに京王のスマホが鳴ります。
それを見たそいつは嫌らしい笑みを浮かべました。
「聞く必要がなくなったわ! 見つけた、って!」
「っ!?」
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