第312話(第八章第29話) 本当の栄光を手にするのは4

「こ、ここか!? 迷惑PK野郎の包囲網が張られてる、って場所は!」


 「メラメラの街」から走ってやってきた一人の少年。

 ……あゆみちゃんです。

 彼は大声を出してこの場にいる全員の視線を集めていました。


「おお、少年か。アメショはこの通り対処した。これから最終工程に入るところ――」


 あゆみちゃんを見たキンジンさんが彼に現状の説明をし始めました。

 キンジンさん、あゆみちゃんと面識があったんですか?

 知りませんでした。

 いったいいつ……? と考えていたのがよくありませんでした。

 視線はキンジンさんの方に向いていて意識は思考する方にいっていた私は、あゆみちゃんの行動を捉えられていなかったのです。


「うおおおお! なんか知らねぇけど固まってるぞ! これは絶好のチャンスだ! くたばれ、迷惑PK野郎!」


 彼の声が聞こえてきてその方に目を向けると、彼はいつの間にか私たちの間を縫って移動していて。

 私たちの中心にいたアメショの元に辿り着いていた彼は、



――アメショを彼の剣で切り刻みました。



「な、何やってるの、あゆみちゃ――」


 彼が何をしようとしているのか、に気づいた私は彼を止めようとしますが、その間もなく……。



――アメショは黒い粒子になって消えていってしまいました。



「そ、そんな……!」

「はっはっはーっ! これで戻ってくる! 俺の栄光が! 俺が倒した! 俺が迷惑PK野郎を片付けてやったぞ!」


 アメショを倒してしまったあゆみちゃん。

 一からのやり直しにさせてしまったのでは、根本的な問題の解決にはならないというのに……っ。


 街に戻ろうとする彼を私は呼び止めます。


「あゆみちゃん! なんてことを……っ!」


 ですが彼は、事の重大さをわかっていないのか、肩眉を上げて私に言ってきました。


「あ? 刹那か? 横取りした、とか言うんじゃねぇぞ? とどめを刺せる状態だったのにぼさっとしてたお前らが悪いんだろうが。討伐クエストは早い者勝ちなんだからよ。俺は報酬を手に入れる! ここから俺の時代が始まるんだ!」

「ちょっと、待って……!」


 話を無理やり切り上げて街へと急ぐあゆみちゃん。

 私は彼を追おうとしました。

 しかし、私はマーチちゃんに止められます。


「お姉さん! それどころじゃないの! アメショが同じスキルを取ってやり直したら……!」

「っ! そうだね、あゆみちゃんを追い駆けてる場合じゃない……! 行こう、マーチちゃん!」


 マーチちゃんに諭されて、私は何が優先されるべきかを思い出せました。


「すみません、皆さん! 私たちは第一層に向かいます! クロネコさん! ついてきてください!」

「わ、わかりました!」

「おう! 気をつけてな、嬢ちゃんたち! 俺たちはあの少年を追う!」

「お願いします!」


 この場はキンジンさんたちにお願いして、私はクロネコさんに声を掛け、マーチちゃんとクロネコさんの三人で「踏破者の証」を使って第一層へ飛んで行きました。



~~~~ パイン視点 ~~~~



 ボクたちは今、第一層「始まりの街」の外にいる。

 ライザさんから指示があって、もしもに備えて街にいた人たちに避難を呼びかけていたんだ。

 それで街にいた人たちの避難が終わったら、今度は街の外にいた人たちが街に入らないように注意喚起をする。

 あの、他人のスキルを奪っちゃうっていう迷惑な人が万が一、一からのやり直しになって第一層に戻ってきたら大変なことになっちゃうから。

 それをボクとコエちゃん、アンジェさん、シニガミさんの四人で行ってた。


 ちなみに、シニガミさんと合流してからのことだけど、ボクたちはシニガミさんを第二層までキャリーしていた。

 彼(彼女)? を運んだのはボクたち、っていうよりカラメルちゃんだったけど……。

 大きくなってボクたちを乗せられるし、素早さは上げられるし、セツさん特製の猛毒薬?(なんかすごい色をしてた)を隠し持ってたから余裕で敵を倒せるし……。


 シニガミさんをキャリーしたのは「スキル変更の巻物」で取得してもらった『強制転移』で第八層に行けない「騎士団」さんたちやワワワさんとシーヴァさんを第八層に送るため。

(ライザさんは今、サクラちゃんとキリの職業を上位職にするためのスキルを持っててそれを外しちゃうと二人の職業が下級職に戻っちゃうからスキルを替えられないんだ、って……)

 それをやったあと、ライザさんに避難誘導の指示を出されて、ボクたちは「踏破者の証」で第一層に戻ってきていた。


 そしてシニガミさんはもう一つスキルを替えているんだけど、それは――。



「ああ、もう! 同じスキルを取ってやり直したっていうのに、奪えるのがゴミスキルばっか、ってさぁ! むしゃくしゃするぅ!」



 ボクが、シニガミさんが取得したもう一つのスキルについて考えようとしていた時、街の中から可愛らしい見た目の男の子が姿を現した。

 ボクと一緒に誘導をしていたシニガミさんが声をあげる。

(コエちゃんとアンジェさんは僕たちとは違う方角で避難誘導を行ってる)


「……アメショ……っ」

「っ!」


 この子がアメショ……他人のスキルを奪う迷惑な人みたい……。

 ……それにしてもさっきの彼の発言からすると、避難するように言っていたのに逃げなかった人がいるんだ……。

 やり直しになったばかりなのに三つよりも多くのスキルを持っているっぽい相手に、ボクたちは警戒した。

 そんなボクたちにアメショが気づいた。


「おっ、獲物はっけーん! 今度はいいスキルだといいな☆」


 アメショは空中で指を走らせて、紙とかはなかったのにそこに絵が出来上がっていっていた。

 その絵が動きだす。

 ……スキルだ!


「『ペンは剣よりも強し』、『天才画家』、『速筆』! 行っけー、カプルピクニス!」


 画が立体になって、なんかヤギみたいな頭でウサギみたいな身体をしたモンスターがボクたちを襲ってきた……!

 ボクは『堅牢優美の障壁』をボクとシニガミさんを囲うように展開した。

 相手の攻撃をなんとか防ぐ!

 それを見たアメショは、


「あっ! バリアーだ! いいなぁ! それ僕にちょうだい☆」


 そんなことを言って、同じモンスターをもう一体つくりだしてボクを襲わせた。

 うぅ……、攻撃は防げるけど、守ってるだけじゃジリ貧だよね……。

 攻勢に出るにはどうしたらいいんだろう?

 そう思いながら相手のことを見た時だった。



――さっきまでボクの横にいた彼? が、アメショの後ろにいた。



「あっ! 『強制転移』……っ!」


 シニガミさんがスキルを使ってアメショの背後を取ってたんだ!

 あのスキル、移動する場所の座標の指定が結構シビアで『アナライズ』とかを持ってないと壁とかに埋まって大変なことになることがあるスキルだ、ってライザさんが言ってたけど……。

 シニガミさんにあのスキルをサポートできるスキルはなかったはず……。

 勘、かな……?


 それからシニガミさんはアメショに向けて手をかざして、


「『巻き戻し』!」


 『強制転移』と同時に取得したスキルを使った。



 『巻き戻し』――MPの消費量に応じて、対象の時間を巻き戻すスキル。



 シニガミさんのMPはセツさん特製のMP回復ポーションで上限を超えて回復しているから、アメショが一からのやり直しになった時まで戻せる……!

 アメショが奪ったスキルが元の持ち主に戻されて、その持ち主がスキルを解除してくれたようで、ヤギウサギさんは消えていった。


 そのあと、なんとかアメショの襲撃を切り抜けられたボクたちの元にセツさんたちがやってきて。

 アメショはセツさん特製のポーションによって拘束された。

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