第310話(第八章第27話) 本当の栄光を手にするのは2

~~~~ 第八層火山エリア ~~~~



 復活する二十を超すプレイヤーたち。

 それを見て少年は奥歯を噛み締めた。

 折角最強プレイヤーから奪った『即死スキル』なのに、対策を取られてる……! と悔しがる。


 少年は伸ばしていた髪を接触させて相手のスキルを強奪しようとも試みたが、



――『レジストされました』



 少年は絶句した。


 少年は動揺を隠せない。

 自慢の『スキル強奪』と最強の『黒粒子化』が封殺される未来が来るなど想定していなかった。

 これでこのプレイヤーたちに捕まるなんて望んだ結末ではない。

 少年は叫んだ。


「こんなことが……! こんなことがあってたまるかぁっ!」


 展開させる。


 『バイロケーション』で多くの分身をつくり出す。

 『スワンプマン』で対峙しているプレイヤーたちそっくりの泥人形も生み出す。

 『土オートマ生成』で土オートマも大量生産。

 加えて『コピーキャット』を用いて、スパルトン、見えない何か(クリアモンスター)、プディンも量産。

 それらに『ディープフェイク』を使って姿を二十を超すプレイヤーたちのものに変える。

 または『透明化』を使って見えなくしたり、『シェイプシフト』と『生態模写』でカプルピクニスに変身させたり、『宝の持ち腐れ』の効果で『形質変化』と『魔法の身体』を使えるようにして物理に強い状態を付与したり。

 『顕現術:陰(自分)』で単純に戦力を二倍にする。


 『黒粒子化』で粒子に変えることはできなかったが、このスキルを使った時に倒れたということはまったくの無意味だったというわけではないはずだ! と観測した少年は増やした分身体に『黒粒子化』を使わせる。

 さらにそれと似たような効果が得られるスキルも併用した。

 『旅は道連れ世は情け』で、分身がやられた際にやった相手も死ぬ状態にし、対象を融かして大ダメージを与える『コラプション』も解禁。

 特に『黒粒子化』と『コラプション』は射程が短いため『髪には神が宿る』、『天上天下唯我独尊』、『マジックアーム』、『背面取り』、『影隠れ』、『素早さ倍化』、『猪突猛進』などでカバー。

 それだけでなく、分身に『六文銭』を使用して復活するようにする。

 本来なら分身の復活はあり得ないが、『規制緩和』のスキルで可能にしていた。

(『旅は道連れ世は情け』の効果は『六文銭』の効果が発動する前に現れる)


 あとはダメージを与えるスキルの乱用。

 『遅延攻撃』、『追い打ち』、『闇討ち』、『爆弾化』『物体操作マイナス』。

 相手の動きを制限するスキルも多用。

 『重力操作』、『引力操作』、『斥力操作』、『地属性の賢者-』や『プディン沼-』。


 これほどまでに少年がスキルを連発することが可能だったのはシニガミから『スキルによる消費MP0』を奪っていたからである。


 ちなみに、『Exp強奪』、『ステータス強奪』、『装備強奪』などの盗む系のスキルや、『ブレインウォッシング』、『憑依』、『とりかえっこ』などの身体を乗っ取る系のスキル、『イニシアティブ』、『コントラクト』、『蛇睨み』、『何も聞こえない』などの特殊な状態にするスキルは、二十を超すプレイヤーたちには効かないようになっていた。



 どんどん増えていく少年側の戦力。

 MPが減らないからとどまるところを知らない。


 全身鎧の人物が少年のスキルを消滅させようとしたり、

 褐色肌の女性がスキルでつくられたものを一撃で粉砕していたり、

 時計の杖を持った人が瞬間移動をするかのように敵を薙ぎ払っていたり、

 貴婦人のような人がダメージを受けずに敵陣に突っ込んでいたり、

 パンダみたいな人がダメージを気にせず暴れ回っていたり、

 ドクロの杖を持った人、牛の頭蓋骨のお面を被っている人、迷彩服の男性がテイムモンスターを呼び寄せたり、

 キューブの杖を持った人、豪華な着物を着た女性、アリスっぽい服を着た少女が魔法や武器、相手の身体の一部を操ったり、

 がたいのいい強面スキンヘッドの男性、黄色い神官服の女性が地形を変質させたり、


 と、驚くほどの速さで分身やモンスター、人形を倒していっているが、鼠算式に増えていくため「少年たち」の数は減ることはなかった。


「「「「「「「「アハハハハ☆ やっぱり僕に敵うわけがないんだよ! どれだけ束になろうともねっ!」」」」」」」」


 勝ちを確信した少年。

 その時だった。



「見つけた!」



 女の子の声が響いたのは。

 少年が声のする方に顔を向けると、そこにいたのは赤い頭巾を被った女の子。

 その手には四つ葉のクローバーが摘ままれていた。

 直後、その四つ葉のクローバーは箱のようなアイテムに形を変えていく。

 それは彼女が四つ葉のクローバーを見つけることができた報酬として与えられたレアアイテム「簡易テント」だった。

 頭巾の女の子がそのアイテムを使うとテントが自動で設営され、その辺り一帯が安全地帯となる。

 すると、



――消えていく少年の周りの分身や彼がつくった人形、召喚したモンスターたち。



「なっ!? どうなって……っ!?」

「……このテントの近く、使用者に害のあるスキル、無効」

「はぁっ!?」


 突然のことに驚いた少年に頭巾の女の子が解説する。

 少年は目を剥いた。



 固まった少年を全身鎧の人物が取り押さえる。


「うがっ!?」

「お前は囲まれている! もう逃げ場はない! 観念するんだな!」

「……っ!」


 地面に少年を伏せさせて、その周りを二十を超すプレイヤーたちが囲んだ。

 決着はついた、かのように思われた。

 だが。


「……舐めるなよ! 『規制緩和』! からの『安全地帯侵略』っ!」


 少年が無理やりスキルを発動させた。

 「簡易テント」が壊れ、その周囲の安全地帯が消滅する。


 少年は『斥力操作』を使って他のプレイヤーたちを吹き飛ばす。


「「「うわっ!?」」」「「「あうっ!?」」」「「「ぐはっ!?」」」


 周りに誰もいなくなったところで少年は立ち上がり、また増えて形勢逆転を計ろうとした。

 ……ところが。


「ハッ! これで決めう――!?」



――少年を襲った突然の身体の痺れ。



 少年は動けなくなった。


「らんれ? ろーしえ!?」


 困惑する少年の疑問に誰かが答える。

 その声が発せられていたのは何故か少年の口からだった。


「簡単じゃ。おぬしの身体の中で薬師殿の麻痺薬を使っただけじゃよ。大口をあけて笑っておったからのぅ。



――入りやすかったぞ?」



「っ!?」


 そう言いながら少年の口の中から這い出してきたのは小人の人。

 この人物は自分の身体を小さくするスキルを持っていた。

 そのスキルを使って少年の身体の中に侵入していたのだ。


 自分の身体の中から小さな人間が出てきたことに驚きを禁じ得ない少年。

 パニックに陥りながらも、少年はこの危機的な状況から脱する方法を必死に模索していた。

 それで麻痺状態にさせられていても、身体を動かさないスキルであれば使用することは可能であることに気づく。

 『規制緩和』で『髪には神が宿る』を発動させ、二十を超すプレイヤーたち全員に接触。

 『黒粒子化』や『コラプション』を連発した。


 倒れて復活を繰り返すプレイヤーたち。

 無限に復活する、という特殊効果を装備に付けられるはずがなく、全員が復活していることからこのゲームは同じスキルをつくれないためスキルの影響とは考えにくい。

 やり続ければいつかは黒い粒子になって消えるはずだ! と少年は睨んでいた。

 しかし。



――何度倒しても復活し続けるプレイヤーたち。



「んあ!?」


 恐怖すら感じ始めたその時。

 少年は何かを捉えた。



――目にもとまらぬ速さで動き回っている人たちの姿を。

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