第309話(第八章第26話) 本当の栄光を手にするのは1(セツ視点から)

『シニガミからの協力は得られました。あいつらのスタンバイが完了しています。セツ、マーチ。準備ができましたら目的地に向かってください』


 ライザからの通話が終わります。

 私はマーチちゃんと顔を合わせ頷き合って。

 豪商のマーチちゃんがいることで開けていた露店を閉じて、ライザから指示された場所を目指しました。



~~~~ 第八層火山エリア「メラメラの街」 ~~~~



「……おかしい。おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……!」


 レンガを積み上げてドーム型に形成された建物が並ぶ街で、子猫みたいな愛くるしさを持つ少年が黒い雲が覆う空に向かって吠えていた。

 というのも――


 それは数十分前(ゲーム内)のこと。

 六人の男たちからスキルを奪った少年は調子に乗っていた。

 いつもより早い時間にプレイしていた彼は、多くのプレイヤーがログインしているのを見て、スキル狩りをしよう! と思い立った。

 そして、目をつけたプレイヤーたちに奇襲をかけたのだが、



『レジストされました』



 『スキル強奪』を使おうとしたらこんなアナウンスが頭の中に流れたのだ。

 少年は、何かの間違いだ、と思ってもう一度試すも結果は変わらず。

 どうやってもスキルを奪えない、という少年にとっては謎の現象が発生していた。


 だから少年は、一からのやり直しにさせて再スタートしたところを襲ってスキルをいただこう! という発想に至った。

 『黒粒子化』の性能も試したかった少年は、名案だ! と自身の案を賞賛した。


 それで『黒粒子化』を使ってみたのだが、



「強化された俺たち『777』の敵じゃねぇ――ほぎゃああああ!?」

「「「バカラーっ!」」」

「だ、大丈夫だ! アレのおかげで助かった……! こ、こいつはやべぇ! 撤退するぞ!」

「……!?」



 少年からしてみれば、『黒粒子化』を使った相手はどういうわけか黒い粒子に変わることなく生き延びていたのである。

 少年は唖然として、そのプレイヤーたちを逃がしていた。


 そのプレイヤーたちの姿が完全に見えなくなってから、少年は我に返った。

 さっきのはバグか何かだ、と考えて次の獲物を探しに行く。

 そうして見つけた標的に襲い掛かった。

 だが。



『レジストされました』


「この子って討伐依頼が出されてた子!? って――きゃああああ!?」

「「「ホーネットっ!」」」

「ぶ、無事です! この相手は危険です! 一旦引きましょう!」

「くそ! 我ら『スターバグ』が敵前逃亡することになろうとは……!」

「……?」



 またしても期待通りの結果を得られず。

 標的を変更するが……。



『レジストされました』


「これやべぇんじゃねぇですかい!? アレ、尽きちまいますぜ!?」

「退散! 退散する!」

「ログアウトだ! 急げ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! ジャック、ジョーカー、キング!」

「?」



『レジストされました』


「やっと見つけましたわよ、迷惑プレイヤーさん! わたくしたちが来たからには――あぎゃああああっ!?」

「大変だ! プラプリが死んだ!」

「まだ生きていますわ! 勝手に殺さないでくださいまし!」

「でも、アレがなかったら死んでました」

「うぐっ! み、皆さん、退きますわよ!? この迷惑プレイヤーさんを倒すには作戦が必要ですわっ!」

「了解」「り」「わかりました」

「!?」



『レジストされました』


「ユピテルさああああんっ!」

「も、問題ない! 退避だ、退避ぃ!」

「……」



『レジストされました』


「ジャヴァさん!?」

「ぐっ! 備えていたからなんとかなった……! だが、こんなバケモノ、どう戦っても勝ち目がない! 逃げるぞ!」

「……っ」



『レジストされました』


「……くっ、我ら『ギフテッドの兵団』もここまでか。あとは『旅団』様方にお願いするとしよう」

「俺たち、ただやられてただけだけどな。持ち物のおかげで死んでなかっただけで」

「……っ!?」



『レジストされました』


「報告。パーティ名『CODE:S』の勝率0%。推奨、速やかなログアウト」

「……っ!」



 狙ったプレイヤー狙ったプレイヤー、その全員からスキルを奪えず、黒い粒子に変えられない事象が続出。

 『スキル強奪』と『黒粒子化』が連続で防がれ、そのあとはログアウトによって逃げられる、という事態に陥って、少年はフラストレーションが溜まっていた。



「スキルぅ、スキルをよこせぇ……!」


 新たなスキルを求めて彷徨さまよっていた少年は見つける。

 生産職の二人組を。

 このゲームにおいて生産職とは不遇とされている職業だ。

 いいカモを見つけた! と少年は嗤った。


 二人組に狙いを定めた少年は絶好の機会を窺う。

 二人の後ろについていくと、やがて彼女たちは街を出た。

 そこは他に人がおらず、周囲の目がなくなったことをチャンスだと捉えた少年は二人に襲い掛かった。

 だがしかし。

 少年の魔の手が二人に届くことはなかった。

 少年が触れようとすると、その二人は歪んで消えて行ったから。


 次の瞬間。


「『ミラージュ』解除!」


 どこからともなく女性の声が響き、スキルが解除される。


「……なっ!?」


 少年はいつの間にか二十人を超えるプレイヤーたちに取り囲まれていた。

 アイドルのような子、時計の杖を持った人、ドクロの杖を持った人、キューブ状のものが先に浮いている杖を持った人、牛の頭蓋骨のお面を被っている人、貴婦人のような人、小人のような人、パンダみたいな人、剣士の青年、弓使いの女性、錫杖を持った少女、大楯を持った青年、がたいのいい強面スキンヘッドの男性、黒いローブの三人衆、全身鎧の人物、迷彩服の男性、褐色肌の女性、黄色い神官服の女性、アリスっぽい服を着た少女、赤い頭巾を被った女の子、豪華な着物を着た女性、濁った目をしている王子様風の男、麻呂眉で三白眼の男。


「この数の差はまずい……!」


 そう判断した少年は増えた。

 『バイロケーション』を使ったのである。

 加えて『土オートマ生成』で大量の土オートマも生み出して、数の優劣を逆転させる。


「なーんてね☆ 数の差なんて僕にはないも同然――」


 自身の分身体を百、土オートマを四百つくり上げて余裕綽々の少年。

 ……だったが。

 何故かいきなり少年の分身体の一体が他の分身体を殴ったことで、他の分身体たちも巻き込んで「自分たち」で乱闘を始めた。

 アリスっぽい服を着た少女のスキルだ。

 彼らが「自分たち」で揉めている間に、「かごめかごめ」の呪いで自由を奪ったりスキルで五感を奪ったりして行動に制限をかけ、無数の骸骨、見えない何か、雷、プディン、武器が彼らを襲ってその数を大きく減らしていった。

 土オートマは変形した地面やプディンのような性質に変えられた地形に呑み込まれて全滅した。


「は? ……はああああああああ!?」


 予想していなかった展開に、少年は目を見開き開いた口が塞がらなくなる。

 少年が固まっている間に分身体は一体残らず消滅した。


 少年は二十を超すプレイヤーたちが自分に詰め寄ってきているのを目の当たりにして我に返った。


「このままやられてたまるか!」


 『髪には神が宿る』からの『黒粒子化』――これで即死スキルの射程を伸ばし、『宝の持ち腐れ』でターゲットを複数化するスキル『拡散希望』を掘り出してきて併用。

 周りにいる全てのプレイヤーを標的にして『黒粒子化』を使用した。

(時間経過によりチリチリだった髪は元に戻っている)


「あが……っ」


 倒れる二十を超すプレイヤーたち。

 しかし。

 彼らは黒い粒子になることなく平然と立ち上がった。


「……チッ! あんたらもかよっ!」

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