第308話(第八章第25話) シニガミとの合流

~~~~ アンジェ視点 ~~~~



 美珠は感極まってしまったのか僕に抱きついてきて離れなかったっす……。

 彼女が落ち着くまでの辛抱……っ。

 僕が心を無にすることに努めてたら、コエちゃんが美珠に話しかけてたっす。


「シニガミさん、ライザさんにシニガミさんに会ったら協力していただくように頼まれていたのですが……。あの、シニガミさん?」


 ……コエちゃん、容赦ないっすね。

 まだ感情を落ち着けられてない美珠に協力のお願いをしに行くなんて……。

 この子は鬼かな……? と思いながら、少しそっとしておいてあげて、とお願いしたっす。



 それから少しして。


「ご、ごめん、抱きついたりなんかして……。で、でも、熾織がどうしてここに?」


 平常心を取り戻せたらしい美珠が僕に尋ねてきた。

 美珠からしてみたら不思議っすよね。

 僕は彼女からの質問に答えたっす。


「ライザさんが、シニガミはここにいるんじゃないか? って。彼女、すごいっすよね? 言われた通り来てみたら本当にいるんすから……」

「鑑定士さんが?」

「頭の回転速いっすよね、あの人。それとも、そういうことができるスキルなんすかね?」

「……どっちも、じゃないかな? どちらかが欠けてても成立しない気がするよ?」


 驚きの表情を見せる美珠。

 そう説明してた僕自身も、ライザさんがズバリと当てたことにはたまげてたんすけど……。


 僕たちが、ライザさんってすごい、って話をしていると、この場で唯一パニックになっていた子が口を開いた。


「え、え……? あ、あの、シニガミさん、なんですか? 本当に……!?」


 これはパインちゃんの言葉。

 ……ああ、そういえばゲーム内の美珠の姿、変わってたのをすっかり忘れてたっす。

 僕にとっては見慣れた姿だったんで……。

 あと、コエちゃんが普通にシニガミだって認識できてた、ってこともあって、パインちゃんも見抜けてるものだ、って勝手に思い込んじゃってたっす。

 ……ん? あれ?

 コエちゃん、今のシニガミをなんでシニガミだって識別できたんすか?

 結構、変わってると思うんすけど……?


 僕がこの謎に頭を悩ませている間に、美珠がパインちゃんと話していた。


「そ、その、前の姿は設定で弄ってたんだ。僕、も、自分は男だって思ってるんだけど身体は違くて……。こっちが本当の僕の姿……。また前の姿をつくってそれでプレイしたかったんだけど、熾織たちに迷惑かけるわけにはいかなかったから早く強くなろうとして焦って、見た目変える時間省いちゃってた……」

「な、なるほど……」


 美珠が彼女の事情を打ち明けると、美珠とパインちゃんの二人の間に重たい空気が立ち込める。

 少しの間沈黙が訪れていたけれど、美珠が意を決してそれを破った。


「えっと、僕と、と、友だちになってくれないかな!? そのっ、僕とおんなじ身体が女の子で心は男、っていう人と会ったの、僕初めてで……!」

「……ふぇ!? え、えっと、ボク、違うよ!?」

「……えっ? で、でも、『ボク』って言ってたし、君のパーティの子が君のこと『お兄ちゃん』って言ってたから、君も心と身体で性別が違う、ってことなんじゃ……?」

「あの、えっと……! ボクは身も心も男の子だから……!」

「え、ええっ!? じゃ、じゃあ、熾織と一緒、ってこと!? ネカマだったの!?」

「え……あっ! ち、違うよ! ……あっ、今の状況じゃ、違う、って言いきれないかもだけど……! す、好きでこの格好をしてるわけじゃなくて、迷惑なプレイヤーさんのスキルで設定を変えられてこんな格好になっちゃってるだけで……!」

「えっ? そんなスキルがあるの!?」

「う、うん、『肉体改造』っていうスキルみたい。それでこの姿にさせられちゃったんだ……。ボクとしてはすぐにでも戻りたいよ! あれからずっと、ボクにそのスキルを使ったプレイヤーさんを探してる……! だ、だから、本当のボクはもうちょっと男っぽいんだからね!?」

「そ、そうなんだ……?」


 パインちゃんのことを、自分と同じ境遇の子、だと捉えていた美珠。

 けれどパインちゃん、ううん、パインくんは美珠とは違って、正真正銘男の子、とのこと。

 ……え? ええええええええっ!?

 これには僕も驚愕した……。


 それからパインくんの事情を聞いて。

 スキルで女の子にされていることを知った。

 ……奇しくも、今のパインくんの状態はリアルの美珠と同じ、と言えるっす。

 女の子でプレイしようと思ってたわけじゃないのに女の子でプレイすることを余儀なくされているんすから。


 僕は考えて美珠に提案した。


「この子と友だちになるのは美珠にとってプラスになると思うっすよ? ゲームの中だけっすっけど、これ、美珠と同じ、って言えるっすよね?」

「た、確かに……! で、でも、リアルじゃ男っぽい、って言われるとなぁ……。現実の連絡先を交換するのは難しいかも……。いつでも相談できるようにしたかったんだけど……。僕、男の人と接する時、ビクッてなっちゃうし……」

「……あー……、美珠、男性恐怖症のきらいあるっすもんね……。周りにいた野郎どもがクソだった所為で……っ」

「熾織はそんなことしなかったから平気だけどね。……あーあ、熾織みたいに中性的で両声類だったらなぁ……」


 美珠がパインくんと友だちになるのはいいことのように思えた。

 ただ、美珠には別の問題もあって、この提案を採用できそうにはなかった。


 僕と美珠は難しい顔をしていたのだと思う。

 そこにコエちゃんが言ってきた。


「リアルのパインさんですが、娘と書いて男のですよ? 女の子より断然女の子らしいです。見た目も声も仕草も」

「「え?」」

「ちょ、ちょっとコエちゃん!? 何言ってるの!? っていうかなんでリアルのボクのこと知って……っ!?」


 もたらされた情報は、パインくんが男のである、ということ。

 しかも、これまでの彼の発言から考えると、この子は男らしくなりたいタイプの男のだと思うっす。

 パインくんも美珠とは別の難しい問題を抱えているんすね……。


 兎も角。

 美珠とパインくんは友だちになることになったっす。




「そんなことは置いておいて、協力の話を進めさせていただいてもよろしいですか?」

「そんなこと!? ひ、ひどいよ、コエちゃん……っ」


 おおう、えぐい話題の転換の仕方をするっすね、コエちゃん……。

 パインくんが泣いちゃってるっす……。

 ……でも、美珠を見つけたら行う予定だった話なわけっすっからそっちの方が優先度が高いのは仕方ないっすよね。

 パインくんは可哀想だったっすっけど……。


 コエちゃんはどこかからアイテムを取り出して美珠に説明を始めた。


「現在、他プレイヤーのスキルを奪い回っている不届き者がこのゲームの世界に現れています。それはご存じですよね?」

「う、うん。僕も襲われちゃったし……」


 まず確認を取ったコエちゃん。

 美珠が頷くとコエちゃんは続けた。


「私たち『ラッキーファインド』は装備への特殊効果付与であったり、特製ポーションの販売を行うなどしてその輩がもたらす被害を抑えようとしてきました。それは一定の成果を得られていたのですが、残念ながら根本的な解決には至っていないのが現状です。加えて、シニガミさんの『黒粒子化』も奪われてしまいました。このままでは被害が甚大になることが想定されます。そこでライザさんはこちらから打って出る作戦を立てました。シニガミさんには



――『スキル変更の巻物』で今から言うスキルを取得してもらいたいのです」



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