第307話(第八章第24話) 一からのやり直しの果てに
~~~~ シニガミ視点 ~~~~
「……会いたい、熾織に会いたい……っ」
心が潰れそうになっていた僕はそう呟いていた。
今は兎に角、熾織に傍にいてほしかった。
彼はいつも、『僕』に元気をくれていたから。
……今は夜中だし、現実で会うのは難しい。
でも、もしかしたら。
もしかしたら、熾織も今、ゲームをやっているかもしれない。
彼は結構きっちりとした性格で規則正しい生活をしているから望みは薄いけれど。
……第二層に行けば会えるんじゃないか? そんな気がして。
僕は「スクオスの森」に向かっていた。
ただ……。
弱体化した僕じゃ、「スクオスの森」の攻略すらままならなくなっていた。
僕は、最下級のスクオスに一からのやり直しにさせられる羽目になった。
それも、何度も、何度も……。
弱体化した僕のスキルは運ゲーの要素が強くなってしまっていた。
四回に一回しか当たらないのに、当たったとしても四分の一しか削れない……。
『バイロケーション-』は一回使っただけでMPが枯渇する……。
運よく『バイロケーション-』の消費MPが0になったとしても、大量のスクオスがはびこるダンジョンを上り切ることはできなかった。
一対一でもMPが残らないのに、複数体でやってこられたらなす術なんてない。
一体を対処している間にその他の個体たちにボコボコにされてしまう……。
分身体がいても二体の相手が限界だった。
何回やり直しになったのかわからない。
たぶん、十回以上はやられてた。
そこで僕はようやく、レベル上げをしてMPの上限を引き上げるべきだ、という発想に至った。
一番簡単な「リスセフ平原」に向かおうとした時、ピピピッと電子音が聞こえてきた。
セットしてたアラームの音。
……えっ、もう学校に向かう準備をしなくちゃいけない時間なの!?
どうやら、僕が想像していたよりも時間が経っていたようだった。
……でも。
これでやっと熾織に会える。
彼に会えればきっと、この悲しい気持ちを吹き飛ばすことができるはずだ……。
……………………
それで現実で学校に行って、熾織に会えて僕はホッとした。
彼はいつも、僕の味方をしてくれる。
心の問題を抱えている僕は奇異の目で見られたり、普通じゃない・異端だ、と避けられることが間々あったんだけど、彼だけはずっと僕が望むように接してくれていた。
だからだと思う。
彼といると落ち着くのは。
でも。
熾織に昨日(というか今日)ゲームであったことを話そうとした時。
僕は思っちゃったんだ。
――これって、熾織に迷惑をかけるだけなんじゃないか? って。
ゲームでの今の僕は前とは比べものにならないくらい弱体化している。
そんな状態の僕を熾織のパーティに加えてもらうのはよくないことのような気がした。
現実でもお世話になりっぱなしなのに、ゲームでもそれじゃあ……対等じゃない。
そんなのは親友とは言えないんじゃないか――そう感じた。
そんなことを考えていたら、熾織に話し掛けられて。
大丈夫か? って聞かれたけど、僕はとっさにごまかしてしまった。
それに加えて、彼を避けるような発言もしてしまう。
彼の負担にはなりたくない……! その思いが先行して。
放課後になって。
僕は僕のキャラを強くするために、用事がある、って熾織に言って急いで家に帰った。
帰宅してすぐさま「
今日は課題が出されてなくてよかった。
……………………
「リスセフ平原」に向かう。
MPの最大値を上げられれば少しはまともに戦えるようになるはず……!
そう信じて、時間をかけて一体ずつ倒してレベルを上げていった。
レベルがもう少しで5になるってところで……。
それまでは順調だったんだけど、今までの調子の良さが嘘のように十体のリスセフに囲まれてしまって……!
このダンジョンでこれだけの数が同時に出てくるのを見たのは初めてだった。
僕は、あっけなくやられてしまった。
また再スタート……。
空しくなってくるけど、他にできることなんて思いつかない。
だから僕は、また「リスセフ平原」へと向かった。
現状をどうにかしたいのに。
どうにかしなければいけないのに……っ。
今度はダンジョンに入ってすぐ、リスセフ五体と遭遇してしまった。
五体が、一気に攻めてくる。
……ああ、また死ぬのか。
僕の心が悲鳴を上げているのがわかった。
ここでやられたら、僕はもうこのゲームを続けられないかもしれない。
壊れそうになっていたその時だった。
「美珠ぁっ!!」
聞こえてきた。
昔からよく聞いていた声。
中性的で、女の子のキャラにしても変わらなかったその声が。
すぐに視界に入ってくる。
猫っぽい三角の白い耳が頭についている線の細いその後ろ姿が。
髪の色と耳は変わっているけど、それは今までに何度も見てきた後ろ姿で。
「熾織……っ!」
彼が、彼が来てくれた。
来て、しまった。
彼は叫ぶ。
「『天使の歌声』!」
光のベールが僕たちを包んだ。
その状態の僕たちを攻撃してきたリスセフは、ものすごい勢いで吹き飛ばされていった。
僕は熾織に守られたんだ。
「な、なんで、熾織がここに……!?」
僕が混乱しながら尋ねると、彼は真剣な表情で――
「美珠のピンチを放っておけるわけないっす!
――親友なんすから!」
「っ」
僕は熾織の迷惑にならないようにしようとしていたけど。
熾織はそんなこと、まったく気にしていなくて。
……ああ、もう。
ほんと、熾織には敵わないな……、って感じた。
~~~~ アンジェ視点 ~~~~
ライザさんからもらった『旗』を使って第一層に行くと、そこは閑散としていた。
美珠の姿はない。
あれ?
と、とりあえず、美珠の姿を見た人がいないか、って思ってプレイヤーがいそうな宿屋に入ろうとしてた時っす。
その子は現れた。
噴水を挟んだ位置、そこが急に光り始めて。
――一人の女の子がそこに立っていた。
それは現実と何も変わらない『美珠』の姿で。
僕は美珠に声を掛けようとしたけれど、彼女は僕たちに気づかずに走り出してしまった。
呼び止めようとするも、声は届いていないみたいで。
僕は、僕たちは慌てて彼女のあとを追い駆けた。
追いつこうと思えば追いつける速さだったけれど、それをしなかったのは学校やさっきの美珠の様子を見てしまったからだと思う。
……彼女が僕を避けようとしてる気がしたんす。
だから追いついて、もし嫌な顔をされたら? って思うと僕の足は重くなった。
結局、一定の距離を保ったままダンジョンに入っていく美珠に続いてダンジョンに入った。
(コエちゃんとパインちゃんは様子がおかしくなった僕に戸惑いながらもついてきてくれてたっす)
景色が歪んで雰囲気が変わった瞬間。
僕の目に飛び込んできたのは、
――美珠が襲われているという光景。
それを目の当たりにして、僕は。
「美珠ぁっ!!」
叫んで飛び出していた。
……それからのことはあまりに必死すぎてよく憶えていないっす。
気がついたら敵はいなくなってて。
美珠は僕に抱きついてて……ハッ!?
ぼ、僕は慌てて彼女を引き離したっす!
……その、美珠ってパインちゃん(※ゲーム内・現時点)並みにやべーのをお持ちなんで、美珠が僕に求めてる行動がとれなくなる恐れがあったんで……。
えっと、とりあえず……。
無事に合流できてよかったっす。
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