第305話(第八章第22話) シニガミの様子
~~~~ アンジェ(熾織)視点 ~~~~
「課題、提出できてよかったっすね。今度からちゃんと勉強するっすよ?」
「……」
「今日から『GO』やるんすよね? まだパーティを組んでたままになってるっすっけど、それはそのままでもいいっすか? また人数が揃ってないと参加できないイベントとか行われそうっすし……」
「……」
「……美珠?」
「……」
十月二十六日(現実)。
先々週返却されたテストの用紙(全教科)に目を覆いたくなるほどの点数が記されていた美珠は、目が飛び出そうになるほどの課題を出されていた。
それを美珠は今日、提出してたっす。
期日は今週の金曜日までだったんで、木曜日の今日提出できたってことはこれで赤点を取ったことはなんとかチャラにできたって感じっすね。
本当によかった、って思うっす。
美珠に留年なんてしてほしくないっすっからくどいようっすっけど、勉強するように! って何度目かもわからない注意をしたんす。
僕がうるさく言うといつもなら、わかったよ……、とふてくされ気味に言ってくるんすけど、この日はなんだか様子がおかしくて……。
反応がなかったんす。
ゲームの話をしても、名前を呼んでも、ボーッとしてて心ここにあらずの状態で……。
「美珠!」
「ひゃっ!?」
あまりにもぼんやりとして動かない姿を見て心配になった僕は、思わず美珠の肩を掴んじゃったっす。
そうするとビクッとして慌てて誰が掴んできたのかを確認してくる美珠。
……やっと動いたっす。
「な、なんだ、熾織かぁ……。驚かさないでよ……。それで、どうしたの?」
掴んだのが僕だとわかると、彼女は安堵の溜息を洩らしたっす。
……ただ。
どうしたの? じゃないんすよ。
「どうしたの? はこっちのセリフっすよ? ……大丈夫っすか、美珠? ボーッとしてたけど……」
「っ、だ、大丈夫! えっと、昨日遅くまで課題やってたからちょっと疲れちゃっただけ!」
「美珠……」
僕は質したっす。
どうしたの? って聞きたかったのはこっちだったから。
彼女は明らかに暗い表情をしていた。
だから問うた。
……なのに。
彼女は、隠したんす……。
どう見ても夜遅くまで課題をやっていただけでなる顔ではなかったのに、そうだ、と言い張った。
僕は彼女がこんなことになってしまっているわけをちゃんと聞かないといけない、と思った。
……けれど。
「美珠、何があったんすか――」
「ちょっ! 助けてくれ、
「っ。……」
隣のクラスの子が乱入してきて阻まれた。
阿月と同じクラスの子っす……。
どうせまた阿月の心のことで心無いことを言って揶揄ったバカがいるのだろう。
阿月のことは放っておけないっすっけど、美珠との話も終わっていない……。
悲しそうな表情をしている美珠のことを置いていくことにも抵抗を覚える。
僕が逡巡していると、美珠が言ってきたっす。
「行ってあげて。烏丸くん、すごく傷ついてると思うから」
「っ、……ごめん。行ってくるっす……!」
僕は美珠に背中を押されて、急いで隣のクラスへと向かっていった。
教室を出る際、少しだけ振り返って見た美珠は、いつもより小さく見えた。
それから美珠とは話せず仕舞い……。
いつも元気でいた彼女が落ち込む姿を僕が見たのは二回目で……。
前回の時のことを思い出してしまって、僕は元気のない彼女にかける言葉が見つけられなかった。
美珠も心のことでいろいろと言われてきてたから……。
気がついたら放課後になっていて。
美珠は帰ってしまっていた。
ちょっとやらなきゃいけないことがあるから……! と足早に。
僕はとぼとぼと教室をあとにした。
……阿月も早退してたし。
どうやって帰ってきたのかはあまり憶えていないっす。
たぶん、いつもの道をいつも通りに歩いて家まで辿り着いたのだと思う。
家の中に入った僕は、もやもやする気持ちを紛らわせるためにゲームをすることにした。
幸い、今日は課題がでてないっすし。
……………………
ログインすると、「ラッキーファインド」のお店の前にいたっす。
ここ、
……。
僕はなんの気なしに美珠……シニガミの居場所を確認してみようとメニュー画面を開いた。
用事があるみたいだったからゲームをやってるはずがない、って思ってはいたんすけど……。
でも、そこで。
僕は目撃してしまった。
――他のパーティメンバーの位置・ベリア:ログアウト済み
記してあったのはそれだけ。
シニガミの名前が、そこにはなかった。
「え――」
僕は何も考えられなくなって。
その場に立ち尽くしていた。
どれくらい固まっていたんすかね……?
一瞬にも永遠にも感じたっす……。
やっと考えられるようになって、だけど、思いつくのは悪いことばかりで……。
「ど、ど、どうやってパーティから抜けたんすか!? 許可がないと抜けられないはずじゃ……!?」
……もうパニックっす。
状況を呑み込めなくてただただメニュー画面を見ることしかできなくなっていた僕。
そんなところに、
「……店の前で何突っ立ってやがるんですか、アンジェ……」
お店の扉を少しだけ開け、そこから顔を覗かせて僕のことを訝しそうに見てきた女の子が一人。
ライザさん――
彼女は不思議となんでも知っている。
もしかしたら彼女ならこの謎の現象の答えがわかるかもしれない……!
そう思った瞬間、僕は彼女に縋っていた。
「ミ、シニガミが! いつの間にかパーティから抜けてて……っ!」
僕がそう伝えると、彼女は空中で指を走らせる。
それから、血相を変えた。
お店の中の方に顔を向けて彼女は言った。
「あいつ……! セツとコエ、あとは……パインも!
「ええっ!?」
「了解しました」
「ぼ、ボクも!?」
さっき聞いたばかりのはずなのに、すぐに指示を出していたライザさん。
……本当に怖いくらいなんでも知ってる。
でも、今は。
すごく頼もしかった。
「ぼ、僕もシニガミを迎えに行くっす!」
申し出る。
僕が所属するパーティーのことなんだから何もしないわけにはいかない……! って。
「アンジェが行くなら……! セツ、変更です! なーとマーチには違うことを頼みます! アンジェたちは『始まりの街』の広場に行ってください! そこで待っていれば会えるはずですから! あと、コエは『巻物』を二つ持っていって! シニガミにスキルを替えさせてください! 替えるスキルは――」
……本当にどこまで先が読めているんすかね?
ライザさんはコエちゃんに、美珠を見つけたあとどうすればいいのかを説明していた。
これが「ファーマー」の参謀……。
コエちゃんもコエちゃんで、ライザさんの早口気味の説明を一回で聞き取れてた。
この子も大概っすね……。
兎に角、美珠がどこにいるのかわかった僕は、第一層へと向かおうとした。
それをライザさんが止めてくる。
「まだ終わってねぇんですよ! アンジェ! なーにこれを渡しときます! 『踏破者の証』と『パワーアップの秘玉』! これで『天使の歌声』をパワーアップしてください! インターバルを4分くらいにできます!」
「うぇっ!?」
ライザさんが言いながら『旗』と『きれいな石』を渡してくれたんすけど。
……とんでもないアイテムなんじゃないっすか、これ!?
と、とりあえず、準備完了みたいなので美珠の元に向かうっす……!
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