第304話(第八章第21話) 大きな被害と戦犯
~~~~ シニガミ視点 ~~~~
どんどん消えていく「僕たち」……。
僕は頭の中が真っ白になっていた。
「な、何をしたの……!?」
もう聞くことしかできなくなっていて……。
僕の問いに、相手は答えた。
「君の分身スキルを無効化したんだよ。だから分身体が消えていってるんだ☆」
「っ!」
この子!
持ってるスキルがヤバい……!
相手のスキルを無効化するスキルって……っ!
そんなの、スキルが命のこのゲームじゃ反則級のスキルじゃんっ!
目の前の子に対する警戒心が急激に上昇する。
無意識だったけど、距離を取っていた。
近くにいたらまずい……! そんな気がしたから。
充分な間隔をあけて、相手が何かしてきたとしても対応できるようにする。
すぐにはやられないはずの位置にまで移動できたから、少しだけ落ち着くことができた。
パニックに陥っていた心が少しはまともに考えられるようになる。
……考えるべきは相手のスキルだ。
行動原理は考えてもわかりそうになかったから……。
たぶん、この子は遠隔での攻撃ができると思う。
最初に僕が食らったアレ。
あの時、周りに人やモンスターの気配はなかったし、物を投げられた形跡もなかった。
だから、アレは距離があっても攻撃できるタイプのスキルのはず。
あと、この子は転移系のスキルも持ってる。
僕の背後に一瞬で移動してたから。
で、最後はスキルを無効化するスキル、か。
どれも厄介だな……。
とりあえず、注意を逸らしてはいけないことは改めて理解した。
その子のことを注視していたら、地面に波紋が生じてそこからまた泥人形が出てきた。
またこれか……!
……また?
『黒粒子化』で泥人形の対処をしながら違和感を抱える。
この泥人形を生み出すのは、間違いなくスキルだ。
でも、それはおかしい。
「遠隔攻撃」と「瞬間移動」、「スキル封じ」に「泥人形の生成」……っ。
スキルの数が合わない……!
スキルを4つも持ってるなんて……! って愕然としたけど、それだけじゃなかった。
思い返してみたらあの子は、街の中なのにダメージを負わせられるスキル、も持っていたじゃないか……!
「……いったい、いくつスキルを持ってるの……!?」
思わず、疑問が口をついて出てしまった。
その言葉に相手の子が反応する。
「あれれ~? 知らなかったんだ☆ あんなに大々的に伝えられてたのにぃ~? 僕、『スキル強奪』で他人のスキルを奪うから、って『運営』から討伐対象に認定されちゃってるんだよね☆ PKもまあまあやっちゃってるし」
「っ!?」
あまりにも衝撃的な内容に、身体が勝手に動いた。
僕は反射的に「運営からのお知らせ」を目の前に表示させていた。
そこにはさっき、その子・アメショが言っていたことが書かれていて。
……信じられない。
こんな如何にも純粋そうで人の悪い部分なんて知らなさそうに見える子が害悪行為を働いていた、なんて……っ。
僕は事実が頭の中に入ってこなくて、固まってしまっていた。
「ボーッとしてていいの?」
「はっ!?」
い、いけない……!
相手はまだ臨戦態勢を取っていたっていうのに……!
集中しないと!
迫ってくる僕を模した泥人形たち。
僕はそれを崩していく。
『黒粒子化』で、範囲内に入ってきたものから倒していっていたけど、相手も倒された次から次へと泥人形を生み出していた。
き、きりがない……!
……ううん! あるはずだ!
MPが尽きれば……っ!
それから数分して。
事態は動いた。
異変が生じたんだ。
――僕の身体に。
「何、この感覚……?」
くらっとした。
今までに体験したことのない感覚だった。
そしてそれは、もたらした。
――スキルの不発を。
「な、なんで!?」
……おかしい。
おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……っ!
またスキルを無効化されたのか!?
ううん、あの時にこんな感覚はなかった!
じゃあ、これは……っ。
相手を見遣る。
その子はまだ泥人形を召喚することができていた。
あの子は僕よりも多くのスキルを使っているからMPも相当消費しているはずなのに……。
……まさか!
「『スキルによる消費MP0』を奪われた!? いつの間に……!?」
相手が持っているという凶悪なスキル・『スキル強奪』を使われた……そうとしか考えられない!
どのタイミングで使われたのかは全くわからないけど、この状況は明らかにピンチだ。
焦る僕に、相手の子が口角を吊り上げて言ってくる。
「あは☆ 気づいた? 触れることさえできれば奪えるんだよ。いつもなら髪を伸ばしてそれで触れて奪うんだけど、廃課金者に髪をチリチリにさせられちゃってさ~。スキル使っても上手く伸ばせなくってどうしよう、って思ってたんだけど、直前でいいスキルを手に入れられてたんだ。対象Aを攻撃したら対象Bにダメージが入る、ってスキルなんだけど、あれ、
――相手に触れたっていう判定になるみたいなんだよね~!」
「っ! あ、あの時……!?」
それは最初も最初。
この子が僕にダメージを与えた時。
その時すでに、この子は僕の『スキルによる消費MP0』を奪っていたんだ!
それに気づかなかった僕は、スキルを使用しすぎてMP切れを起こしてしまっていた……っ。
今までMPが減ったことがなかった僕は、MPを管理する癖がついていなかった。
呆然とする僕の前にその子が、アメショが立つ。
「目的の即死スキルももらったし、それじゃ君には退場してもらおうかな? バイバイ、元最強プレイヤーさん☆」
「そ、そんな――」
奪われたらしい。
『黒粒子化』も。
『バイロケーション』も……っ。
いやらしい笑みを浮かべるアメショによって。
僕は黒い粒子へと変えられてしまった――。
~~~~ そのころ、ゲーム内・第六層「リスセフの氷の宮殿」1階 ~~~~
一人の少年がダンジョンの中を走っていた。
24階から猛ダッシュで階段を駆け下りてきていた。
彼のレベルは4,000以上あり、攻撃力と素早さはそれなりの数値を示している。
モンスターフロアを通ることも難ではなかった。
それなりの数値の素早さを駆使してその第六層最難関ダンジョンの1階へと辿り着いた少年は、早く「ツルツルの街」の宿屋に行って報酬を受け取りたい! と考えていた。
ダンジョンの入口が見えてきて、少年は嬉々としてそこへ向かう足を速めていく。
ただ、もう少しでダンジョンから出られる、といったところで。
彼の前に一人の人物が立ち塞がった。
――頭部のフルフェイス型の兜だけ黒く、他は黄金のフルプレートアーマーとマントに身を包んだ人物が。
「お、お前! どうやってここに!?」
その人物は、第七層にいた人物だった。
第七層にいた人物がレベル4,000を有している自分より早く「リスセフの氷の宮殿」ダンジョン1階の出入口付近に着いている、ということが少年には理解できなかった。
全身鎧の人物が説明する。
「『帰還の羽』を使っただけだ。あれを使えばひとっ飛びだからな」
「な……っ!」
全身鎧の人物は第六層の最難関ダンジョンに入って「帰還の羽」を使用していた。
そうすれば「ツルツルの街」に転移できる。
少年よりも早かった理由はこれだった。
「一旦落ち着け! あいつを一からのやり直しにしてもまた同じスキルを取られたら意味が――」
「くそっ!」
「あっ、おい! 待て!」
全身鎧の人物は少年に大事な話をしようとするが、少年はその話を聞かずに来た道を戻ってしまう。
「4階の安全地帯で今日は終わろう! 報酬ゲットは明日だっ!」
少年はまだ見ぬ未来に思いを馳せていた。
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