第303話(第八章第20話) この手に栄光を・続3

~~~~ ゲーム内・第七層魔法エリア「キラキラの街」 ~~~~



「やった、やったぞ……! 俺がPKKを達成してやった! 俺の手柄だっ!」


 剣を刺されて黒い粒子となって舞っていくアメショを見て、ロードは狂喜した。

 うるさくするロードに全身鎧の人物は眉をひそめる。

 フルフェイス型の兜でその表情は誰にも窺えないが。


「何をしているんだ、少年。そんなことをすればどうなるか――」


 全身鎧の人物は苦言を呈するが、


「へっ! 横取りだ、とか言うなよ!? あいつを倒したのは間違いなくこの俺だ! 余裕ぶっこいていつまでも殺そうとしなかったあんたが悪いんだろ!? 報酬は俺のモンだ!」

「ま、待て! そういうことではない……って、聞け! くっ、行こう、真夜中の蜘蛛!」

「……はぁ、仕方ないわね」


 ロードは意に介していなかった。

 それどころか全身鎧の人物の話に耳を傾けることなく、報酬を受け取りに行こうとする。

 ロードの位置からは、全身鎧の人物とローブの人物が自分と宿屋へ続く魔法陣のちょうど間にいて邪魔だったため、ロードは「光のゲート」の方へ向かって走り出す。

 光の中へと消えていくロードに、全身鎧の人物とフードの人物は、面倒なことになった……、と思いながら彼のあとを追うのだった。

 レベル差があったため、全身鎧の人物とローブの人物はロードに追いつけなかったのだが……。



 彼らは知らない。

 誰もいなくなった第七層で、



 消えたはずの黒い粒子が少しずつ、本当に少しずつ集まっていっていたことを――。



~~~~ シニガミ視点 ~~~~



「やっと入れたぁ! もう! 課題だしすぎだよ、あの先生っ!」


 課題がやっと終わった……。

 本当につらかった……。

 熾織と烏丸くんに悪いと思って一緒にテスト勉強するのを断ったら、勉強の仕方がわからなくて、まさか全ての教科で赤点を取っちゃうなんて思わなかった……。

 熾織って教えるの上手だったんだね……。

 そして、追試でもいくつかの教科が合格点に届かなくて補習を受けることと頭のおかしい量の課題を出されることに……。

 二人には悪いけど、今度からは一緒に勉強させてもらおう、そうしよう……。


 今は二十六日の未明(現実)。

 僕はようやく出された課題を片付けることができたんだ。

 明日も学校だし、こんな時間から寝たら明日絶対に遅刻しちゃう! だったらもう起きててやる! って深夜の謎のテンションで「ギフテッド・オンライン」を始めていた。


 愚痴りながらログインした僕だったけれど、辺りを見回して首を傾げる。


「……って、あれ? なんでここにいるんだっけ?」


 見渡す限り一面真っ白の空間。

 自分がどうしてこんなところでログアウトしていたのかを思い出せない。

 ……前にログインしたのって確か一週間以上前。

 しかもこの一週間とちょっとは補習と課題漬けの日々で脳みそを酷使してたから、忘れているのも無理はない、よね?


 とりあえず、ここでログアウトしたわけが何かあったはず……。

 ちょっと思い出してみよう。

 うーん……。

 あっ! そうだ!

 確か熾織に、「アホクビの魔法神殿」を一緒に攻略してほしい、って頼まれてたんだ。

 あそこ、階段じゃなくて魔法陣で上の階に上って行く仕様なんだけど、罠の魔法陣が多かったんだよね……。

 一度通ってきたフロアに戻されたり、モンスターハウスに送られたり。

 そのフロアにいるモンスターを呼び寄せられたり、バステやデバフを掛けてくるものもあったっけ……。

 しかも転移系は一方通行のものがほとんどだし、上階に行くにつれて隠されている(踏まないと視認できない)タイプのものが大きな割合を占めるようになる。

 ほんと質が悪い……。


 熾織の要請では、エリアボスの前の間まで行くのをアシストしてほしい、ってことだったかな?

 何回挑んでも魔法陣で戻されすぎて辿り着けなかったらしい。

 だから一度クリアしてる僕の頭の中にある地図に頼りたい、とか。

 ……やっばい。

 憶えてない……。

 これって熾織たちと回る前に一回行っておいて記憶を呼び起こしておいた方がいいかな?

 っていうか、あれから結構時間経ってるからもうクリアしてたりする?

 どうなんだろう……。


 考えた結果、僕は一度「アホクビの魔法神殿」に行っておくことにした。

 彼らの足を引っ張っちゃうより、無駄足になることの方がマシだと思ったんだ。

 烏丸くんにぐちぐち言われるの、つらいんだよ……!


 そういうわけで街の北側へと向かっている最中。

 僕は得体の知れない不快感を覚えた。

 身体中にねっとりと纏わりつくような、そんな底知れない不気味さ。

 背後から嫌な視線を感じて振り返ろうとした時、



「うぎっ!?」



 ドスッ! と右の横腹に鈍い痛みが走った。

 その衝撃はすさまじく、吹っ飛ばされて地面を転がる僕。

 起き上がりながら混乱する頭で、それでも状況を知ろうとして視線を右へ左へと忙しなく動かす。

 すると、僕がいる北側の魔法陣の近くからは離れた、中央の「光のゲート」がある付近に黒い何かがいるのを捉えた。

 徐々に色を得ていくそれ。

 距離があるからよく見えない。

 目を細めてやっとそれがなんなのか識別できた。


「……少年?」


 それは少年のようだった。


 ……あの子がやったの?

 さっきの攻撃を……?

 ……わからない。

 けれど、状況から見てそう判断すべきだと思う。

 この場には僕と彼しかいなかったから。


 警戒は怠らないようにした方がいいよね……、って僕が気を引き締めてたら、その子は動き出した。

 地面の四カ所から何かが浮き出てきて。

 それらは、



――僕の姿をした泥人形だった。



「なっ!? 僕!? ……くっ!」


 四体の泥人形が僕の方へと迫ってくる。

 確定だ!

 これで友好的だとは思えない!

 僕はとっさに泥人形たちをスキルで消滅させた。

(少年がいる位置は『黒粒子化』の効果範囲外で、泥人形たちも効果範囲外でつくられてたから、範囲内に入ってきたものから逐次撃退した)

 それから間髪入れずに対策を打つことにした。

 『バイロケーション』を使って「僕」を増やした。


 抜かりはない……と思う。

 相手が『黒粒子化』の効果範囲内に入ってきたら仕留められる。

 泥人形で実践したことで警告になってるはずだから、引いてくれると嬉しいんだけど……。

 僕、PKなんてしたくないし……。


 「光のゲート」くぐって……! って心の中で念じていた僕。

 そんな僕にその子は言ってきた。


「いやぁ、流石だね☆ 流石、最強プレイヤーって感じ。でもさ、ここ、PK禁止エリアだよ?



――その即死スキル、ここでは使えないんじゃないの?」



「えっ? ……あっ!」


 忘れてた……!

 普通に戦闘が始まってたから忘れてたけど、ここ街の中じゃん!

 PK禁止エリアだから、僕の『黒粒子化』は使えない……っ。

 これじゃ、脅しにはならない!


 完全に失念していた……!

 ……あれ?

 でも、待って。

 じゃあなんで、



――この子は街の中なのに攻撃できたの?



 ま、まさか、そんなスキルもつくれるってこと!?

 安全地帯を安全地帯じゃなくすスキル、とか!?

 本当になんでもありなんだね、このゲーム!

 ……ってどうしてもツッコミを入れたくなっちゃって。

 それが僕の隙を生んでしまってたんだ。


 気がついた時、少年は目の前にいなかった。

 いつの間にか僕の背後にいて。

 僕は少年を「僕たち」に取り押さえてもらおうとした。

 だけど。



「あは☆ 『コピーキャット』なんて要らないって思ってたけど、案外役に立つものなんだね! 行くよ! 『スキルキャンセリング』!」



 その「僕たち」は一瞬にして消えてしまったんだ。

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