第302話(第八章第19話) この手に栄光を・続2

~~~~ ゲーム内・第七層魔法エリア「キラキラの街」 ~~~~



「そ、それは俺のスキルじゃ……!?」


 ロードは狼狽した。

 何度も見てきたので間違えようがない。

 相手は今間違いなく『天上天下唯我独尊』を使っていた! ロードはそう判断した。


「僕のスキルは『スキル強奪』。それで君のスキルを僕のものにしたんだ☆」

「強奪!? 俺のスキルをお前のものに……って、スキルを奪ったってことか!? お前、ふざけんな――」

「ふんっ!」

「あがっ!?」


 ひどく取り乱したロードにアメショは自分の持っているスキルをばらした。

 「強奪」の意味はわからなかったロードだが、続けて発せられた言葉でそれが「奪う」という意味であることを理解する。

 ロードは奪われた自分のスキルを取り返そうとした。

 アメショを取り押さえてスキルを返してもらおうとする。

 しかし、ロードが接近している最中にアメショはまた地面を殴りつけた。

 瞬間、衝撃がロードを襲った。


 ロードはその場に蹲る。

 アメショが地面を殴った時、ダメージが移る場所が「ロードの胸」に設定されていた。

 呼吸するのを難しくさせられたロードは立っていられなくなったのである。


「ぜはぁ、ぜはぁ……っ!」

「おいおい、僕を捕まえに来たんだろ? なのに、こんなことでくたばってていいの? あはははは☆」


 痛みに耐えながらなんとかして顔を上に向けるロード。

 その視界に、自分を見下ろすアメショの姿が映った。

 ひどく歪んだ不気味な笑顔だった。


 ロードは息を吞んだ。

 ダメージを負った肺が刺激されたようで、痛みが走る。

 そんなことがあってようやくロードは疑問を抱いた。


「おか、しい……! 痛い……っ! なんで、だ……! ここは、PK禁止、エリアで、ダメージは、受けない、はず、じゃ……っ!」


 その問いにアメショが答える。


「ああ、それ? 僕の『安全地帯浸食』の影響だね。簡単に言うと、安全地帯を安全地帯じゃなくすスキル、なんだ。だから、ここはもうPK禁止エリアじゃない、ってこと☆」

「っ!」

「ちなみに僕は、相手の防御を無視する『貫通』も使えるし、『攻撃力倍化』もあったりするんだ☆ 君のHPがどれだけあるかは知らないけど、肝心要のスキルを失った君がどこまで耐えられるか見ものだね☆」

「っ!?」


 ロードは認識した。

 認識してしまった。



――こいつはバケモノだ!



 と。

 恐怖が支配してくる。

 その瞬間、彼は動揺して無意識のうちに言っていた。


「お、お前ら! こいつをどうにか――」


 振り向いて、その言葉は止められた。

 彼は頼ろうとしてしまったのだ。

 彼の仲間だったハーツ、クローバー、ダイヤの三人に。

 彼が傍若無人だった所為で決別し、彼の元から離れて行ってしまっていたことを、彼は誰もいない後方を見て思い出した。


「お前ら? ここには僕と君しかいないのに変なことを言うね?」

「……っ!」

「でももうどうでもいっか。もう残りのスキルももらってるから、搾りかすに用なんてないし。そろそろご退場を願おうかな? あっ、やり直していいスキルを取ったら僕のところにおいでよ! また搾ってあげるから☆」

「や、やめ――ッ!」


 敵の声が聞こえて、ロードの視線は正面へと戻される。

 そこには拳を構える敵・アメショの姿があった。

 その拳はどす黒く変色し、禍々しいオーラを放っていて。

 危機を察知したロードは逃げようとする。

 だが、まだある胸の痛みの所為で素早く動くことができなかった。

 思わず顔を逸らし、目を閉じた。



――キュイイイインッ!



 暗闇の中でロードが感じた奇妙な音。

 目を開けたロードの視界に飛び込んできたのは、黒い拳を押さえる光の剣だった。

 そしてまた情報を捉えるロードの聴覚。


「無事か!? 無事だな、少年!」


 声のする方にロードが顔を向けてみると、



――そこにいたのは金色の全身鎧(一部黒)とマントを纏った人物。



 その人物が持つ光の剣が、それに触れていたアメショの拳をジュッと焼いた。


「あっつ!? なんだよ、あんた! いきなり現れて……って! フォトンブレードに黄金のフルプレートアーマー!? 王者のマントも……! リアルマネー出さないと買えないやつばっかじゃん、それ!」


 手にやけどを負って飛び退いたアメショが自分の攻撃を防いだ存在のことを視認する。

 アメショはその人物のことを忌々しげに睨みつけていたが、一瞬ハッとした表情をして空中に素早く移動した。

 直後、アメショがいた位置に黒いもやが発生する。


「あっぶな! 『未来予測』と『空中歩行』がなかったらヤバかったかも……!」


 空中のかなり高い位置で片膝立ちのような体勢になりながら、アメショは自分が先ほどまでいた場所の後方を睥睨した。

 そこにいたのは黒いローブを着てそれに付いているフードを目深に被っている人物。

 この場にやってきたのは全身鎧の人物一人だけではなかった。


「……ごめんなさい。外したわ」

「仕方ないさ。相手はスキル集めてバケモノになってるイカレPK野郎だ。で、そこにとどまってると危ない。こっちに来てくれ」


 全身鎧の人物とローブの人物が会話をする。

 この二人は繋がっている、ということをアメショは感じ取れた。


「させないよ! わざわざ僕の元にやってくるなんて命が惜しくないのかなぁ!? カモられるだけだってのにさぁ!」


 アメショが髪を伸ばして操る。

 『髪には神が宿る』の効果だ。

 アメショはこれを使って接触し、スキルを奪うつもりでいた。

 だがしかし。



――バサアアアアッ!



 そうなる前にアメショの髪は宙を舞った。

 全身鎧の人物が光線を出す剣を操って焼き切ったのだ。

 その斬り上げや斬り下ろす動作は速すぎてアメショでは捉えられない。

 気づいた時には髪の毛が散っていた。


「は、はああああ!? ぼ、僕の髪が……っ!?」


 アメショの髪は光の剣の熱で切られたため、引火して大惨事になった。

 彼はスキルで鎮火させたが随分短く、そしてチリチリになっていた。


「光子一閃――! ……お前をやってもPK扱いにならない理由が理解できた。おいたが過ぎたな、アメショ! 拘束させてもらう!」


 髪の毛のことで全身鎧の人物の話を聞くどころではないアメショに向けて、全身鎧の人物が手をかざして言う。



「『スキルキャンセリング』!」



 この大きな声によってアメショは思わず全身鎧の人物の方を向く。

 その時、アメショの空に浮く力は消失して地面へと落下し始めた。


「こ、今度はスキルが……!? なんで!? おわああああああああっ!?」


 アメショが持っていた空に浮けるスキルはそれだけだったため、地面への衝突は避けられない。

 地面に激突したアメショは身悶えた。

 そんなアメショの元に近づいていきアメショの頭を掴んで、ヘルムの奥の目をアメショの目と合わせる全身鎧の人物。


「観念するんだな。今のお前は俺のスキルでスキルが使えない状態だ。奪ったスキルを持ち主に返せ」


 そうすごんで言う。

 しかし、


「……嫌だ、って言ったら?」


 不利な状態でもアメショは全身鎧の人物の言葉に素直に応じなかった。


「では仕方ない。真夜中の蜘蛛――」


 全身鎧の人物が一緒に来ていたローブの人物に呼び掛けた時だった。


「あがああああああああっ!?」


 アメショが血を噴いて倒れたのは。

 それをやったのは、



――ロードだった。

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