第301話(第八章第18話) この手に栄光を・続1

「売ってやりましょう」



 思わぬ言葉がライザから出てきます。

 私は慌てさせられました。


「ちょ、ちょっとライザ!? そんな前例をつくるのはよくないんじゃ……!?」

「今回は非常事態です。あまり悠長なことやってるとアメショによる被害が拡大しかねませんから、できる時に対策はやっとかねぇと。あっ、もちろん、のちのことを考えて割高にはしますが」

「え、ええー……?」


 時間外でも買えるようにしてしまうと他のプレイヤーの方たちも時間外に買い物できるように頼んでくる可能性があり、そうすると私たちの負担が増えるため問題になるのではないか? と私は思ったのですが……。

 ライザは、緊急事態だから、とOKを出しました。

 確かに、今回は時間に余裕があるとは言えません。

 アメショという人は今も所持するスキルを増やしていっている状況です。

 ハーツさんたちに明日の営業時間まで待ってもらっている間に、アメショがなんらかの方法でハーツさんたちのスキルを奪いに来ないとも限らない……。

 ライザの対応は適当であるように感じました。

 割高にするのは最初はどうかと思いましたが、今後のことを考えるなら、……まあ、必要な措置だったのだと受け容れられます。


「え、えっと、わかりました。お値段が高くなってもいい、というのでしたら……」

「あ、ありがとうです!」


 ライザがお買い物をさせた方がいいと判断した、ということもあり、私たちはハーツさんたちのために再びお店を臨時で開けることにしました。



 マーチちゃんは夕ご飯の時間なので途中で帰ることに。

 クロ姉は泣き言を言いながらハーツさんたちの装備に特殊効果を付ける作業を行っていました。

 ライザがハーツさんたちにとってこれから必要となるであろう商品を勧めていて。

 私は商品の受け渡し。

(コエちゃんは私の隣で私たちのことを見ていて、アンジェさんたちもまだお店にいました)


 そうして、もう少しでハーツさんたちのための臨時営業が終わりそう、となったタイミングで。



――バァン!



 と、勢いよくお店の扉を開けられました。

 お店の出入口、そこにいたのは、



――小柄な王子様みたいなのだけれど目が濁っている人と、麻呂眉で三白眼の人。



 その二人の男の人は言ってきました。


「た、頼む! 助けてくれ……っ!」


 肩で息をし、それでいて、顔を蒼白くさせながら――。



~~~~ 第七層魔法エリア「キラキラの街」 ~~~~



 日時は二十六日①の0時を過ぎたころ。


「うっし! 第七層に到着したぞ!」


 街と呼べるのかよくわからない白一色のまるで大きな箱の中のような空間にある光を放つゲートから一人の少年が姿を現す。

 ロードだ。

 「リスセフの氷の宮殿」を上り切り、「光のゲート」を使って転移してきたのである。


 彼が今いるのは第七層魔法エリア「キラキラの街」。

 そこは白い壁や床、天井で囲まれた、建築物や大きな建造物が一つもない街だ。

 おおよそ街とは呼べそうにない見た目をしているが、ここは歴とした街である。

 この空間に建物は一つもないが、魔法陣が至るところに設置されておりそれを利用することによって宿屋や武器屋、道具屋などの施設や民家に行けるようになっていた。

(魔法陣がどこに繋がっているのかは、その魔法陣の前に小さめの立て看板が設置されているため把握することが可能)

 ダンジョンへ行く際にも、東西南北それぞれの端にある魔法陣に乗るとそれぞれのダンジョン入口の目の前に転移する仕様になっている。


 ロードは早速行動した。


「うりゃあ!」


 宿屋の看板に斬りつける。

 『天上天下唯我独尊』のスキルを使って。

 すると、



――ザシュッ!


「あぎゃああああっ!?」



 ロードの剣は肉を切るように看板の中へと入っていき、どこか遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。


「よっしゃ! 当たりだ!」


 ロードは剣をぐりぐりと動かしながら、興奮した様子で狙っていた獲物がどこにいるのか首を動かして確かめる。

 遮蔽物が何もない(強いて言うなら小さな立て看板が複数個と「光のゲート」くらいしかない)空間を。

 第七層は街にある魔法陣に乗ればすぐにダンジョンに行ける仕様なので、他のエリアのように街からダンジョンまで歩いて行かなくてもいい分、街が結構大きめに設定されている。

 ロードがキョロキョロと辺りを見渡すと、後方、「光のゲート」がある方角の奥の方に悶えている小さな影を捉えた。

 その影は、ロードが看板に刺さった剣を動かすたびに苦しそうにしている。

 ロードは確信した。


「間違いない! あれが迷惑PK野郎だ! 街はPK禁止エリアだからダメージは与えられねぇけど、動きを押さえることはできた! これで俺は、問題を解決した英雄になれる! 俺がこのゲームの一番なんだ!」


 あの人物が「運営」に討伐対象として定められた存在である、ということを。


 ロードはその人物を取り押さえようとしてその人物の元へと駆け出した。

 近づいたことで相手の姿がよく見えるようになってくる。

 『一朝一夕』というレベルアップがしやすくなるスキルを持っていたロードは、自分の方が相手よりもレベルや体格で勝っているから簡単に押さえられる、と踏んでいた。


「ん? なんだよ、ガキじゃん。思ったよりこれは簡単な――」


 しかし――



――ドガガガガッ!


「――おぐっ!? おぼっ!? おごっ!? おがっ!?」



 その人物・アメショを捕まえようとしたその瞬間、ロードは殴られたような衝撃を受けた。

 何発も、何発も。

 相手は腹を押さえて痛がっていて、その状態から動いていなかったというのに。


 わけもわからず三、四歩後退りをするロード。

 その際、痛がっていただけのはずの相手が口角を吊り上げているのを視界に捉えた。

 ロードは剣先をアメショに向けた。


「お、お前! 何をしたんだ!?」


 態度で理解できたのだ。

 こいつが何かをやったのだ、と。

 やったのが目の前の人物であることは疑いようもないことだったが、何をやられて相手を捕らえることを阻まれたのかはロードには判然としなかった。

 ロードはアメショを睨みつける。


「何? って……。攻撃を待機させてただけだよ? 『遅延攻撃』ってスキルでね☆ それをオートで発動されるように設定しておいただけ! まあ、要はトラップだよね。君はまんまとその罠に嵌ったってこと☆ バカだよね~。こんな隠れるところが何もない場所で何もしてないわけないじゃん☆」

「お、お前ええええっ!」


 アメショに嘲笑われてロードはキレた。

 剣を構えて突っ込んでいこうとするも、


「『斥力操作』」


 反発する力を加えられて、ロードは吹っ飛ばされる。


「ぐあ……!? だっ!? 今度はなんだ!?」


 地面をころころと転がり、立て看板に当たってそれを倒してロードは止まった。

 魔法陣の中に入る一歩手前の位置で。


 説明を欲している表情のロードにアメショが何をしたのかを打ち明ける。


「使用者に近づけないように反発する力を生み出すスキルだよ。それで吹き飛ばしたんだ。まあこれくらいちょっと考えればわかることだと思うんだけどね~?」

「こ、こいつ……っ!」


 またバカにされてロードは頭に血が上る。

 起き上がって再び接近を図ったロードであったが、それは阻まれた。

 ――アメショに。



「あー、君は面白いものをくれたからね。ちょっと遊んであげるよ☆」



 そう言ってアメショはいきなり地面を殴りつけた。

 刹那――



「おごぁっ!?」



 鈍い痛みがロードを襲った。

 それはロードが持っていたスキル『天上天下唯我独尊』の効果だった。

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