第300話(第八章第17話) 一方、「ラッキーファインド」のお店では(セツ視点から)

【二十五日(水曜日)の夕方】



「あ、ありがとうございました!」


 私は「ラッキーファインド」のお店にいました。



 あれから、アンジェさんたちに三日前に発行された緊急クエストの注意喚起をしていただいてから、多くのお客さんが私たちのお店を訪れています。

 やはり有名人であるアンジェさんたちが発信すると情報が伝わるスピードが段違いです。

 あまりに多くのお客さんが来たため、私たちはてんやわんやになってしまっていました。

 日曜日の夕方からログインしてきたクロ姉が引っ張りだこになっていたのがとても印象的でした。


 「ROYAL」のジョーカーさん、キングさん、クイーンオブハートさん、ジャックさん。

 「ギフテッドの旅団」のクロノスさん、ハーデスさん、ウラノスさん、ネプさん。

 「ワンダーランド」のジャヴァさん、ジャブツーさん、スナッチさん、チェシャさん。

 「ギフテッドの師団」のユピテルさん、ソルさん、ディアナさん、ヴィーナスさん。

 「イベント特攻隊」のGPさん、オカピさん、ピグミーヒッポさん、ボンゴさん。

 「お菓子がなければプディンを食べればいいじゃない?」のプラプリさん、パンナコッタさん、ティラミスさん、カステイラさん。

 「ギフテッドの騎士団」のテラマーテルさん、メルクリさん、マルスさん、ウェンティさん。

 それから「777」の皆さん、「スターバグ」の皆さん、「ギフテッドの兵団」の皆さん、「CODE:S」の皆さん。

 あと、「ベータテスターの集い」のジオさん。

 前回のイベントで知り合った方たちも、この三日間のうちに来店して装備への特殊効果の付与の依頼や私がつくったポーションを購入してくださっています。


 流石に忙しかったので二十三日からはマーチちゃんの手も借り、サクラさんたちの都合がつく時には彼女たちの力も借りています。

 クロ姉は、お店が開いている時はお店に張り付きの状態に……。

(クロ姉しか装備に特殊効果を付与できないため)

 偶々現実でのアルバイトがなかったそうですが、休もうと思ってシフト入れていなかったのに休みがなくなった! と嘆いていました。

 クロ姉が出勤(ゲームのお店)することを余儀なくしてしまったのは、私とライザが討伐対象とされているアメショへの対策を勝手に進めてしまったことが原因なので、目を回しているクロ姉の姿を見るのは罪悪感を覚えました。



 そして今、④の0時になって本日最後のお客さんがお帰りになったところ。

 お店の外にいたアンジェさんとベリアさんがお店に入ってきて、アンジェさんが言ってきました。

 ちなみにこの三日間、アンジェさんたちも手伝ってくれていて、お店の前で並んで待っている方たちを整列する仕事を請け負ってくれていたりします。


「今日も大盛況だったっすね! この三日間で結構多くのプレイヤーに必要なものを渡せたんじゃないっすか? これで被害が抑えられるといいんすけど……」

「……どう、なんでしょうね? アンジェさんたちのおかげで多くの方たちに対策を取っていただけたので減るとは思いますが……。何より相手のスキルがスキルですので……」


 最初はそうでもなかったのですが、話していくにつれてどんどん浮かない表情になっていくアンジェさん。

 私は彼女の顔を晴らしたかったのですが、それをなし得る安心材料を私は持ち合わせていませんでした。

 多くのプレイヤーさんが私たちのお店に来て、アメショという人に対処できるように装備やアイテムの強化を図ってくれた、のはこの三日間の成果だと思います。

 ただ、相手は他人のスキルを奪えてしまう……。

 既に奪っているスキルも多く、その全てに対処することは難しい……。

 どうしても不安は付き纏ってきて拭い去れません。


 私とアンジェさんから出される暗い空気が周りに伝播するように、マーチちゃんやクロ姉、ベリアさんにも影響してしまって彼女たちも暗い表情になってしまいます。

 そんななか、ライザがアンジェさんに確認しました。


「……そういえば、最近あいつを見ませんね? こんな大事な時にどこで何してやがるんですか? シニガミの奴は」


 ライザが確かめたこと、それはシニガミさんの近況でした。

 ……言われるまで気がつきませんでした。

 そういえば、私がゲームに復帰した日以降会った記憶がありませんね……。

 アンジェさんはシニガミさんと仲が良さそうだったので彼女にシニガミさんについて聞くのは間違っていないと思います。


 この質問に対してアンジェさんは……。


「ああ、美珠……じゃなかった。シニガミっすね? いや、僕、あの子と同じ学校に通ってるんすけど……。あいつ、中間考査でやらかして補習受けてるんすよ、今……」

「ええ……」


 彼女の回答に、私たちは呆然とさせられました。

 シニガミさんってちょっとアレだったんですね……。


 私と、たぶんですけどマーチちゃんとクロ姉がシニガミさんの頭の心配をしていると、ライザが何やら呟いていました。


「……あいつ、まだ対策できてねぇんですよね……」


 そうでした。

 シニガミさんの装備にはまだ、アメショに対抗し得る策が施されていません。

 ボソッと言われたその言葉に、私はどういうわけか形容しがたい焦りのようなものを感じました。


 静かになったお店の中でベリアさんが、ふふんっ、と鼻を鳴らします。


「本当にどうしようもないわね、福知山さんって」

「……ベリアも他人のこと言えないっすよね? 僕がつきっきりで教えたっていうのに赤点すれすれだったじゃないっすか。しかも全教科。み……シニガミだったらあれだけやれば60点は取れるっすよ? ベリアがシニガミのとこに行くな、って言うし、シニガミも僕たちに遠慮して一緒に勉強しなかったからこんなことになっただけで」

「うぐ……っ」


 などというベリアさんとアンジェさんのやり取りがなされました。

 話を聞く限り、ベリアさんもアンジェさんたちと同じ学校に通っているみたいです。

 そして、アンジェさんはベリアさんと、あと過去にはシニガミさんの勉強も見ていた、と……。

 ……アンジェさん、とても苦労していそうです……。



 何はともあれ、もう現実では午後六時を過ぎていてお店も閉めました。

 今日はもうやめようか? という話になります。

 ですが……。

 そこへ、お店の外から話し声が聞こえてきます。


「や、やっと見つけた……!」

「って、ああああ!? 閉まってるです!」

「……間に合わなかった? 道に迷ってたから……?」

「えっと、閉店時間は……④の0時!? 7分過ぎちゃったです!」


 それはまるで、この世の終わりだ、と言わんばかりの哀哭だったため、扉を開けて外の様子を窺ってみると、


「っ! あなたたちは……!」


 そこには前回のイベントの決勝戦で戦ったハーツさん、クローバーさん、ダイヤさんがいました。

 あゆみちゃんのパーティのメンバーの方々です。


「……ど、どうされたんですか?」

「ああっ、セツさん! まだお店、やってたりするです!?」

「えっと、すみません。もう終わってて……」

「そ、そんなっ!?」


 私が尋ねると、ハーツさんたちは私に気づいて詰め寄ってきました。

 もう閉めた、と伝えると崩れ落ちる三人。

 えっ? そんなに私たちのお店に来たかった、ということですか……?


 私はどうするべきか悩みました。

 時間外でお客さんをお店に入れてしまう例外をつくってしまうのはよくない気がして……。

 でもこれを無視するのも……、と私が葛藤しているとライザが提案しました。



「売ってやりましょう」

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