第299話(第八章第16話) この手に栄光を4

~~~~ 二十四日夜 ゲーム内・第六層氷雪エリア ~~~~



「……あー! もうっ! 本っ当にうざったい! この『攻撃不可』っ! 装備も替えらんないし……!」


 一人の少女(?)が喚いていた。

 黒いローブを纏い、それについているフードを目深に被っているため性別の判断は難しいが、背丈や声などで総合的に判断すると、少女、ということでいいだろう。


 少女の怒りの声がこだまする。

 その声には湿っぽさも多分に含まれていた。


「あの鍛冶師、マジで許さない! アタシにこんなことして……! 憶えてなさいよ!? いつかギッタンギッタンにしてやるんだからっ!」



 そんな彼女が今いるのは第六層ダンジョン1「アホクビの雪山」。

 彼女はアホクビの複製を大量につくって複製元のアホクビと戦わせていた。

 しかし、彼女が受けていた呪いはそんなところにも影響を及ぼすのか、主を守れ! という命令も、相手を取り囲め! という命令も複製体は聞くのに、攻撃しろ! という命令には一切従わなかった。

 彼女が受けた呪い『攻撃不可』の特殊効果は、彼女の想定以上にその影響力が大きかった。


「ぐ……っ! 本当になんなのよ、これ!? めちゃくちゃじゃない! 街の鍛冶師に頼んでもどうにもならないなんて……! 私が付けられるのはレア相当の特殊効果まででレジェンド級の特殊効果を弄ることはできない、って言われるし……!」


 がしがしと頭を乱雑に掻く少女。


「第五層のダンジョン4に、装備を外して初期装備に戻すギミック、があるって聞いたから行ってみたけど『装備変更不可』の所為で効果がなかったし……。装備を壊せばいいんじゃないか? って考えたけど、耐久値が『バカみたいな数値(9,999,999,999,999,999)』になっててとてもじゃないけど削り切れそうにないし……っ。第七層に、装備の特殊効果を消すギミック、があるらしいけど『攻撃不可』の所為で第六層ダンジョン4のモンスターフロアを攻略できなくて行けないし……! 本来ならアタシの許可がないと抜けられないはずだけど、クロネコの『魔女裁判』であいつら全員パーティから抜けててキャリーも頼めないし……っ! 詰んでるでしょ、これええええええええ!」

(※少女は第六層にいるため街にある「光のゲート」をくぐれば第五層のダンジョン4へは行くことが可能だが、その他のエリアへは「踏破者の証」を持っていないため移動することができない)


 少女は嘆いていた。

 少女がこの状態になったのは約一カ月前で、それから呪いのように付与された特殊効果をどうにかしようといろいろと奮闘していた彼女だったが、望んだ結果を得るには至っていなかった。



 彼女が叫んだ時だった。


「助けてあげよっか?」


 声を掛けられる。

 直後、少女の周りにいたアホクビとその複製体たちが溶けて消えていく。

 モンスターがいなくなったことでその後ろにいた人物の姿が少女から視認できるようになった。

 そこにいたのは、



――あどけなさが残る顔をした、髪の毛が異様に長い少年だった。



 少女は狼狽える。


「な、何よ、アンタ……っ」

「ん? 助けてほしい、みたいなこと言ってたじゃん。だから、助けてあげよっかな、って」

「……っ」


 少女の呪いを解くのに協力してくれるという少年。

 一カ月もそれに苛まれていた少女にとってこの少年は希望に感じられるかもしれない。

 だが少女は、


「……遠慮しとく。なんか高くつきそうだし」


 彼の提案を断った。

 彼女は感じていたのだ。



――少年の得体のしれない気味の悪さを。



 少女は警戒した。

 だから助けを断った。

 それは正しかった。

 だがしかし――


「ぐふ……っ!?」


 もっと言えば。

 彼女は逃げるべきだった。

 その場から速やかに撤退するべきだった。


「ごっめーん☆ もうやっちゃってたから今さら取り消せなーい☆」


 少女の身体が溶けて崩れ始める。

 アホクビやその複製体がそうなっていたように。


「なん、で……っ」


 恐怖と憎悪に満ちた表情で問う少女に、少年はあっけらかんとした様子で答えた。


「なんで? って、助けるには殺した方が手っ取り早そうだったからさ? あっ、お代はスキルでいいよー? またいいやつをつくって僕のところに持ってきてね」


 少年の言葉を受けて、少女は何かを感じ取った。

 身体が崩れていくなか、とっさに自分のステータスを確認する。

 どうしてそうしたのかは本人にも定かでなかったが、そうしなければいけない、という感覚になっていた。


========


スキル:――――

    ――――

    ――――


========


「っ!?」


 視界に入ってきたこの内容に。

 少女は絶望しながら消えていった。



~~~~ 二十五日 ゲーム内・第一層草原エリア ~~~~



「……どこにもいねぇじゃんかっ!!」


 第一層のダンジョン1「リスセフ平原」から出てきたロードは一人、思いっきり叫んでいた。

 三日かけて第一層まで戻り、各エリアと各ダンジョンで『天上天下唯我独尊』を使用してきたが、討伐対象とされているアメショを指定した攻撃はその効果が得られることはなかった。


「ベタなすれ違いでもしたのか!? ……いや、そうか!」


 ロードは考えて思い至る。


「時間帯だ! 相手がログインしてる状態でやらねぇと意味がないんだ! ……くっそぉ! これ無理ゲーじゃねぇか!?」


 このゲームで、ログアウトしているプレイヤーを倒すことは不可能である。

 そのことに考えが及んだロードは頭を抱えた。

 一度は諦めかけたロードであったが、またもや閃く。


「……そうだ! ワールドチャットなんかで情報が出回ってるはず! それを使えば……! 待ってろよ、迷惑PK野郎!」


 ロードはワールドチャットの画面を開き投稿されたコメントを追っていった。



 その日の深夜。

 ロードは第六層にやってきていた。


「昨日、これくらいの時間に討伐対象がいた、っていう目撃情報があったのがここなんだよな……」


 「アホクビの雪山」ダンジョンの前。

 そこでロードはまた『天上天下唯我独尊』が正しく発動されるかを確かめる。



――キィイイイインッ!



 近くにあった雪だるまを攻撃してみるが、結果は以前やった時と変わらなかった。


「チィッ! ガセだったのか!? それとも、もう移動してる……?」


 ロードは急いでダンジョン内に入っていき、そこでもスキルを試した。

 しかし、そこでも芳しい成果は得られなかった。


 まだ近くにいるのではないか? と考えたロードは第六層にある他の三つのダンジョンも回ってその三カ所すべてでスキルを使ってみたが、どこも不発。

 ロードはイライラしながらワールドチャットの画面を見直していた。


「だああああ! 第六層にいるんじゃなかったのかよ!? ほんとはどこにいるんだ、あいつは……ん?」


 前のコメントに戻っていくと、ロードは見つける。


「第六層で目撃される前は第五層で目撃されてたのか……。その前は第四層で……っ! これって、あいつは先に進んでる、ってことだよな!?」


 討伐対象とされているアメショの足跡を。

 それを発見したロードは息巻いた。


「とっととここのダンジョン4を上り切らなきゃな! あいつは絶対そこにいる! 待ってろよ、俺の伝説!」


 ロードは「リスセフの氷の宮殿」ダンジョンを駆け上がっていった。



 このあと。

 ロードは標的としていた人物と渡り合うことになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る