第298話(第八章第15話) この手に栄光を3
~~~~ ゲーム内・第九層沼地エリア「ズブズブの街」 ~~~~
「休んでる暇なんてあるか! 討伐対象を先に倒されちまったらどうするんだよ!?」
「その討伐対象、『運営』が対処したいって思うほどです! 絶対ヤバい奴ですよね!? だったら、万全の状態で挑むべきです!」
「そんな時間必要ねぇよ! 俺には『天上天下唯我独尊』があるんだからな!」
「保険云々の話はどうなったですか!? わたしたちに保険としての役割を全うさせたいなら疲労は回復させるべきです!」
街の中、ロードとハーツの叫び声が響き渡る。
ただ、彼らの言い合いは一向に進展していなかった。
同じことを何回も繰り返している。
堂々巡りをしていた。
「だああああっ! 埒が明かねぇ! 話し合ってるこの時間も無駄だ! つべこべ言わずについて来いって言うんだよ!」
そしてついに、ロードが痺れを切らした。
ハーツたちを無理やり連れて行こうとする。
「なっ!? 横暴です! わたしたち三人が不完全な状態で平気でPKをしてくるような危険な相手に対処できるわけないじゃないですか!」
「だぁかぁらぁ! 俺がやる、って言ってんだろ!? 大体――」
ハーツが抵抗するが、ロードは意に介さない。
ハーツの腕を掴んで引き摺るようにしながら「光のゲート」をくぐろうとした。
その直前でクローバーがハーツの腕を掴んで声をかけた。
「……ねえ。ハーツ、メッセージ、来てる……」
クローバーがしたのは、言い争っていたために着信が入った音をハーツが聞き逃していたことに対する指摘だった。
クローバーのこの行動で、ハーツだけでなくロードも止まっていた。
「あっ、ホントです。えっと……」
クローバーに言われてハーツが確認してみると、確かにメッセージが届いていた。
それは、フォローしている人気ブロガーが重大なお知らせをした、という通知で。
――『大事なお知らせ! 緊急クエストを受けようとしている方へ!
緊急クエストで討伐してほしいと言われているアメショという人は
危険なスキルを持っているとのことです!
それは
「他人のスキルを自分のスキルにしてしまう」というスキルだそうです!
明らかに三つより多いスキルを持っていて、
違う人たちが持っていたスキルをいくつも持っているのを見た
という方からの情報なので恐らく間違いはないかと……!
このクエストは相当危ないクエストだと思います!
受けるのであれば準備万端で受けた方がいいと思います!
私も「ラッキーファインド」でしっかりとアイテムや装備を整えてから
挑つもりです!』――
通知を見てブログに飛んだハーツはその内容を目にして、自分の感覚は間違っていなかったのだ! と自信をつける。
ハーツは自分のスマホのような画面を他の人にも見えるように設定してロードの前に表示させた。
(ちなみに、着信音は他のプレイヤーには聞こえない設定だが、クローバーがハーツに通知があったことがわかった理由は、クローバーも同じ人気ブロガーをフォローしていて彼女の元にも通知があったからである)
「見るです! やっぱりヤバい奴だったですよ、倒せ、って言われてる奴は! わたしたちも『ラッキーファインド』のお店に行っていろいろと整えてから向かうです!」
人気ブロガーがそう発信しているのだ。
そういった人たちが偽の情報を取り扱っていた場合、大変なことになる。
だからハーツはこの、討伐対象となっているアメショという人物が危険なスキルを持っている、という情報は信憑性があるものだと捉えていた。
そしてどうせならその準備も推しと同じ「ラッキーファインド」で行いたい、とも……。
ハーツは、前に彼女の推しが「ラッキーファインド」のお店のことを紹介していた時から、「ラッキーファインド」のお店に行ってみたい、と常々思っていた。
やっと行ける口実ができた! と密かに喜んでいたハーツであったが、
「『ラッキーファインド』ぉ? 生産職の店……って! それって刹那の……っ! そんなところ行けるか!」
その名前が出た途端にロードは喚き出した。
それまでも怒っていたロードであったが、「ラッキーファインド」の名前を聞いてからの彼の怒りはその激しさを増していた。
怒髪天をつく勢いである。
ロードの様子が変わったことにハーツは少し狼狽えた。
「きゅ、急に叫ぶな、です!」
「お前ふざけてんのか!? 生産職の店って言ったら、この前のイベントで俺たちを負かした奴らの店ってことだろ!? そんなとこで買い物したいなんて、お前らにプライドはないのかよ!? ……いや! あの大会はルールがよくなかった! だから負けたんだ! 『運営』が向こうに有利なルールに変更しやがったから勝てなかっただけなんだ! 俺は弱くねぇ! あいつらに頼らなくたって、俺の『天上天下唯我独尊』でこの依頼を達成させてやる! 買い物なんて不要だ!」
ハーツが文句を言うとロードは激昂しながら捲くし立てた。
そんなロードに、懸念していることをハーツは言うが、
「で、ですが、アメショは危険だ、ってベリアが――」
「何回も言わせんな! 最強は俺だ! 危険なんてない! 俺がいれば問題は起きないし、俺さえいればアイテムも装備も今のままで充分なんだよ! お前らはただ俺について来ればいいんだ! ……大体、このタイミングで店の宣伝をしてるなんておかしい! それも、人の不安を煽るようなやり方で! さてはあいつら、この機に金儲けしようとしてるな!? なんて汚いやり方だ! 最低だろ、人の恐怖に付け込んでカモにするなんて! 俺はあいつらの思惑通りには絶対にならないぞ!」
「なっ!?」
あろうことか、ロードは憶測だけでハーツの推しを罵りだした。
自分が好きなものを否定されたハーツ。
これにはもう、堪忍袋の緒が切れた。
「わたしはしっかり準備した方がいい、って言ってるです! なのに、保険と言っておきながら、自分は最強だからお前たちが準備する意味はない、の一点張り……っ! ……最強なんですよね!? あなたのスキルだけで依頼を達成させられるんですよね!?
――だったらもう、あなた一人で行けばいいです!
わたしたちとは考え方が違いすぎてもうついていけないです!」
「は、はぁ!? こ、こいつ……っ!」
ハーツは宣言した。
決別の言葉を。
ハーツがそう口にすると、クローバーとダイヤの二人も彼女の側につく。
「お、お前ら……! そうかよ! じゃあもうついて来なくて結構だ! けどな! それで報酬がもらえるなんて思うなよ!? それができないようにお前たちにはパーティを抜けてもらうからな!?」
「……上等です」
「……わかった」
「……(こくこく)」
「~~~~っ! ふん! 後悔してももう遅いからな!?」
こうして、パーティ『MARK4』は解散することになった。
果たしてどちらなのだろうか?
――後悔することになるのは。
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