第294話(第八章第11話) 緊急クエスト

「……緊急クエスト?」


 ライザが、恐らく目の前に現れたスマホのような画面を見て(開いたりスクロールしたりする様子はなかった)片方の眉をぴくっと動かして固まってしまったので、不思議に思って「運営」から送られてきたメッセージを開いてみました。

 すると、そこに書かれていたのはいつもの「イベント告知」ではなく「緊急クエスト」という文言。

 いつもとは違う「運営」からのお知らせに、私は首を傾げました。


 その件名のメッセージに目を通します。



『緊急クエスト(10月22日:ゲーム内③0時‐現実12時)



 いつもご利用いただきありがとうございます。

 「ギフテッド・オンライン」運営チームです。



 緊急クエストを発行します。

 現在、当ゲームにおいて、三つ持つことができるスキルが消失する、という事象が発生しています。

 以上の現象は不具合などではなく、一人のプレイヤーによってもたらされていることが判明しました。

 さらにそのプレイヤーにはプレイヤーキルの常習性も認められており、非常に芳しくない事態であると判断します。

 そこでプレイヤーの皆様には



――そのプレイヤーキラーへの対処を依頼いたします。



 【依頼内容】

 問題を起こしているプレイヤー「アメショ」の無力化(端的に言えば討伐)


 【期限】

 10月22日(日曜日)③の0時現在から「アメショ」を無力化するまで


 【クリア条件】

 「アメショ」を討伐する、または無力化し問題を解決する


 【クリア報酬】

 「第四スキル解放の鍵」

(当クエストを受注しクリア条件を満たした個人及びそのパーティに)



 なお、プレイヤー「アメショ」の討伐に関してはPKをした扱いにはならなくなります。


 当クエストの受注は各エリアの街にある宿屋の受付から行ってください。

 クリア時の報酬も各エリアの街にある宿屋の受付から受け取ることができます。


 このクエストを発行するにあたり、今月のイベントは中止いたします。

 ご理解いただきますようお願い申し上げます。



 引き続き、「ギフテッド・オンライン」をよろしくお願いいたします。

 「ギフテッド・オンライン」運営チーム一同より』



 記されていた内容はこのようになっていました。

 プレイヤーキラーが引き起こした問題に対処してほしい、という緊急クエストの発行……。

 また、問題が発生しているからイベントは行わない、というお知らせも記載されていて……。

 ライザは、スマホのような画面が現れた瞬間に内容を理解できたためいつもとは違うこの展開に疑問を抱いて顔をしかめたのだと思います。

 他のみんなもこれを読んだのでしょう。

 お店の中はしばらくの間沈黙が訪れていました。



 それを破ったのはアンジェさんでした。


「……スキルを使えなくさせるプレイヤーキラー……! こ、こいつが噂の『わがまま』っすよ! 間違いないっす! そういう噂だったんで!」

「っ! 『わがまま』……」


 アンジェさんは教えてくれました。

 アメショ=『わがまま』である! と。


 『わがまま』については先日アンジェさんから聞いていました。

 なんでも最悪のプレイヤーキラーでその特徴は、目をつけられると何故かスキルが使えなくなる、というもの。

 それで全力で戦えないプレイヤーの多くをやり直しに追いやっている、害悪行為の常習犯なのだそうです。

 その素行の悪さには目に余るものがあるのだとか。

 例えば、魔石集めイベントの時にPKをして他のプレイヤーから魔石を奪い取っていた、とか、仲間さえも使い潰してやり直しにさせていた、とか……。

 噂なので真実かどうかは定かではありませんが、聞いていて気分のいい話ではなかったのでとても印象に残っていました。


 今「運営」から討伐依頼が出されたアメショという人が、アンジェさんの言うように本当に『わがまま』であるなら、倒せ! と「運営」から討伐対象に認定されるのは仕方のないことのような気がします。

 その人は他のプレイヤーがゲームを楽しめない状況をつくっているわけですから。

 PKした扱いにはしないから倒してくれ! って「運営」がなるのも無理はないかも……。


 ただ私は、いくらPKをした扱いにならない、と言われても進んで討伐をしようという気にはなれませんでした。

 相手がどんなに悪い人だと言われても殺すことには抵抗があります……。

 PvPイベントは大会で、倒してしまったとしてもすぐに復活することろを見れたのでなんとか割り切ることができましたが、今回はそうではありません。

 このゲームは、無駄に感触をリアルに寄せていますから……。

 ……やるにしても、やられるにしても。

(「決闘」をする時やPvPイベントの時はその感触が鈍くなるように抑えられていたらしい)

 それでも、大切な仲間たちが標的にされるかもしれないということを考えると、そうも言っていられませんよね……。


 相手は最悪のプレイヤーキラーです。

 下手に迎え撃つと甚大な損害をこうむってしまう可能性もあります。

 このクエストは決して簡単なものではない、それだけは確かでしょう。


 私が、このクエストを受けるべきか? と悩んでいると、ライザが口を開きました。


「……アンジェの言う通り、アメショは『わがまま』みてぇです。スキルを使えなくさせられるのも、魔石イベントでPKして魔石を奪ってたのも、仲間でさえPKの対象にしたのも本当のことですね。……セツ、この依頼受けましょう」

「ライザ……。うん、わかった」


 危険を感じて迷っていた私でしたが、彼女の言葉で決断しました。

 彼女が、依頼を受ける、と言ったのです。

 そこには彼女の考えがあるはず。

 彼女は、ライザはそういう人ですから。

 私は、私たちは、緊急クエストに臨む、という方針で固まりました。


 これからの目標が決まった時、ライザがアンジェさんに言いました。


「それでアンジェたちに頼みたいことがあるんです」

「えっ? 僕たちに?」

「ええ。二人称なーら、こっちの世界では有名なインフルエンサーでしょう? そんななーらに頼みてぇんです。緊急クエストに参加してアメショを討伐しようとしてる人たちに行く前にこの店に寄るようにチャットなどで呼び掛けてほしいんです。



――ターゲットのスキルは、『スキル強奪』、『スキルコレクター』、『スキルスロット空き』ですから。



 不用意に突っ込むとスキルを奪われて、相手を強化することになりかねません」

「「「っ!?」」」


 ライザの発言に私、アンジェさん、ベリアさんは言葉を失いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る