第293話(第八章第10話) いつもと違う「運営」からのお知らせ

~~~~ 二十一日・土曜日未明 ゲーム内・第四層巨大エリアにて ~~~~



「……なあ。我らがこのゲームをやり続ける意味はあるのだろうか?」

「きっとトールが戻ってきてくれるはずだ! あいつが戻ってくるまでの辛抱なんだ……! そうすれば、俺たちはまた面白おかしくこのゲームをやっていけるはず! そうに違いないんだ……!」

「……しかし、あれからもう二カ月になるのだぞ? 流石に望み薄な気がするのだが……」

「ここまで育てたんだ! 手放してなるものか! トールは絶対に来る! 俺はそう信じてる!」

「……我もアトル殿のように早めに見切りをつけるべきだったか……」


 第四層ダンジョン1「スクオスのジャングル」に向かう道中にある開けた場所。

 そこで二人の男が突っ立っていた。

 男たちは何をするでもなくじっとしている。

 妙な体勢のまま微動だにしない。

 まるで置物のよう。


「トール、早く来てくれー!」


 一人の男が大声を上げる。

 仲間が来ることを祈っていた。

 それに対してもう一人の男は顔をしかめていた。


 男たちだが、今の彼らは



――ステータスを弱められ、行動もできず、連絡も取れない。



 そんな呪いとも取れる装備を、男たちは着けさせられていた。

 著しく弱体化させられてしまったことで男たちのMPはゼロとなっている。

 彼らの主なスキルはMPを必要とするものであったため、使用することは不可能だった。

 呪いはそれだけではなく、アイテムの使用も封じられていた。

 そして一番の問題となっていたのは、



――装備の変更ができないこと。



 よって、男たちは誰かに助けてもらわなければどうにもならない状態に陥っていたのである。


 もう引退するかリセットするか、その二択を迫られているといってもいい状況だが、男たちは足掻いていた。

 男たちには仲間がいたから。

 その仲間は、男たちのような状態になることを免れていた。

 呪いの装備を着けさせられていなかったのである。

 だから男たちは、その仲間にこの呪いをどうにかしてもらおうと考えていたのだ。


 しかし、先ほどもう一人の男が言っていたように、彼らの仲間はもう二カ月も彼らに会いに来ていなかった。

 しかも、その仲間は一からのやり直しになってしまったようで、どこにいるのか調べることができない。

 まあ、仲間が死んでいなかったとしても、呪いの装備によって今の男たちにはその仲間に連絡を取る手段を絶たれていたわけだが。


「……どう考えてもアトル殿の方が正しかったような気がしてきたな……」


 もう一人の男は嘆いた。

 呪いの装備を着させられた人物は他にもいて、その人物の名はアトルといった。

 アトルは男たちの仲間の一人であったが、動けないし助けも呼べないという事態に陥って早々にリタイアしていた。

 もうこのゲームはやらない、そう言い残してログアウトしていった。

 それ以降、アトルがログインしてくることは本当になかった。

 彼は危惧していたのだ。

 助けが来ない、という可能性を。

 もう一人の男は、アトルについて行くべきだった、と後悔していた。

 ただ、もう二カ月も粘ってしまっていた手前、今さら引くに引けない気持ちになっていたもう一人の男である。


 仲間がここに来てくれることを願っていた男たち。

 その彼らがいる深い森の少し開けた場所に、カサカサと草木を掻き分ける音が近づいてきた。


「「トールか!?」」


 男たちの表情に喜色が浮かんだ。

 彼らは変な格好で止まっているので誰かが近づいて来てくれるのは非常に稀なことだった。

 だから男たちは、来たのが待ち人だと思い込んでいた。

 しかし、


「……トール? ごっめーん☆ 僕はトールって人? じゃないんだよね☆」


 現れたのはトールではなかった。



――子猫のような愛くるしさを持った幼気な少年。



「と、トールではなかったのか……」


 もう一人の方の男はがっくりと肩を落としたが、仲間が来てくれると信じていた男の方は閃いた。


「いや、トールじゃなかったがこれは僥倖だ! なあ、あんた! 俺たちを助けてくれないか!? 頼む!」

「っ! そ、そうか! 助けてくれるのがトールである必要はないのか!」


 男は少年に頼んだ。

 助けてほしい! と。

 それを聞いてもう一人の男の方も、この状況をなんとかしてくれるのであればトールでなくてもいい、ということに思い至る。

 二人して懇願していると、少年が言った。


「うん! よくわかんないけど、困ったときはお互い様、っていうもんね! わかったよ!」

「や、やった……!」

「これでようやく動けるようになるのか……!?」


 少年が、助ける! と言ってくれたことで、男たちは歓喜した。

 やっとこの地獄から脱け出せる……! と。

 ……だが。


「へにゃ……? 力が抜けて……?」

「っ!? お、お前、何を――っ!?」


 少年に触られたもう一人の方の男が突然ぐったりとしだしたのだ。

 呪いで首から上しか動けないため倒れることはなかったが、ぐでんとこうべを垂れる様は異様だった。

 仲間が来てくれることを信じていた男の方が問う。

 少年は答えた。


「何? って……。助けてあげるんだからその見返りをもらっただけだよ☆ うーん……、まあまあかな? それじゃあやり直してきてね~☆」


 そう言って、もう一人の方の男の首に負荷を加える少年。

 ゴキンッ! と鳴ってはいけない音を発し、もう一人の方の男は黒い粒子となり果てた。

 少年が残された男の方を見て接近を始めたため、男は恐怖する。


「PKを躊躇わないのか!? ひっ!? ま、待て! 違う方法で……ぐわああああああああっ!?」


 静止を呼び掛けるも空しく。

 少年の手は男の顔に伸びて……。

 男は、もう一人の方の男と同じ運命を辿ることとなった。


 夜の森には、裂けそうなほどに口角を釣り上げた不気味な表情をする少年が一人だけとなっていた。



~~~~ セツ視点 ~~~~



「そういえば、月に一度は開催されてたイベントが今月はまだ告知もないっすね?」


 と言うのはアンジェさん。

 彼女は私たちのお店に遊びに来ていました。

 ベリアさんも一緒です。

 ……ベリアさん。

 アンジェさんに抱きついて周りに鋭い目を向けてきていました。

 アンジェさんのことが好きすぎて取られたくないのでしょう。

 取らないので安心してほしいです……。


 この日はもう十月も二十二日(日曜日・時間は現実で、もう少しでお昼というところ)。

 アンジェさんが言ったように今月はまだイベントが行われていませんでした。

 私は言われるまで気がつかなかったのですが、そう言われると気になってきます。


 ちなみに、この場には私たちの他にライザとコエちゃんもいます。

 最近はこの三人で店番をすることが多いので。

(ライザも有能すぎるがゆえに戦力外通告を受けていて一人で第十層をクリアしており、時間に余裕があるため)

(補足ですが、平日の営業時間は③の二十時から④の0時までに変更しています)

(それと昨日、現実でのアルバイトを終えたクロ姉がログインしてきた時にアンジェさんたちが来て装備の強化をしてもらっていました)

(アンジェさんたち、二日続けて来てくれている、ということはお店を気に入ってくれたのかな?)


 私が、イベントが行われていない理由を考えていると、ライザが勉強する手を止めて言ってきました。


「そろそろ③の0時になるんで連絡があるんじゃ――」



――ヴォン



「……噂をすれば、――え」


 ライザが話している最中に「運営」からメッセージが送られてきました。

 目の前に現れた画面を見て、ライザが固まります。

 それが気になって画面をよく見てみると――



「……緊急クエスト?」

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