第292話(第八章第9話) 「プディン帝国」のお買い物とお勉強

 結局キンジンさんは、私たち「ファーマー」のお店がどんなところか知りたかった、という目的で第二層にまで来ていて、特別なプディン(カラメル)に会いたい、という理由でとどまっていたことがばれて、クレムさんにこってり絞られました。

 勝手な理由で単独行動をし他のメンバーの方に迷惑をかけた、ということでその償いとしてキンジンさんはお財布の刑に処せられることに。


「す、すごいです! 見たことのない器用さポーションが置いてありますよ!? 四分間、器用さがカンストしてそのバフのキャンセルも受けなくなる、なんて……! これがあるだけであの第十層のエリアボスマシナリーリスセフ戦が相当楽になるかと……!」

「あの厄介な『回避』を封殺できるってことだからねぃ。……しっかし、すっごい店だよ、『ラッキーファインド』の店は。器用さだけじゃなく防御をカンストさせるポーションも置いてある。さらには、相手の耐性・無効を貫通するっていうデバフやバステポーションも……! トンデモアイテムだねぃ」

「おい! あっちで装備に『状態異常無効』をつけられるらしい! 強気すぎる価格設定だが、ここまで来ると自信の表れなのだろう! すごいな『ラッキーファインド』……!」


 クレムさんとボネさんは商品の詳細を見て大興奮し、キンジンさんにいくつか買うように指示していました。

 そこへロワさんが、クロ姉の鍛冶スペースで付与できる特殊効果を一覧にしたメニューが記された看板を発見してクレムさんとボネさんの二人に声を掛けてクロ姉の元へ移動していきました。

 キンジンさんはあっちへこっちへ連れ回されていました。


「お、お前ら、わかった! わかったから、少しは落ち着け!」



 それからキンジンさんたち『プディン帝国』は、HP回復ポーションやMP回復ポーション、復活薬、防御バフポーション、器用さバフポーションを人数分と麻痺薬を購入し、クロ姉に『状態異常無効』とキンジンさんも付けてもらっていた『スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効』を付与してもらってお帰りになりました。

(ちなみに「ラッキーファインド」のお店には明らかにヤバイモノは置いてありません。

売っていないものの例

・ステータスがカンストする攻撃バフポーション、素早さバフポーション

・HPやMPを0にすることができる猛毒薬、悪心薬

・効果の持続時間が長い麻痺薬、幻惑薬

・ステータスを著しく低下させるデバフポーション など)

(攻撃や素早さバフポーション、デバフポーション、バステポーションは街のお店で買えるレジェンド品質に性能を抑えてあります……効果の持続時間は街のお店のものに準じていますが、使用期限は無制限に設定しているので、買ったのに使うタイミングがなくて消失してしまう、という事態は起こりません)

(それと前回の大型アップデートの時にデバフポーションの効果が見直されてL品質でもステータスを下げられるのは16%で、しかも重ね掛けをすると+12%、+8%、+4%と効き目が悪くなっていくように下方修正をされてしまったそうです……最大で下げられても40%とのこと)

(私が使うデバフのULTポーションは、相手のステータスを固定で「1」にするものであるため、この改変に気づくのに遅れました……)


 すっかりお財布が軽くなってしまったらしいキンジンさんが涙声になっていました……。

(顔はフルフェイスの兜で見えませんでしたが、泣いていたと思います)

 帰る前に、プディンちゃんに慰めてほしい、とキンジンさんが言っていましたが、カラメルが出てこなかったためその要望は断ってお引き取り願いました。



 クモさんたちもお店をあとにしたため、サブハウスの中にいるのは私たちだけになります。


 それからお客さんも来なかったため、私たちはそれぞれ自分たちの時間を過ごしていました。

 私がしていたのは勉強です。

 コエちゃんが用意してくれた教材の内容を頭の中に叩き込む作業をしていました。



「えっと、……は、もともと自然界にある多くの植物や一部の動物や鉱物などを起源としたもので……」


「原料とは、……をつくる元となる化合物のことで、国内外の原料企業や……企業から購入し、その原料を使って、工場の大きな反応釜の中でつくる……。一回の反応でつくれるわけではなく、いくつかの化合物を経てできる……」


「……その一つができるまでに約十年もの期間と200~300億円もの費用が掛かる……」


「候補物質が……となる確率は約22,000分の1……。ほとんどの候補物質は途中の段階で断念される……」


「ヒトで……の効果や安全性を調べるこの段階を……、または……といい、約3~7年を要する……」


「この国で……が進まない理由は、一、実施研究者のインセンティブに欠ける。二、……のインセンティブに欠ける。三、実施体制などの面で環境や習慣の違いのために研究が進みにくい、などの指摘がある……」


「様々な審査や審議を経て厚生労働大臣が許可すると、製造・販売をすることができる……」



 一時間ほど学習して、ちゃんと理解できているかコエちゃんに確認してもらおうとした時、コエちゃんを探すと彼女はライザと一緒にいました。

 ……何やら難しい話をしています。


「……で、この脆弱性をついて……」

「そうですね。それでも問題ありませんがもっとスマートにやるには……」


 話の内容はまったく理解できませんでしたが、ライザもコエちゃんから何かを教わっているようでした。

 ライザがすごく真剣な様子だったので、私の方はまたあとで見てもらうことにしました。



~~~~ その日の夜、ゲーム内の第三層水中エリアにて ~~~~



「よし! 今日も真面目にダンジョン攻略といくか!」


 一人の男がパーティを組んでいる二人の男たちの士気を高めようと大声を出していた。


「……豹変しすぎだって、お前。真面目なんて言葉とはかけ離れた存在だったじゃん、俺ら」

「まったくだな。変わりすぎてて違和感しかねぇよ」


 そんな男に対して仲間の二人は戸惑いを隠せないでいた。

 二人が言っている内容からして、男は真面目とは程遠い性格をしていたことが窺える。

 仲間たちにツッコまれた男は口を尖らせて抗議した。


「前にも言っただろ? あいつらにはどう足掻いても敵わねぇ、って悟っちまったんだよ、俺は。変に目をつけられたくねぇし、だったら普通にゲームを楽しんだ方がいいだろ?」

「俺たちが真面目に、ねぇ……」

「確かに、あんなぶっ飛んだ奴らへの復讐を考える、なんていうのは時間の無駄だとは思うけどよ……」


 納得してもらおうとするも、仲間たちは腑に落ちていない様子だ。


 男は自分の正当性を主張しようとした。

 男たちは「アホクビ海底谷」に向かっている最中で、男が仲間たちの顔を見て話そうとバックで水中を泳ぎ始めたその時、



――ドンッ



 と誰かにぶつかってしまう。


「あっ、悪ぃ――」


 男はその人の方を向いて謝った。

 ……だが。


「あー、痛い痛い。これは慰謝料をもらわないとね☆」


 ぶつかった人の手が男の顔に伸びてきて――



「あがああああああああっ!?」



 夜の海に、男の叫び声が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る