第291話(第八章第8話) クロの工房(セツ視点)
「……できた。これでいい?」
「おお! 感謝する!」
十月二十日(金曜日)。
この日、久しぶりにクロ姉がログインすることができて「クロの工房(お店の中でクロ姉が担当している鍛冶スペース)」が開いていました。
ライザがそのことを予約をしていたお客さんにメッセージ機能を使って知らせる(プレイヤーの方と連絡先を交換するのはライザが担っています)とそのお客さんは私たちのお店に飛んでやってきました。
そのお客さんとは、キンジンさんです。
前にお店に来た時、装備を強化したい、と言っていたので。
それで装備に「スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効」の特殊効果を付けてもらっていたキンジンさん。
彼はクロ姉に
ちなみに、キンジンさんが今付けてもらったその特殊効果は私たち「ラッキーファインド」のギルドメンバーはみんな持っています。
「へぇ……。よさそうな特殊効果ね。私も付けてもらおうかしら?」
「私も付けていただきたいです! ……お金は大丈夫でしょうか……?」
「なら、私も」
あと、この場にはキンジンさん以外にもお客さんがいて、キンジンさんの装備に特殊効果が付与されているのを見て、自分の装備にも付与してほしい、とお願いしてきました。
特殊効果の付与を頼んできたのは「シニガミファンクラブ」の「
彼女たち、ほぼ毎日お店に来ているんですよね……。
あまりにも怪しい格好をしているので入店時はフードを取ってもらうことにしたのですが、彼女たちの素顔には驚かされました。
クモさんはお仕事を完璧にこなしそうなキャリアウーマン風の女性で、
クロネコさんはおっとりとしていて艶めかしいお嬢様みたいな感じの女性で、
キノシタさんはミステリアスな雰囲気を纏わせているスラッと背の高いモデルのような女性……
と、お三方とも美人さんだったのです……!
このゲームをやっている方はどうしてこんなにも美人な方が多いのでしょうか……?
……ああ、自分のそばかすが気になります……。
(ゲーム内ではそばかすはありませんが)
私が現実での自分の姿のことを思い出して少しだけ落ち込んでいると、その間にクモさんたちはクロ姉の元へ行っていました。
彼女たちと入れ替わるようにして、特殊効果付与の代金をクロ姉に支払ったキンジンさんが私の元に寄ってきます。
「薬師の嬢ちゃん、今日はプディンちゃんはいないのか?」
彼はカラメルのことを聞いてきました。
あんなことがあったのに、カラメルに会いたい、というキンジンさん。
筋金入りのプディン愛です。
ちなみに、今お店には「ファーマー」のみんなとコエちゃんがいます。
ですがカラメルはコエちゃんのジョブスキル『畜産』の効果で亜空間に引っ込んでいます。
カラメルがそこから出ていたとしてもあんなことがあったので触らせてはくれないと思いますが。
嫌がっていたのに触られ続けたから、カラメルはキンジンさんのことを嫌っているんですよね。
また、私としてもあの子が、嫌だ、と言っているのに(実際には言ってはいませんが、そう言っているように聞こえました)触らせるわけにはいきません。
「いません。いたとしても触ってはダメですよ? あの子、キンジンさんに触られるのを嫌がっていましたから」
「嫌がってたの!? でも、嬢ちゃんは触ってたよな!? ……あれ? 俺だけ!?」
「……鎧が痛かったのでは?」
注意すると、そんなぁ……、と項垂れるキンジンさん。
そのショックはすさまじかったようで、床に膝をついて四つん這いになるほどでした。
そこまで落ち込むとは想定していなかったのですが、これもあの子のため。
これでカラメルの安全が少しでも保障できていることを祈ります。
がっくしと
お店の扉が開いて二人の女性と一人の男性がやってきました。
ショートカットで長身の腹筋と腕や脚の筋肉が逞しい褐色肌で軽装の女性と、黄色い神官服に身を包んだ黄色いミディアムボブの小柄な女性、迷彩服を着た背の高い丸眼鏡とツーブロックが印象的な男性です。
彼らのことを私は見たことがありました。
どこで見たかというと……、
「何やってんだい帝王! 勝手に第二層まで戻って!」
「キンジンさん、勝手な行動は慎んでください!」
「うちのリーダーが迷惑をかけた。すまない『ファーマー』の皆様」
「お、お前ら!? どうしてここに……!?」
PvPイベント本戦の決勝トーナメント進出をかけた試合で。
彼らはキンジンさんの仲間、「プディン帝国」のメンバーであるボネさん、クレムさん、ロワさんです。
彼らがやってきたことにキンジンさんが、何故ここにいるのだ!? と驚いていました。
それに迷彩服の男性が答えます。
「そんなの、あなたが第二層の北西でうろちょろと気になる動きをしてたからに決まってるじゃないか。パーティメンバーの現在地はメニュー画面で確認できる。知らなかったのか? バカなのか?」
「リーダーに向かってバカとはなんだ、ロワ! そ、それくらい知っているからな!?」
迷彩服の男性・ロワさんからキンジンさんに向けて容赦のない口撃が繰り出されます。
キンジンさんは座り込んだ体勢のままロワさんに反論しますが、
「それよりもさっさと戻るよ!? もだ第十層をクリアできていないんだからねぃ!」
今度は肉体美の素晴らしい褐色肌の女性にフルフェイス型の兜を掴まれ、無理やり引っ張られます。
「ぐおおおおっ!? 待て、引っ張るな、ボネ! 兜が取れるぅうううう!」
「そういうスキルでもなきゃ取れやしないよ! そういう仕様だろ! ……まあ、首をやっちまう可能性はあるだろうがねぃ」
「待て!? 今すごく怖いことを聞いたんだが!?」
キンジンさんをそのまま引き摺ってお店から連れ出そうとする褐色肌の女性・ボネさん。
キンジンさんは必死の抵抗をみせ、一歩分もそこから動かされませんでした。
そこへ、クロ姉に頼んで装備に特殊効果を付与してもらっていたクモさんたちの声が聞こえてきます。
「ちょっと何、この特殊効果!?」
「このような特殊効果、見たこともありません……!」
「えっ、す、すご……!」
クロ姉を褒めそやす三人の言葉は黄色い神官服の女性(恐らくクレムさん)の耳にも届いていたようで……。
「すごい特殊効果の付与……? そういえば、ここはあのアンジェが、すごい、と言っていたお店でしたね! 今まで自分勝手な誰かさんを連れ戻すことで頭がいっぱいで気づけませんでした! あの『ファーマー』が営んでいるお店……! ということは、ここには第十層の攻略に役立つアイテムやサービスなんかもあったり……!?」
彼女はハッとして辺りを見渡し始めました。
今まで、キンジンさんの所為でムッとした表情をしていた彼女ですが、宝物を見つけたかのようにその表情を明るくさせます。
それを見てキンジンさんがすかさず言いました。
「そ、そうなんだよ、クレム! ここはこの嬢ちゃんの店なんだ! 俺はここに攻略の助けになるものがあると踏んでやってきてたのだ!」
……あれ?
第十層の攻略に「スキルを使えなくする敵」って出てきましたっけ?
私が考えていると、
「あなたがそんなこと考えて行動してるわけないじゃないですか!」
キンジンさんの言葉にクレムさんは耳を貸さなくて。
……キンジンさん、信用ないんですね……。
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