第290話(第八章第7話) 未来の決断、とその裏で
~~~~ コエ視点 ~~~~
イキり女子生徒・京王未過がぱたりと倒れて、下半身が大惨事を起こしたあとのこと。
「ひ、ひぃっ!?」
暗そうな女子生徒・青梅咲夜が腰を抜かして震え始めた。
その手に持たれていたカッターナイフは握る力を失ったからか、地面に落ちている。
私は「調べて」みた。
……なるほど?
青梅咲夜は未来の幼馴染で親友だったのか。
だというのに、未来が大変だった時に助けようとしなかったとは……。
それどころか保身のために相手側につき、一緒になって未来を虐めていた。
これではもう、二人の関係は破綻していると言っていいだろう。
私が青梅のことを見ると、睨まれたとでも受け取ったのだろう。
青梅の震えは激しさを増し、涙を零しながら言ってきた。
「ま、待って! わ、私は好きで未来ちゃんを虐めてたわけじゃ……!」
……そんなことを。
一応、イキり女子について「調べて」みる。
すると京王未過は、この国で一番稼いでいる資産家の娘であることがわかった。
京王未過の父親は多くの有名企業に多額の出資をしており、それらの企業の実質的な運営を行っていた。
京王(父)に嫌われたらこの国ではやっていけない、とまで言われているほどらしい。
それほどまでに京王(父)が偉かったから、京王(娘)は、自分は偉いのだ、と思い上がり始めた。
事実、京王(娘)は途轍もないほどに甘やかされて育ったようで、偉いはずの京王(父)がなんでもいうことを聞いてくれた、という環境は京王(娘)の人格形成をひどく歪ませていた。
京王(娘)が嫌いといったものは排除され、京王(娘)がした悪いことは全部もみ消されたそうだ。
京王(父)は政治家や警察官僚など、偉い人たちと太いパイプを持っていた。
それで何人もの人の、家族の人生が、めちゃくちゃになったという。
青梅咲夜には京王未過に虐められていた過去がある。
その際に、京王が過去に虐めていた者の行く末を青梅は見せられたのだろう。
だから青梅は京王に逆らう気力を失ってしまったものと推測する。
「どうしようもなかったの! 未来ちゃんを虐めなかったら私とお母さんを売る、って脅されて……っ!」
……予想通りの言葉が青梅から発せられた。
なるほど、そういう背景があったのか。
……だが。
それは、仕方がなかった、では済まされない。
何故なら。
「……
未来が呟いた。
吐き捨てるように。
そう。
これが全てだ。
青梅が虐められていた時、それを未来は助けた。
自分も同じような目に遭ってしまうことが想像できたというのに。
それでも、未来は親友を救おうとしたのだ。
未来がやっているのだから、できない、とは言えない。
青梅は、できなかった、のではなく、やらなかった、のだ。
「私は未来ちゃんみたいに強くないっ! また虐められるなんて……ううん! もっとひどい虐めになるに決まってる……! そんなの、耐えられない……っ!」
わからなくはない。
力がある者が力のない者の上に立つ。
力とは膂力であったり、財力であったり、権力であったりとさまざま。
それらがない弱者はそれらを持っている強者に食われる。
この世界はそういうものだ。
どう足掻いても勝てなければ屈してしまうこともあるだろう。
だが今回は、それはまかり通らない。
「……わかりました。あんたはそうすればいい。京王の下につけばいい。ですが、
――もう、わーに許されるとは思わないでください、青梅」
「っ! み、未来ちゃん……っ」
未来は言いきった。
明らかな拒絶の言葉を。
「ま、待って、未来ちゃ――」
「割り切れねぇんですよ! わーだって家族は大事だから、青梅が家族を守ろうとした気持ちは理解できてるつもりです……! でも、どうしても納得ができねぇんですよ! わーは、わーは結局、あんたの家族を守るために売られた、ってことじゃねぇですか……!」
「っ!」
「もう、頭の中はぐちゃぐちゃです……! わーを助けてほしかった……! それが無理でも、寄り添ってわーの心を支えてほしかった! あいつらと一緒になんてなってほしくなかった! ……もう、信じられねぇんですよ、あんたのこと……っ」
「……未来ちゃん……っ」
「……消えてください。わーの前から今すぐ」
「っ! ……っ」
未来は青梅を突き放した。
青梅は俯いてよろよろと立ち上がり、未来の顔を見ることなくとぼとぼと去っていった。
その後ろ姿を見ながら私は考えた。
彼女はどうするのが正解だったのだろうか? と。
未来に助けてもらったのだから虐められるようになった未来を助け、未来や家族とともに、京王に地獄へと突き落とされるか。
彼女が選んだように、京王に従って自分と家族が助かるために未来を見捨て、未来と決別するか。
どちらが正しかったのだろうか……。
その答えは、私の中にはなかった。
「それにしても、なー、本当に
青梅の姿が見えなくなってから、未来が私に話し掛けてきた。
「はい。こっちで会うのは初めましてですね、ライザさん」
私は未来……ライザに挨拶をして頭を下げる。
そんな私をじっと見て、未来は聞いてきた。
「機械……なんですよね?」
「そうですね。
未来からの質問に答えていると、思い至ったことがあった。
「この京王未過はどのようにいたしましょうか? このまま放置しては、未来さんにも、今私が名前をお借りしているセツさんにもよからぬことが起こると推察します。私が記録したデータと取得した情報を使って二度と私たちに関わることができないよう対策を施すことを推奨します。実行してもよろしでしょうか?」
それは京王未過のこと。
このまま野放しにしていたら、まず間違いなく逆ギレして、私たちにちょっかいをかけてくることだろう。
ちょっかいのレベルで済めばいいが、こいつがやることは度を越している(「調べて」判明している)。
だから私は、私に搭載されている機能を使って京王未過が私たちに絡もうとする気力を削ごうという提案をした。
「ええ、そうした方がいい――」
未来も同じ懸念をしていたようで一旦は私の意見に賛成しようとした。
……だが。
「……いえ。ちょっと待ってください。コエ――
――それ、わーにやらせてもらえませんか?」
彼女は言った。
その目には強い意思が宿っていて。
自分の問題に自分自身でけりをつけたい――そう思っているのが見て取れた。
~~~~ そのころ、ゲーム内・第二層砂漠エリアにて ~~~~
「あん? なんだテメェ! 見てんじゃねぇぞ!?」
「俺たちはいいところなんだ! 邪魔すんな!」
「そうだ、あっち行け!」
「どうしても邪魔をするというのならただじゃおきませんよ?」
四人の男(?)が身体を密着させていたところに一人の人物がやってきていた。
「いやぁ、これはないなぁ。気持ち悪すぎるって」
その人物の言葉に四人は激昂する。
「こいつ……!」
「潰すっ!」
「っ!? ま、待て! スキルが……!?」
「なっ!? どうなってんだ!?」
しかし、それは罠だった。
その人物の挑発に乗ってしまった四人は……。
「あが!?」「うぐ!?」「んぎ!?」「ぎゃああああ!?」
「うーん、こんなんでもないよりマシかぁ。じゃ、やり直して僕に新しいのを献上してよ☆」
その人物によって黒い粒子に変えられてしまった。
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