第288話(第八章第5話) 待ち切れなかったコエ1
~~~~ コエ視点 ~~~~
十一月三日にみんなで(マーチ、クロ、サクラはいないが)文化祭というものに行くことになった。
場所はライザが通っている
ススキが通っている
光陸学園は共学であるため、こういう機会でもなければ百合女に男子が入れる機会はない、とか。
もちろん、百合女のセキュリティは恐ろしいほどにしっかりしているため、男子が女子に悪さをしようものなら間違いなくつるし上げられるだろう(調べた)。
百合女だが、セツの家がある県の隣の都市(首都)にある。
電車を使えば一時間ほどで行ける距離だ。
セツは前に一度、ライザとススキに会うためにその都市に行ったことがある、のだとか。
私がまだ現実に来ていなかった時の話だそうだから、私がついていけなかったのは仕方がないことだと思うが、できるなら一緒に行きたかった。
それで今日、十月十八日。
セツと一緒にその都市に行こうと誘ったのだが断られてしまった。
なんでも、学校があるから、らしい。
……そうか、この世界には学校という、学生・生徒・児童を集め、一定の方式によって教師が継続的に教育を与える施設があるのだったな。
私が住んでいた村ではそんなものはなかった。
畑で作業をしていることがほとんどだった。
あとは家のこととか。
畑での作業をすることがなくなっていたから私はセツに気軽に声を掛けてしまったのだが、悪いことをしてしまった……。
セツにすごく申し訳なさそうな顔をさせてしまった。
セツの事情を考慮していなかった私が悪いというのに……。
それにしても、学校か……。
私は一度も行ったことがないから、どんなところか興味がある。
しかし、私はセツたちと同じ人間ではない。
多くの人が集まる空間に長期間席を置くのは、私が人間ではないとばれるリスクが高くなるため得策とは言えない。
とはいえ、気になるものは気になる。
だから、セツの学校を見に行ってもいいか? と聞いたのだが、彼女の学校は保護者であっても入れる日が制限されていた。
基本的にその学校の生徒及び職員以外は立ち入りを禁止していたのだ。
セツの学校へは行けない……。
それでも、学校には行ってみたい……。
そして、学校というものをどうしても見たくなった私は、この日、百合女に行ってみることにした。
調べたら、百合女はそのセキュリティの全てを機械が担っているらしい。
それと、女子中学生の見学は基本的にいつでも受け容れているそうだ。
それなら入るのは容易い。
私はセツの夏用の制服を借りてそれを着させてもらった。
(セツの制服を着た私の姿を見た
私は電車で百合女へと向かった。
電車というのもに乗るのも初めてだったが、私は「調べられる」ので戸惑うことも迷うこともなかった。
昔はお金を払って切符というものを買っていたそうだが、今は全て電子。
とはいえ、電車に乗るためにお金がかかることには変わらない。
そのお金を私はお母様からいただいていた。
電車に揺られて一時間弱。
最寄り駅についた。
地図も「調べられる」から信号や横断歩道、曲がり角など以外で止まることも辺りを確かめることもなく、すすっと歩いて十五分。
目的地に辿り着けた。
真っ白い宮殿のような大きな建造物。
その敷地は立派な柵と意匠の凝らされた門(柵も門も縦格子になっている)に囲まれている。
ここが百合花萌芽女学園だ。
大きな門の下まで行く。
そして厳重だという機械のセキュリティを突破して中に入った。
かなり問題ではあるが、女子中学生・埼京刹那が学校見学をしに来た、ということにセキュリティには信じ込ませておいた。
(学校見学者だと証明する用のプレートを渡された)
騒ぎにはしたくないのだ。
無事に敷地内に潜入、もとい、見学のために足を踏み入れることに成功する。
案内役なのだろうか?
円柱の身体に半球体の頭部、マジックハンドのような手、胴体を支え歩行を可能にしている四つの小さめな球体を持つロボットがやってきたのだが、私は、案内を完璧に遂行したというようにそいつの記録を書き換えて所定の位置に戻ってもらった。
そいつの記録を「読ませて」もらったから、もう説明してもらう必要もない。
あとは実際に見て確かめさせてもらうとしよう。
私は一人で歩き出した。
記録を「読ませて」もらったから学校の構造は全て把握している。
それに監視カメラも至るところに設置されているからその映像を「見て」教師や警備ロボットから逃げることも可能だ。
まあ、警備ロボットはプログラムを弄れるのでそいつらに見つかったとしても問題はないのだが。
私はそうやっていろいろな場所を見て回った。
教室での授業風景やグラウンドで体育をしている光景、部室棟や学生寮、食堂、etc……。
……ふむ。
大方謳っていたいた通りのようだ。
しかし、私が体育館を見ていた時だった。
それは起こった。
「ひっ!? いや! やめろ、来んじゃねぇですよ!」
外から聞こえてきた悲鳴。
聞き覚えがあった。
独特な話し方。
……裏の方からだ。
私はその場所へと向かって行った。
体育館裏に辿り着く。
そこには二人の女子生徒の姿があった。
その奥には四人の男。
……男?
ここは女子高で、男は決められた期間以外はこの敷地内に入れないはずだが……。
……そうか。
どうやら私の目の前にいる女子生徒のうちの一人が手引きをしたようだ。
私の位置からは後頭部しか見えなかったが、その女が嗤っている顔がばっちり映っている監視カメラがあった。
……いや、そんなことなどどうでもいい。
四人の男たちの囲みの中。
体育館の壁に押さえつけられて身体を拘束されている小柄な女子生徒がいたのだ。
小柄な女子生徒はひどく怯えきっていて涙さえ流していて。
「キャハハハハッ! どう、
耳障りな金切り声が私の耳を汚染する。
「い、いや! いや……っ!」
少女の絶望した声が私の胸を締め付けた。
こんなことを放置しておくことなどできるはずもない。
私は動いていた。
――カシャッ
私の口から発せられた機械音。
私はヒトではないので、ヒトには不可能であっても私にはできることが数多くある。
見ているものを写真や映像として記録すること、も私にできることの一つだ。
私が発したその音に、その場にいた全員が振り向いた。
「な!? なんでガキが!? ってかあいつ、今写真撮ってなかった!? あなたたち! あのガキも捕まえなさい! 好きにしていいから!」
金切り声の女子生徒が男たちにそんな指示を飛ばした。
それに従って男が一人、私の元にやってくる。
その男は私を捕えようとしていた。
……そうそう。
私は百二十センチほどの幼女の姿をしているが、ヒトではないからこんなことも可能だったりする。
――ベゴンッ!
私は襲おうとした男の鳩尾に思いっきり右の拳をめり込ませた。
まさしく人間離れしている私の力での一撃を受けた男は、白目を剥いて倒れた。
息はしているから問題ないだろう。
さて。
案内ロボットからは得られなかった腐った内情を見つけてしまったが、どうしてやろうか?
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