第287話(第八章第4話) リアルの問題、ゲームの問題
翌日。
「ボクは行けないけど楽しんでくるの! あっ! 写真いっぱい撮ってきて! みんなが楽しそうにしてる写真が見れれば、今度は一緒に行きたい、ってリハビリをもっと頑張れると思うから……!」
マーチちゃんにライザの学校とススキさんの学校の合同文化祭に行く計画があることを話した時の彼女の反応がこれです。
ライザとコエちゃんが言った通り。
自分の所為でみんなが文化祭に行くことを躊躇ってしまう展開は望んでいない、そう思っているように感じられます。
「……うん、わかった。いっぱい写真撮ってくるよ、マーチちゃん!」
私はマーチちゃんのその気持ちを尊重することにしました。
みんなで文化祭に行って楽しい写真をいっぱい撮ってこよう! と心に決めました。
あと、文化祭を見に行く件についてですが……。
サクラさんはサークルの活動があって参加できないとのこと。
そしてクロ姉も、
「……だ、大丈夫! バイトあるけどブッチする! セツちゃん優先!」
「それ大丈夫じゃないやつですよ! クロ姉はそっちを優先させてください!」
「うぅ……!」
アルバイトのシフトが入っていたようで、私たちと一緒に文化祭に行けないことを嘆いていました。
うちのギルドの大学生組である二人が不参加になる、という事態に。
それでも、文化祭を開催する学校に通っているライザとススキさんは除く、私、コエちゃん、キリさん、パインくんは予定がないため、一緒に文化祭を回ることができそうです。
参加できない二人には申し訳ありませんが、参加できるメンバーの方が多く、マーチちゃんからのお願いもありましたので、文化祭には行く、という方向で話は纏まりました。
「楽しみです、文化祭」
「そうだね。私も文化祭って初めてだからワクワクするかも。えっと、集合場所とかもしも当日に行けなくなっちゃったりした時とかは現実のメールとかメッセージでやり取りする、ってことで大丈夫? ススキさんたちは『
弾んでいるコエちゃんの声に、私も、自分の判断は間違っていなかったのかもしれない、と思えて嬉しくなって返します。
その際、文化祭のことに関してはこれからは現実で話し合おう、と提案しました。
あまりこっちの世界で現実のことについて話し合うのはどうかと思ったので。
そして、文化祭当日はどうするのか、ということに少しだけ触れた時、
「……あー、その……。喜んで計画立ててるとこ悪ぃんですが、
ライザが突然そんなことを言い出しました。
私は、私たちの間にあったそれまでの楽しい雰囲気を一瞬にして取り払ってしまった彼女の言葉に戸惑ってしまいました。
「えっ!? ど、どうして――」
「セツには話したでしょう? わーは
――学校でいじめられてるんです」
「あ……っ」
ライザに、なんでいきなりそんな悲しいことを言うのか!? と聞こうとしてしまったことを、私は後悔しました。
すごく苦しそうな表情をしているライザのことを見て。
そうだった……。
彼女はいじめられていたんだった……。
私は聞いていたはずなのに、そのことを忘れて、彼女の心の傷を抉るようなことをしてしまうだなんて……っ。
私はバカなことをした自分自身にひどく落胆しました。
「わーといたら絶対あのやべー奴に目をつけられます。ですので、一緒には回らねぇ方がいいと思います。……以上です。こんな暗い話は終わりにしましょう。っつーことで、話は変わるんですが――アンジェのアレ、どう思いますか?」
ライザが悪くなった空気を換えようと話題を替えました。
彼女の発言とその時の様子を見て、話を戻そうとする人は誰もいませんでした。
そのあとの話は、昨日キンジンさんがお帰りになられたあとのことについて、でした。
あのあと私たちのお店にやってきたのは『シニガミファンクラブ・ミタマちゃんの集い』に所属するメンバーの三人でした。
(みんな黒いローブを着てフードを目深に被るという、同じ格好をしているので誰が誰なのかは定かではありませんでしたが、ちょっと……というか大分鼻につく喋り方をするリーダーの子はいないようでした)
その人たちですが、私たち(特に私)に対する態度が一変していて……。
以前は、私たちがシニガミさんに近しい立場(?) だからという理由で快く思っていなかったようですが、それが敬い、崇めるような態度に変わっていたのです。
ライザによると、あの時あのいかれたリーダーから守ったことで私たちへの印象を改めてくれたのだとか。
それで、私がいない間に彼女たちはこのお店の常連さんになっていたそうです。
そのため、私以外のみんなは彼女たちの豹変ぶりを知っていて、私だけが驚かされることになりました。
(とはいえ、彼女たちの私に対する態度は他のみんなとは比べものにならないくらい崇拝するようにしていたので、その度合いに関しては驚いていました)
彼女たちが暴走して私の前に跪いた時は、そんなことをしてほしいなんて思ってもいないので、とても焦らされたのですが、状況はさらに悪化していきました。
なんと彼女たちのアイドル・シニガミさんが来店してしまったのです。
(シニガミさんは、ファンの子たちから私たちのお店に行くことを邪魔されていたみたいですが、あのPvPイベント以降ファンの子たちが私たちのことを認めたため接触することを許されたようで、私たちのお店に足を運んでいたとのこと)
(ですが、シニガミさんが目を付けていたのは、まさかの私……)
(シニガミさんは有名人とのことで、そう頻繁にお店に来られると営業に支障が出る、と考えたライザが、私がゲームに復帰する日を伝えたそう)
(ですから昨日、シニガミさんがピンポイントのタイミングでお店を訪れた、ということになります)
(私は、シニガミさんには私たちを襲おうとした過去があるため、苦手意識があってできればあまり関わり合いになりたくはなかったのですが、ライザが取った行動の理由には納得できてしまいました)
アイドルが現れたことでファンの子たちは大パニックに。
シニガミさんはそんな興奮して大声で騒ぎ立てる彼女たちを止めることなく、ファンサービスを行い始めました。
それは、もしお客さんがやってきたらとても対応できない状態になってしまっていて……。
どうやって治めればいいのか!? とめちゃくちゃ慌てさせられました。
……まあ、そのあとにアンジェさんが(ベリアさんも)やってきてくれたことで、その騒動は一瞬にして鎮圧されましたが。
そうしてお店の中が落ち着いたあと、アンジェさんと少し話すことができたのですが、その時に彼女が言っていたことが、ライザが話を替えて聞いてきたことに繋がります。
――「『わがまま』が動き出したって噂があるから注意した方がいいかもしれないっす」
まだ相手の動きが読めなかった(もしかしたら問題だと騒ぎ立てるようなことではないかもしれない)ため、できることはないのでは? という感じで話は終わったのですが、それがまさか、あんなことになるだなんて。
この時の私たちには思いもよりませんでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます