第286話(第八章第3話) 「プディン帝国」の帝王

「いやぁ、『ラッキーファインド』のギルドハウスにはずっと行ってみたかったんだけど、場所がわからなくてなぁ。第十層から虱潰しで探してたら時間がかかってしまった! まさか、こんなところにあるとは……!」


 カシャカシャと、動くたびに甲冑のような防具が擦れる音を鳴らしながらキンジンさんは笑って言います。

 私たちのギルドハウスを探していたらしいキンジンさん。

 第十層から戻りながら見つけようとしていたそうですが、彼の発言からしてメインハウスの方には辿り着けていないみたいです。


「……ここはサブです。第十層から戻ってきてたっつー話でしたが、メインの方には行ってねぇんですか?」


 ライザも私と同じことを考えていたようで、キンジンさんに確認をしました。

 キンジンさんは、


「……ああ。見つけられなかったんだよ……。掲示板では、第五層にあるんじゃないか? って噂だったから第五層は隈なく探したつもりだったんだが……。どうしても見つけられなかったから、噂はあくまで噂、ってことで他のエリアも探すことにしたんだ。結局、メインの方の場所は未だわからないままサブハウスだっていうここをようやく見つけられた、っていうことになる」


 探したけれど見つけられなかった、とのこと。

 ちなみに、キンジンさんが私たちのメインハウスの方を見つけることにこだわっていた理由をライザが尋ねたところ、


「どうしてメインの方を探してたんですか? サブの方はどのエリアにあるかワールドチャットに書き込んでんのに……」

「それは、メインハウスでしか取り扱っていない商品やサービスがあるんじゃないか? って思ったからだ」


 という答えが返ってきて。

 ライザが、お店としての役割というか機能は全てサブに移しました、と言うとキンジンさんは、そうなのか? じゃあもうメインの方を探さなくてもいいんだな! とホッと息をついていました。

 私たちも別の意味でホッとしていました。

 私たちのギルドハウス(メイン)は襲撃に遭っていますから、そういった過去から、あまり場所を知られたくない、という思いがメンバー全員にありましたので。

(それもあって、サブハウスを建てよう、という案をマーチちゃんが出してくれていました)



「そ、それで本日はどういったご用件で?」


 私がキンジンさんに尋ねると、


「ああ、そうだった! ここには凄腕の鍛冶師がいるって聞いたから、すごい特殊効果を装備に付与してもらおうと思ってきたんだった!」


 ライザと話していた彼はここに来た目的を忘れかけていたようですが、私が質問したことで彼はハッとしてお店に来た理由を答えました。

 その答えを聞いてライザが唸ります。


「特殊効果、って用があるのはクロに、でしたか……。あいにくあいつは今外してるんですよね、ここ三日ほど商品の補充に努めてもらってたんで……」


 キンジンさんがここに来たのは、クロ姉に装備をパワーアップしてもらうためでした。

 しかし、肝心のクロ姉は今、ここにはいません。

 ログアウトしています。

(ギルドメンバーのログイン状況はメニュー画面で把握できるため、マーチちゃん同様に先ほどまでログインしていたことは確認できました)

 私がログインできなかった間、マーチちゃんと協力して私の代わりに商品の在庫を切らさないようにやり繰りしてくれていたので……。

 マーチちゃんがあの状態だったことを鑑みると恐らく、クロ姉もへとへとだったのではないでしょうか……。

 私はリアルで彼女に連絡できますが、疲れているであろう彼女に、お客さんが来たからすぐ戻ってきて装備に特殊効果を付与して、というのははばかられます……。


 ライザが、今は鍛冶のサービスを受けられない、ということをキンジンさんに伝えれると、彼は少し残念そうにしていましたがすぐに気持ちを切り替えました。


「今は外してる、ってことはタイミングが悪かったってことだな? ……そうか、仕方がない。出直すとしよう。……」


 装備の強化はまたの機会に、ということで受け容れてくれたキンジンさん。

 用はもうないようでしたが、彼はその場から動きませんでした。

 その目線は私の方に向けられています。

 ……正確には、私より少し上に。


「……あの、キンジンさん?」

「あ、いや、その……。嬢ちゃんの頭に乗ってるのって、



――村救出イベントで嬢ちゃんと一緒に北門を守ってたプディンちゃんか……!?」



「え? あっ、はい……」


 どうしたのか? と私が尋ねると、キンジンさんは私の頭の上にいる存在を指差しながら確認してきました。

 カラメルのことを。

 私が、キンジンさんからの質問に肯定すると彼は興奮した様子で頼んできます。


「やっぱりそうか! いやぁ、そうなんじゃないか、と思っていたんだ! あの素晴らしいプディンちゃんを生で見れるとは……! 触ったりしてもいいだろうか!?」

「え、えっと……、大丈夫、カラメル?」

「りゅ……」


 すごくカラメルに触りたそうに指をワキワキさせているキンジンさん……。

 聞いてみると、キンジンさんはプディンのフォルムがとても好きなのだそう。

(パーティ名もそこから名付けたのだとか)

 だから目がギラギラしていて(フルフェイスの兜越しでもわかるほどに)、鼻息も荒くなっていたんですね……。


 カラメルに確認してみると、少し躊躇っているようでしたが、問題はない……、と言っているようでしたので、許可が下りたことをキンジンさんに伝えました。


「だ、大丈夫みたいです――」

「いいのか!? ありがとう、プディンちゃんっ!」

「わっ!?」


 ものすごく速い身のこなし……。

 私が、触っていいみたい、とキンジンさんに伝えるや否や、彼はコンマ一秒でガバッとカラメルに抱きつきました。


「りゅりゅっ!?」

「プディンちゃーん!」


 勢い良く抱きつかれたカラメルが困惑しています……!

 キンジンさんは大好きなプディンに抱きつけたからか、嬉しさのあまりすりすりし始めました。

 ガチガチの鎧で……!


「りゅ~、りゅ~……っ!」

「き、キンジンさん! カラメルが嫌がってます……!」


 カラメルが、放して……! と訴えてきていたため、私はキンジンさんにカラメルを解放するように伝えます。

 しかし、感極まっているキンジンさんの耳に私の言葉は届かず……。


「りゅーっ!」

「ひでぶっ!?」


 カラメルは自分の身体を変形させてハンマーのような面をつくりだし、それでキンジンさんの兜に覆われた顔を殴りつけました。

 カラメルの攻撃を見事に食らったキンジンさんはその勢いで吹っ飛ばされ、驚くほどの速さで出入口からお店の外へ。


「りゅー、りゅー……っ!」


 キンジンさんから解放されたカラメルは私の胸に飛び込んできました。

 震えていたので、私はカラメルのことを優しく抱きしめました。


 変な形でお帰りになられたキンジンさんを見て、それまで黙っていたキリさんたちが口を開きました。


「……変な人だったねー」

「……ですね」


 そして間がいいのか悪いのか……。


「あ、あのー……」

「は、入ってもいいかしら?」

「なんか全身鎧の人が吹っ飛んで行ったのだけれど……」


 キンジンさんがお店を出て行った直後、それを見ていたらしいお客さんたちが戸惑いながら入ってくる、という展開になって……。

 ちょっとお店の評判に響きそうだ、と頭を悩ませました。

(ちなみに、やってきたのは魔女のようなローブを纏った三人組でした)

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