第285話(第八章第2話) コエは知りたい
「文化祭とはなんですか?」
コエちゃんが私の服の裾を引っ張って聞いてきました。
コエちゃん、文化祭を知らないんですか?
今、私はコエちゃんにいろいろと(現実のことで)教えてもらっているので、彼女が文化祭を知らなかったことに驚かされました。
……そういえば、コエちゃんは元々このゲームのNPCで学校に通っていなかったんですよね。
現実に来てもほとんど家にいる状態です。
文化祭を知らなくても不思議ではないのかもしれません。
私がそんなことを考えている間に、ススキさんがコエちゃんに説明をしていました。
「文化祭とは、学校生活の中の大事なイベントの一つです。生徒が主体となって展示や模擬店などを企画・運営するんです。出し物は幅広く、飲食やゲームなどの模擬店、美術作品や研究内容などの展示、演劇やダンスなどのステージ発表とさまざまです。私が通う学校では来月の文化の日に開催されるのですが、今年は姉妹校との合同開催が予定されていますので、規模が大きくなることが予想されています」
「生徒主体の展示、模擬店、ステージ発表……。見てみたいです……!」
文化祭がどういったものか聞いたコエちゃんは、文化祭に興味を示しました。
「セツさんの学校は、文化祭は行われますか?」
「え、えっと、私の学校は、その、なくて……。代わりに発表会とスポーツ大会がある、かな? それも、学校関係者だけで、一般の公開はされてなくて……」
「……そう、なのですか……」
「……ごめんね?」
文化祭を見学できないか? と私にお願いしようとしてきたコエちゃん。
しかし、私の学校には文化祭がなく、代わりに行われる学校行事も主に生徒と教師のみで行われる閉鎖的な行事となっていて、コエちゃんの希望を叶えることはできませんでした。
がっかりしてしまったコエちゃんを見ると申し訳ない気持ちになってきます。
少し沈んでしまった空気を換えようとしたのでしょう。
キリさんが少し慌てた様子で言いました。
「あっ、そーそー! セツちゃんってスーちゃんと会ったことあるんだよね? いーなー! うちも合いたいなー! ねね! うちともリアルで会わない?」
「い、いいですよ? いつにしますか?」
私がキリさんの話に乗っかって、コエちゃんの気分を紛らわすために文化祭の話から遠ざかろうとした時、コエちゃんの顔を窺おうとしてキリさんからコエちゃんの方に視線を動かした際に一人、難しい顔をしているのが目に映りました。
「……十一月三日……合同開催……」
……ライザです。
彼女は何やらぶつぶつと呟いていました。
私の視線は一度彼女のところを通り過ぎてしまいましたが、二度見をするように戻されました。
顎に指を添えて考え込んでいる姿が少し気になって……。
じっと様子を見ていると、ライザは口を開きました。
「……ススキ。文化祭を合同開催するとこってもしかして、
そう、引き攣ったような笑顔で確認するライザ。
聞かれたススキさんは怪訝な表情でライザを見ました。
「そう、ですが……。何故あなたがそれを……?」
ライザに問うススキさんの言葉にライザは……。
「……
「はい?」
「……百合女に通ってるんですよ、わー……」
「え」
なんと、ススキさんが通っている学校が文化祭を合同開催するというその姉妹校に通っている、と発言したのです。
固まるススキさん。
私とキリさんもびっくりしていました。
世間はなんというか、狭いですね……。
ライザの通っている学校とススキさんが通っている学校が一緒になって文化祭を行う、ということを知って、キリさんが提案してきました。
「あっ! じゃあさ、みんなで見に行こうよー! スーちゃんとライザの文化祭! うちとパインは行く予定だったし、そしたらセツちゃんたちとリアルで会えるじゃん!」
とっても楽しみにしているのが伝わってくる笑顔で……。
それはとても魅力的な提案でした。
私は賛成しようとしました。
ですがその直前、あることが頭を過って……。
私は、いい、ということに躊躇いを覚えてしまいました。
「そう、だね……。でも、みんなでっていうのはちょっと厳しい、かも……」
「あ、あれ? セツちゃん、参加できない感じ……?」
「い、いえ。私ではなくて……」
先ほど私の頭の中に浮かんできたのはマーチちゃんのこと。
彼女は今も病院にいます。
もし場所が遠ければ、移動するのも困難なはず……。
みんなで会う、と計画を立ててもマーチちゃんだけが参加できなくなってしまうのではないか……、私はそのことを危惧していました。
浮かばない顔をしていた私に言葉をかけて来る人がいました。
「セツ。マーチのことを思ってるんですか?」
「え――」
ライザです。
彼女は続けました。
「マーチが参加できそうにねぇからみんなで集まらねぇ方がいいんじゃねぇか? とか考えてるんじゃねぇですか?」
「……っ」
図星をつかれて私は何も言えなくなります。
そんな私に、ライザは諭すように言いました。
「セツ。自分の所為でみんなが楽しめねぇ、って方があの子は気にすると思いますよ? あの子はそういう性格じゃねぇですかね?」
「ライザ……」
……その通りかもしれません。
勝手に決めつけてマーチちゃんを傷つけるなんて、そんなことは私の望むことではありません。
行くにしろ行かないにしろ、ちゃんとマーチちゃんに確認してから決めよう、と私は考えを改めました。
「安心してください。恐らくマーチさんでしたら、楽しんでくるの! あっ! 写真いっぱい取ってきて!(声真似) と言ってくるでしょうから、私が撮影してマーチさんに送りますから。それがリハビリのモチベーションに繋がるのではないか、と存じます」
コエちゃんもそう言ってくれたので、仮にマーチちゃんが私たちに楽しんできてほしいと思ってくれているのなら、コエちゃんにそうしてもらうことにしました。
……あれ?
っていうかコエちゃん、マーチちゃんの連絡先(現実)を知ってたんですか?
いつの間に……?
……まあ、コエちゃんはヒトによく似ていますが機械ですし、彼女が生まれた場所からどこにあるかわからないはずの私の家に来ることができていますから、ヒトにはできないことも彼女には可能なのでしょう。
(ちなみにコエちゃんはハイスペックなので、見たもの・聞いたものをデータとして記録しておくことができ、それをスマホやパソコンなどに送ることも可能とのこと)
今日はもうマーチちゃんがログアウトしてしまっているので、明日会ったら聞こう、と心に決めていると、お店の扉が開かれました。
出入口の方に目を向けるとそこには、黄金のフルプレートアーマーとマントを着けた人物が立っていて。
「キンジンさん!」
「おう、嬢ちゃん! やっと来れたぞ!」
「プディン帝国」のリーダー・キンジンさんのご来店です。
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