第284話(第八章第1話) 久しぶりのログイン(セツ視点)
PvPイベントのあと、私は中間テストの時期に入ってしまったため三週間ゲームをすることができませんでした。
しかし、学生の本分は勉強……。
頑張ってテスト勉強をしました。
それで無事にテストを終えた十月十六日(月曜日)。
私が久しぶりにギフテッド・オンラインの世界にやってくると……。
「りゅっりゅりゅ~」
「るーりるー」
ギルドハウスのエントランスでカラメルとリゼがじゃれ合っていました。
……和みます。
「カラメル~、リゼ~」
「りゅー!」
「るるっ!」
名前を呼ぶと私の元に来てくれて。
カワイイ……。
癒されます。
しばらくカラメルたちと戯れていると、外からマーチちゃんがやってきました。
テスト明けの私を見つけたら、いつもなら駆け寄ってきてくれるマーチちゃんですが……。
「……あっ、お姉さん……。おかえりなさいなの……」
「ど、どうしたの、マーチちゃん!? ……何があったの?」
元気がありません。
疲れてげっそりしてしまっているように見えます……。
私が原因を尋ねると、彼女は話してくれました。
「お店が大繁盛なの……想定した以上に。それで、お姉さんがストックしてくれてた幻惑無効薬と防御デバフポーションが品切れになっちゃって……」
「ええっ!? 品切れ!? 結構な量をストックしてたと思うんだけど……!?」
私はマーチちゃんが元気がなかった理由を知りました。
お店が繁盛していたから、だったのです。
しかも、並みの繁盛ではなく、用意していた在庫がなくなるほどの盛況っぷり……。
……私、みんなに迷惑をかけないように、と「9,999,999,999,999,999」あったMPを全て費やして各ポーションのストックをつくっていたのですが……。
(まだMP継続回復ポーションをつくれず、使うことができていません)
私がログインできない間にお客様の信頼を失うようなことにはなっちゃいけない、って……。
相当の量があったはずなのに、まさかストックがなくなるほどにお客様がお買い求めになっていたとは思ってもみませんでした。
どうにも皆さん、第四層のタチシェスウィザードの防御の硬さと幻惑魔法に苦戦していたようです。
それで、どんどん売れていく幻惑無効薬と防御デバフポーションを見て、このままでは三週間も保たない! と焦ったマーチちゃんは『ポケットの中のビスケット』でその二種類のポーションを補充していたのだとか……。
(クロ姉もそれに協力していたそうです)
(品質が違えば『ポケットの中のビスケット』で増やせる数の制限に引っ掛からないので)
つくってもつくってもその傍から売れていき、結構な時間をアイテムを増やす時間に充てていたためマーチちゃんは疲弊していたのだそう……。
大変です……!
マーチちゃんにそんな苦労をさせてしまっていたなんて……!
私はマーチちゃんに謝って、慌てて幻惑無効薬と防御デバフポーションの量産に取りかかりました。
(マーチちゃんはあまりにも多忙だったからか、もうログアウトして休むそうで、リゼを回収していました)
カラメルから素材を受け取ってそれを素にして薬品を生成して、これだけあればなんとかなるだろう……! と二、三十個ずつつくってそれをカラメルにも持ってもらって第二層にあるサブハウスにカラメルと一緒に向かった私。
(カラメルも「踏破者の証」を使えたのでサブハウスにはすぐに行けました)
(……あれ? カラメルってテイムモンスターですよね? ……なんかやってることがプレイヤーっぽくなってきている気が……?)
お店の中に入ってすっかりなくなってしまっている棚に商品を補充し、これで良し……! と安心して店内を見渡します。
……。
「あ、あれ……?」
お店の中には、慌ててやってきた私を見ながらポカンとしているススキさんとキリさん。
それに、カウンター越しから気まずそうな顔を私に向けてきているライザだけ。
お客さんの姿はありませんでした。
「あ……。セツちゃん、おひさー」
「お、お久しぶりです、セツさん」
困惑する私に挨拶をしてくれるキリさんとススキさん。
「えっと、お客さんは? あれだけ用意してた商品がなくなって大変だった、ってマーチちゃんに聞いたんだけど……?」
私がこの状況について行けなくて尋ねると、ススキさんたちは納得したような表情を浮かべて教えてくれました。
「ああ、それで慌ててたのですね。本当に大変でしたよ。どういうわけかお客さんが押し寄せてきて、対応や在庫管理にてんやわんやで……」
「そーだね。商品のストックをどうにかできるのはマーチちゃんとクロだけだから、二人とも目回してたもんねー……」
「そ、そう……。マーチちゃんとクロ姉のおかげでなんとかなったんだ……っ。よ、よし! これからは私が何とかするから――」
私が来たのは、タイミングが良くてちょうどお客さんがいない時だったのか、それとも幻惑無効薬と防御デバフポーションがなくなってしまったからお客さんが来なくなってしまったのか……。
どちらなのか私には判断がつきませんでした。
ですが、私がいない間在庫の管理をしてくれていたマーチちゃんとクロ姉にもう苦労をさせないためにこれからストックをつくろう、と作業をしようと裏へ行こうとした私に今度はライザが伝えてきました。
とても話しにくそうに……。
「えー、あー、その……、意気込んでるとこ悪いんですが、もうそんなに売れねぇと思いますよ? 幻惑無効薬と防御デバフポーション……」
「……え? それってどういう……」
「セツがやってくる前に来た客が最後だったんです、第四層を攻略してる奴って……。『視た』んですが、第四層にプレイヤーがいねぇ状態なんです、今。ここから第四層攻略のために第三層を進んでる奴は結構いるんですが……。なので、焦ってつくる必要はもうないかと……」
「……」
……どうやら私は来るのが遅すぎたようです。
(ライザが「視て」、もうピークを過ぎたと判断できたから、彼女がマーチちゃんとクロ姉に休むよう言っていた、とのこと)
大事な時にいないなんて……。
私は自分が情けなくなって肩を落としました。
もう少し、今何が求められていて、これから何が求められるようになるのか、を見極められるようになれないかな? と考えていると、お店の扉が開きました。
そこにいたのは、
「……いた。急にいなくなったのでびっくりしました、カラメル」
コエちゃんです。
彼女は私の頭に乗っているカラメルに向けて手を伸ばしますが、こっちでの私とは身長差がありすぎて触れられず、ムスッとした表情をします。
私はコエちゃんに謝りました。
「あっ、ごめんね、コエちゃん。勝手に連れ出して……」
「いいえ。セツさんなら問題ありません。……それにしても、ゲーム版のセツさんに会うのは久しぶりですね。現実ではいつも会っているのですが……」
「テスト期間だったからね」
私とコエちゃんがそんな話をしていると、ススキさんがその会話に入ってきます。
「テスト期間中にゲームができない、とはセツさんのところは厳しいのですね。私たちの家は規制されませんから。ですが、私はこれからゲームをする時間が減るかもしれません。来月の頭に
――文化祭があるので」
「……文化祭?」
私が復帰したわけですが、今度はススキさんがログインできなくなるかもしれないことを伝えてきました。
文化祭の準備があるから、と。
その、文化祭、という言葉にコエちゃんが反応を示しました。
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