第282話(第七章特別編2) 熱戦! 三位決定戦!2

~~~~ キリ視点 ~~~~



 一閃。

 ベリアは複数の血の剣で自身を守ろうとしたけど、それをサクラの刀はベキベキとへし折る。

 そして返す刀で、ベリアを斬りつけた。

 その攻撃は相手に届いた。


 その一撃でベリアは黒い粒子へと変わっていく。

 サクラはスキルがスキルだから、一撃ごと(必要なら返す刀の二撃目があるけど)に刀を鞘に納めることが習慣化されてたんだ。

 だから、上がった攻撃力が元に戻されていなくて一撃でベリアを屠ることができていた。


「勝者『花鳥風月』! これで5対5です!」


 一勝。

 初めて自力で掴んだ勝利。

 嬉しさが込み上げてくる。

 この勝利を一番実感してたのは戦ってたサクラだと思う。

 サクラは安心したんだろう。

 力が抜けちゃったみたいで舞台の上でぺたりと座り込んで動けなくなってた。

 うちらはそんなサクラの元に駆け寄って、健闘をたたえた。

 サクラ、マジすごい!



 サクラを連れて舞台から降りる。

 あと七試合。

 そのうち四勝しないといけない。


 そう思ってたら、次の対戦カードが発表された。

 ……うちの出番だ。

 相手はシニガミ……。

 ……うっ。

 正直、あのスキルに勝てるイメージが湧かない……。

 うちが弱気になってると、パインが、スーちゃんが、サクラが、俯き加減になっていたうちの顔を心配そうに覗き込んでくる。

 三人の顔を見て気持ちを切り替えた。

 弱気になるな! サクラに続け! って、うちは気負った。



 七本目(試合としては六戦目)、うちとシニガミの試合が始まった。

 即死させられる前に水攻めをする。

 シニガミは一瞬怯んで、スキルの発動が遅くなった。

 うちはすぐさま、シニガミが再起する前に地形を変えた。

 「電気」の地形に。

 このゲームが、水に濡れて電気が通りやすくなる仕様かはわからないけど。


「あばばばば!?」


 シニガミが感電した。

 ……命拾いした。

 身体の自由が利かなくなっているのとHPが減っていっているのがわかる。

 チャンスだ!

 うちはスキルで、この電気の床が原因となる感電はしないから相手が動けなくなってるこの隙に畳みかけようとした。

 ……だけど。


「こ……の……っ!」


 うちが駆けだした瞬間、急に力が抜けてくらっとした感覚に襲われた。

 ……即死スキルを使われたんだ!

 ど、どうしよう……!

 うちも復活薬を持ってるけど、このままじゃサクラやスーちゃんと同じ轍を踏むことになる気がする……!

 三の舞……っ。

 うちは考えて、考えて……。

 上忍のジョブスキルに望みを託すことにした。

 上忍のジョブスキル『神出鬼没』は忍の『隠形術』の上位互換。

 姿が認識できなければ即死スキルのターゲットに指定できないかもしれない……!

 この可能性にうちは賭けた。

 しかし。


「あ、が……っ!?」


 そんなに甘くなかった。

 即死スキル『黒粒子化』はうちが思ってるよりチート性能だった。

 姿が見えなくてもお構いなし。

 うちは黒い粒子に変えさせられて、敗北した。



 待機スペースに戻される。

 ……空気が淀んでいる、そんな気がした。

 折角サクラが流れを変えるきっかけをつくってくれたのに、うちがそれをぶった切ってしまった。


 本当にまずい……。

 あと六試合で四勝しないといけないなんて……。

 うちらの待機スペースの沈黙が、息苦しさに拍車をかけていた。

 へたり込みそうになる。


 余裕がなかったから聞き逃してた。

 次の戦いに誰が出るのかが決まったみたい。

 ……またシニガミが出てくる。

 もうどん底だと思ってたけど、まだ気分が下げられた感じだった。



 八本目(試合としては七戦目)、パインvsシニガミ。

 対峙した時なんだけど……相手の様子がおかしかった。

 普段なら速攻で仕掛けてくるのに動かなかった。

 パインのことをじぃーっと見つめて……。

 なんか顔もちょっと赤くなってる気がする。

 ……あれ? これって、まさか?



――パインに見惚れてる?



 そのパインは、試合が開始してすぐにやられると思っていたようで怯えていた。

 けれど、相手が動かなかったことで戸惑い始める。

 結構な時間、双方止まっていたけど、パインの方が先にやらなければいけないことを思い出して行動に移した。


「え、えっと……! り、『リザレクト・リザベーション』……っ!」


 パインの足元に魔法陣が展開されて淡い光が包み込んだ。

 しばらくすると魔法陣は消えていく。

 パインは自分に魔法をかけたのだ。


 パインが動き出したことで、シニガミも我に返った。

 躊躇いがちにパインに即死スキルを使用する。

 それを受けてパインは倒れた。

 けれど。

 パインの身体はキラキラと輝きだして。

 それは、復活薬で復活するのとは違うエフェクトだった。


 あれは先ほどパインが使った魔法「リザレクト・リザベーション」の効果だ。

 「リザレクト・リザベーション」――神官系の上位職以上だと使うことができるようになる、自身や味方の一人を対象として発動でき、その者のHPが0になった時にHP満タンで復活させる時限魔法。

 莫大なMPが必要となるため、この戦いにおいてパインはもう障壁を張ることもできなくなる(MPを回復させれば使えるけど、それを使う時間を相手が与えてくれるかは疑問だから)。

 何故パインが、復活薬を持っているのに防御を捨ててまでこの魔法を使ったのか、それは、復活薬での復活だと受けられない恩恵を受けるため……!


 パインが復活したのを認識したシニガミが仕掛けてくる。


「き、君も持ってるのか……! あ、あんまり気は進まないけど、『黒粒子化』――」


 シニガミの言葉に、パインが被せる。


「『痛いの痛いの飛んで行けっ!』」


 ……そう。

 これを使うためにパインは聖女の魔法でHPを回復させていたんだ。

 パインの職業は大聖女で最上位職。

 HPは「32,215」もある。

 「0」から満タンになるまで回復したのだから、『痛いの痛いの飛んで行けっ!』の特性でパインのHP分がそのまま固定ダメージとして与えられる。

 これを耐えられる人はそうそういないだろう。


「かは……っ!?」「うぐ……っ!」


 パインは『黒粒子化』を受け、相手は『痛いの痛いの飛んで行けっ!』のカウンターダメージを受けて、二人は同時に黒い粒子に変わっていった。


「た、ただいまの試合、引き分け!」


 審判だけが残った舞台上からその言葉が伝えられた。



 戻ってきたパインを褒める。

 褒めちぎる。

 これは大きな大きな引き分けだ。

 お兄ちゃんカッコイイ!

 褒めそやした。



 次はうちとベリアの試合。

 パインがつくってくれた波に乗りたかった。

 けれど、『急速な気候変動』でつくった「海」の地形を飛翔で逃げられて。

 うちは血の剣でめった刺しにされた。

 うちは待機スペースに強制的に戻されてしまった……。



 もういよいよあとがなくなってきた。

 あと四試合で四勝しないといけない。

(三勝すれば引き分けに持ち込めるけど、サドンデスなんかが行われて万が一シニガミと戦うなんてことになったら絶望的……)

 窮地に立たされて、うちらは旗色だけでなく顔色も悪くさせていたと思う。


 そんなところに。


「あっ、僕、棄権するっす。四戦すべて」


 まだこの三位決定戦で一度も出ていなかった相手、アンジェがそんなことを言い出した。


「「「「えっ!?」」」」


 固まるうちら。

 アンジェがなんでそんなことを言ったのか、それはベリアが漏らした言葉でわかった。


「そ、そうだった。この子、補助しかできないんだった……!」


 アンジェは戦えるスキル・職業ではなかった。



 こうしてうちらは三位になったわけだけど……。

 試合に勝って勝負に負けた、そんな感じがした。


 もっと強くなろう……!

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