第280話(第七章第36話) イベントのあとは

「しっかし、ほんっとすごいよねー……」

「ええ。一回戦から優勝するまで一度も負けていないのですからね……」

「完全勝利、ってことなのかしら……?」

「つ、強い……」


 これが、私たち「ファーマー」がPvPイベント優勝を決めて特設闘技場をあとにし、観客席へ行った時のサクラさんたちの言葉です。

 大会などで優勝が決まった時って、わぁああ、って歓声が上がるものだと思っていたのですが、そこはとても静かなものでした。

 誰もが、信じられない……、というような表情を浮かべて観客席を訪れた私たちを見ていました。

 何か疎外感というか、自分たちがここにいるのは場違いな感じがして、私たちはサクラさんたちを連れてそそくさとその場から離れました。

 この日はどこに行っても視線が気になって仕方がなかったため、街に戻ってすぐにログアウトしています。



 一日経って、九月二十四日(日曜日)。

 他のプレイヤーさんたちがあまりいない朝の早い時間帯にみんなで集まって、移動を開始しました。

 多くの視線にさらされるのは落ち着かないので……。


 そんな私たちが向かったのは第四層。

 PvPイベントを優勝した景品として「第四層全ダンジョンの宝の地図」をゲットできたのでイベント後の恒例行事を開催することにしたのです。

 お宝探しです!


『スクオスのジャングル

 13階北側☆をつくる十本の木の真ん中・呼び出しベルを使う』

『リスセフが守る王の墓

 14階東側の窪んでいる壁に王冠を持っていきサボテンを看る』

『アホクビ竜宮城 15階南側・一匹だけ違うダンスをしている魚について行く』

『タチシェスの自然保護区 13階西側

「スクオスの森」の木の枝・「リスセフ遺跡」の隠れた名水・「アホクビ海底谷」の石を持っていく』


 今回のヒントはこのようになっていました。

 ……また骨が折れそうです。


 お宝探しには昨日、ログアウトする前にサクラさんたちも誘ったのですが、



――「『ファーマーあなたたち』が優勝して手に入れた権利なのだもの。『花鳥風月あたしたち』がそれについて行くのは違う気がするわ」



 と言われてしまいました。

 指摘を受けてから気づいたのですが、確かにサクラさんの言う通りかもしれません。

 ということで、私たちは四人でお宝探しを行うことに。



 「第四層巨大エリアダンジョン1・スクオスのジャングル」――。

 13階北側にあるという星の形をつくるように配置されている木はすぐに見つけることができました。

 普通に探索しているだけならまず訪れることのない場所に異様に開けていて十本の大樹が規則正しい間隔で聳え立っていました。

 その木でできた星の中心に行くと転移をさせられます。

 魔法陣が視認できなかったので驚かされました。

 てっきりそこで「呼び出しベル」を使うと思っていたので……。

 ……というか、「呼び出しベル」って前回のイベント優勝の景品ですよね?

 それがないとないと今回のイベント優勝の景品をゲットできない、って、「運営」は前回とは違う方が優勝した場合はどうするつもりだったのでしょうか?


 私たちが送り込まれた場所は何もいない空間でした。

 その場所の雰囲気はどこか「アホクビ砂丘」にあった砂の城内部を彷彿とさせるつくりになっています。

 そこよりも断然広い空間になっていましたが。


 待っていても何かが起こる気配はなく……。

 私は考えてハッとしました。

 ここで「呼び出しベル」を使う、ってこと?

 ライザに確認すると、それが正解だったようです。


 ライザが「呼び出しベル」を使って、現れたのはスナノアホクビ、ミズノアホクビ、マグマノアホクビ、カゼノアホクビという四種のモンスターでした。

 マーチちゃんとクロ姉の属性攻撃によってダメージが入るようになった相手を私とライザで即座にやっつけました。

 ……ダメージが入るようにしないと再生してしまうこのようなモンスターに一人で太刀打ちできるようにしておいた方がいいかもしれないですね。

 あとでクロ姉と相談してみましょう。


 マーチちゃんとクロ姉のおかげで相手を倒し切ることができ、宝箱が出現!

 中身は『パワーアップの秘玉(属性)』でした。



 「リスセフが守る王の墓」14階。

 カギとなる王冠は隠し部屋のさらに奥、幻影ですり抜けられる壁の奥にありました。

 「スクオスの住まうラグーン」のお宝を探す時に見たヒントと似ていたため、カギの隠し場所は隠し部屋なのではないか? と疑って調べてみたら案の定、という形です。

 それで手にした王冠を東側の壁の窪みにセットすると隠し通路が出現して。

 奥に進むと元気のないサボテンが生えていました。

 ヒントには、このサボテンを看る、と書いてあったので、聖水を掛けてみたのですが元気にならず……。

 ならば身体に良い作用をするものを使ってみよう! と思い立って、HP・MP、状態回復、復活薬、バフ系のポーションを合わせた最強の回復ポーションを使用してみたところ、



――しなしなで細かった身体が筋骨隆々みたいに太くなり、何故かロケットのように飛んで行ってしまったのです。



 ここ、遺跡系のダンジョンなので天井があるのですが、それを貫いて……。

 四人でポカンとしてムキムキサボテンさんが消えていった方向を見ていると、そこから宝箱が振ってきました。

 ……どういう仕掛け? と気にしたらダメなのでしょうか?

 中には二つのものが入っていました。

 『HP継続回復ポーション』と『MP継続回復ポーション』。

 おおっ!

 この二つは絶対に役に立つアイテムです!

 これらは私が預からせてもらうことになりました。

 私が二つのアイテムをポーチに仕舞っている時に、マーチちゃんにボソッと言われます。



――「……これ以上バケモノ味を増やしてどうするの?」



 と。

 ……あれ?

 私はもっとみんなの力になろうとしているのに歓迎されていない……?

 そんなことありません、よね?

 えっ、あれ……?



 あっ、ちなみに「アホクビ竜宮城」にあったお宝は『回避のマント(防具)』で、「タチシェスの自然保護区」にあったお宝は『アイテム合成の教本』でした。

 「アホクビ竜宮城」ではお宝は15階にあると書いてあったのに一匹だけ違うダンスをしている魚というのは13階にある隠し部屋の前で踊っていた魚の群れの中にいた一匹であること(ダンスは三十六分見続けないと終わらなくて、移動を開始してくれないため大変でした)、

 「タチシェスの自然保護区」ではダンジョンにある収納できないアイテム(宝石サンゴや王冠のようなカギとなるもの)は持ち出せないというのにそれらを持ってくるように求められたこと(1階の大樹の根本、8階の聖水の祠の裏、モンスターハウス奥の隠し階段から行ける16階、にそれぞれのダンジョンと繋がる地図を持っていないと反応しない魔法陣があった)、

 これらの謎は私、マーチちゃん、クロ姉では解き明かせなくて、ライザに頼らざるを得ませんでした。




          ―――― 第七章・おわり ――――

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