第279話(第七章第35話) 飢えた怪物9
「あ、姉貴っ!? なんでそんな格好でやってるんだよっ!?」
あゆみちゃんがひどく動揺しています。
それもそのはず……。
「……は? 神のお姿に『そんな』? あと、セツちゃんに対する数々の暴言。聞き捨てならない。……早急な要求。改心しろ。
クロ姉が真顔で詰め寄っていたのですから。
あゆみちゃんは恐怖によって腰を抜かします。
尻もちを搗いたため、『私』の姿をしている(背の低い)今のクロ姉に見下げられていました。
クロ姉から発せられてる圧がすごい……。
槌を掲げるクロ姉をあゆみちゃんは止めようとしました。
「あ、姉貴、ま、待ってくれ――あっ」
その時。
彼の手が、私の触れてほしくない部分に触れて――。
(戦闘中であり、意図的ではなかったため触れることができてしまった、とのこと……ライザ談)
「……コロス!」
あゆみちゃんにハンマーが振り下ろされました。
「あ、がっ!? まっへ!? ぶっ!?」
あー……。
クロ姉、『手加減』を発動させていますね……。
ボコボコです。
……まあ、止めようという気にはなれませんでしたが。
『私』に触られたみたいに錯覚してしまって……。
実際に触られたこともありましたし……。
彼が風邪を引いているのにゲームをしようとして、それを私が止めようとした時に私にゲームを開始するのを邪魔されないようにするために……。
ですから私は、あの時の恨みを晴らさせてもらおう、という気持ちになっていました。
クロ姉のステータスは装備に付与された特殊効果によってカンストしているので、あゆみちゃんが逃げられるわけがなく。
彼は五分ほど殴られ続けることになりました。
(……この闘技場で行われた私たちが出た試合において、戦っている時間が最長になっています)
クロ姉の高すぎるステータスに対応できず完全にサンドバッグと化しているあゆみちゃん。
それでも、クロ姉はまだやめる気はなかったようです。
ただ、あゆみちゃんの方が先に音を上げて。
「
「しょ、勝者『ファーマー』……!」
審判の方があゆみちゃんの棄権を聞き入れて。
こうして決勝戦、運命の十本目の決着がつきました。
決勝戦は十本先取。
即ち……。
「無傷の十連勝……! よって、このPvPイベントの覇者は『ファーマー』に決まりました……っ!」
私たちの優勝が決まった瞬間でした。
待機スペースに戻ってきたクロ姉と喜びを分かち合う私たちでしたが、そこに怒声が響き渡りました。
「おかしいだろ!? 俺のレベルは4,000を超えてるんだぞ!? 『一朝一夕』のスキルがあるんだから! 何かの間違いだ! こんなの認められるわけがない!」
審判の方にそうやって駄々をこね始めたあゆみちゃん。
彼は舞台の下にいる私たちがいるところからも見える位置にいて、声が聞こえてきたのでその方を見ると、その時に私は彼と目が合いました。
それで彼は何を思ったのか、ハッとした表情を浮かべて、
「そ、そうだ! 大将戦! それで決着をつけようじゃんか! 一人だけめちゃくちゃ強いメンバーがいるんだろ!? それで勝ち誇られてもこっちは納得なんてできないんだよ! リーダー対決で白黒つけようぜ!? なあ、刹那!」
なんてことを言ってきて。
さっきまでクロ姉のことを私だと思っていて私の存在に気づいていなかったというのに……。
しかもこのあゆみちゃんの発言にあのプロデューサーさんが便乗してくる始末……。
『わかりました、大将戦を執り行いましょう。優勝したパーティの強さが認められない、というのもこちらとしては不本意ですからね。やはり覇者は認められてこそ、ではないかと』
「よっしゃ! 許可が出た! 俺が強いんだ、ってことを証明してやる! 首を洗って待っとけよ、刹那!」
「……はぁ」
私はあゆみちゃんと戦うことになってしまいました。
(何故か大将戦で勝った方が勝ちとかいうルールに変えられてしまったため)
そんな決定をしたプロデューサーさんに、私は呆れて溜息をつくことしかできませんでした。
まあ、これまでがこれまでだったのでなんとなく予想できる展開ではあったのですが。
というわけで私は壇上へ。
「……あの人、ほんといい加減にしてほしい……っ! ……コホン。それでは決勝戦エクストラマッチを開始します! 『ファーマー』セツ、『MARK4』ロード・スペード! いざ尋常に、勝負っ!」
開始の合図が鳴ります。
私は相手が行動し始めたのと同時に駆け出しました。
あゆみちゃんはなんか講釈を垂れていましたが。
彼のスキルは遠隔で攻撃ができる『天上天下唯我独尊』と経験値に関係する『一朝一夕』……。
もう一つのスキルはわかりませんが、彼が、さっきのは何かの間違いだ、俺は強いんだ! とか言って私に背を向けて走り出したのを見て、先ほどと同じで透明な壁と私に『天上天下唯我独尊』を使うつもりでいることが読めました。
ですから、あゆみちゃんが壁の元に辿り着く前に私は彼の後ろ襟の部分を掴んでそのまま引っ張り倒しました。
あゆみちゃんは地面に叩きつけられた拍子に黒い粒子となって消えていきます。
高すぎる攻撃力の賜物でしょう。
「一瞬だったの」
「相手になりませんね」
「当然の結果」
みんなからの反応はこんな感じ。
戦闘時間はあゆみちゃんの説明も込みで十秒足らず。
兎に角、これで本当に私たちのPVPイベント優勝が決定した――
「大将戦、『ファーマー』の勝利! これにより今度こそこのPvPイベントの覇者が『ファーマー』に決ま――」
「ちょっと待ったああああ! さっき、優勝したパーティの強さが認められなかったら優勝したってことにはならない、って言ってただろ!? まだだ! まだ俺は納得いってない! 他の二人より俺の方が絶対に強い!」
「「「「……」」」」
『わかりました。それではあと二戦行いましょう。そのうち一回でもあなたが勝てたのならあなた方の勝利ということにいたしましょう』
「よっしゃーっ! 話がわかるな、あんた! 絶対に勝ってやるぜ!」
「「「「……」」」」
と思ったのですが、あゆみちゃんが屁理屈をこねて、それをプロデューサーさんが承諾してしまって……。
マーチちゃんも、ライザも、あゆみちゃんと戦わされる羽目になってしまったのです。
……まあ。
「ぐへぁ!?」
「勝者『ファーマー』!」
瞬殺でしたが。
『我の進行を邪魔する者は何人たりとも許さない』という、クロ姉が武器に付与している特殊効果の壁を壊せる『ブレイクスルー』と似た効果を持つそれが、あゆみちゃんの持つ最後のスキルで。
それで床を破壊して容易には近づけないようにしようと企んだらしいあゆみちゃんでしたが、『器用貧乏』で攻撃力と器用さを高めたマーチちゃんが射た魔石の弾に貫かれて試合終了。
ライザとの試合はもっと短時間でした。
反対側の壁に走ろうとしたあゆみちゃんの目の前にライザは回り込んで急接近。
ライザはパンチを繰り出すのですが、それが当たる直前に『トリックスター』であゆみちゃんに低いHPを押しつけ、逃げられる前にトレードした攻撃力のパンチ(ボディブロー)をお見舞いしていました。
当然、低い防御を押しつけられている状態のあゆみちゃんが耐えられるわけもなく。
以上の結果から(ちなみにあゆみちゃんのパーティの女の子三人はクロ姉と戦うことを全力で拒否して棄権しています)、
「怒涛の十六連勝! PvPイベント優勝は『ファーマー』っ!」
今度こそ間違いなく私たちのPvPイベント優勝が確定しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます