第278話(第七章第34話) 飢えた怪物8
「しょ、勝者『ファーマー』! こ、これで九本目……っ!」
審判の方が引いています。
今、決勝戦九本目の試合が終わりました。
マーチちゃんがカラメルの複製体・リゼを使って勝利をもぎ取った六本目の試合のあと。
七本目からは『ファーマー』先鋒……ライザの試合が続くことになりました。
このルーレット、本当にランダムですか? と甚だ疑問なのですが、この際それは置いておくことにします。
ライザがあまりにも圧倒的過ぎたので……。
七本目、ライザ対ダイヤさん(『MARK4』先鋒)。
ライザは言いました。
『物体操作』持ってんのは
『物体操作』って……あっ。
ライザがゲームのデータが消える前に持っていたスキル!?
……あの大量の武器を操っているのがそうなのでしょう。
それをダイヤさんが持っているということは、ライザにとってこの人は因縁の相手と言えるかもしれません。
ライザが暴走するきっかけの一因となったとも考えられなくもないわけですから。
そんなライザとダイヤさんの試合ですが……。
ライザが「巻物」で『ターゲット変更の権利(操作武器限定)』を取り、ダイヤさんが操る大量の武器の標的をダイヤさん自身に向ける、というちょっとダイヤさんが憐れに感じられるようなやり方でライザが勝利しました。
八本目、ライザ対ハーツさん(『MARK4』副将)。
ライザは「巻物」で『呪いの操り人形』を取得。
そのスキルは、スキルによって全身または身体の一部が操られた場合、その状態の時は自身のHPが減らず代わりに自身を操った者のHPを減らす、というものらしく、そのことを知らなかったハーツさんはライザを操った状態でライザのHPを削り切ろうとしてしまい……。
(『HPドレイン』で自身の最大HP分のダメージを負ったハーツさん)
ライザの勝利が決まりました。
九本目、ライザ対クローバーさん(『MARK4』次鋒)。
『差し押さえ』でライザの『アナライズ』を封じようとしてきたクローバーさん。
ですがそれはライザに読まれていて、ライザの高すぎる素早さによるヒットアンドアウェイ戦法に倒れました。
……ライザって「巻物」を使わなくても充分すぎるほどに強いんですよね。
もうずっとヒットアンドアウェイだけでよかったような気がしますが……。
それでもきっと、ライザにはライザの考えがあるのだと思います。
自分の出せるカードの多くを見せてしまっていますが、それを晒すデメリットよりもメリットの方が大きいのでしょう。
まあ、ライザの場合は手札がほぼ無限なので晒すことのデメリットはまったくと言っていいほどないと思いますが……。
兎にも角にも、これで九本を取ることができました。
優勝まであと一本です!
待機スペースに戻ってきたライザとハイタッチをしていると、舞台を挟んで反対側にある待機スペースの方から怒鳴り声が聞こえてきました。
「お前ら何やってんだよ! あと一敗でもしたら負けちゃうじゃんか!」
……あゆみちゃんの声です。
窮地に立たされているからか、私たちに負けた彼女たちに相当きつく当たっているようですね……。
弁解を計る声も聞こえてきたのですが、それはあゆみちゃんの声によって遮られていました。
この声が聞こえたからでしょう。
先ほどまで満開の笑顔を咲かせていたクロ姉の表情が苦虫を噛み潰したような顔へと変わっていました。
まだあゆみちゃんのところはあゆみちゃんの理不尽な説教が続いていましたが、審判さんが咳払いをして注目を集めました。
「んんっ! えー、十本目を始めたいと思います! ルーレットスタート! ……決まりました!
――『ファーマー』副将:『MARK4』大将です!」
……ルーレットはちゃんと回っているのかもしれません。
『ファーマー』副将ということは、クロ姉の出番ということです。
そして相手の大将は恐らく……。
これって、クロ姉とあゆみちゃんの対決、ってことですか!?
私がクロ姉の方を見ると、そこには……、
――無表情ですごく濃厚な殺気のオーラを放っているクロ姉がいて……。
「あ、あの、クロ姉……?」
私が話しかけると、クロ姉はにこっと笑って私の方を向いて。
「ちょっと愚弟しばいてくる♪」
そう言って舞台へと上がっていきました。
あー……、これは、うん、まあ……。
決着は見えた、かな……。
「『ファーマー』クロvs『MARK4』ロード・スペード! いざ尋常に、勝負っ!」
ゴングが鳴り運命の戦いが幕を開けました。
「生産職が俺に勝てるとか本気で思ってんのかよ、なあ刹那!」
「……」
またあゆみちゃんは私の本当の名前を叫んで……。
自分は言うな、って言ってたのに……。
……理不尽です。
「夏休みの宿題の恨みをここで晴らしてやる!」
……逆恨みもいいとこです。
あゆみちゃんはそう叫んだあと、クロ姉がいる方とは真逆の方へと走りだしました。
そして透明な壁があるところまで来ると、その壁を剣で攻撃し始めたのです。
私やマーチちゃんは、彼が何がしたいのかわからずに瞬きを繰り返すことしかできませんでした。
しかし、その意味はすぐにわかることになります。
クロ姉が黒い血を噴き出したことで。
「「クロ(姉)……!」」
困惑する私たちに、あゆみちゃんが説明してきました(たぶん、クロ姉にだけ種明かしをしようとしていたのだと思いますが、彼は声が大きいので私たちにも聞こえていました)。
「『天上天下唯我独尊』! この壁への攻撃は全てお前へのダメージになるようにした! これは最強のスキルだぜ!」
『天上天下唯我独尊』――攻撃する対象(A)とダメージを与える対象(B)の二つを指定して、Aを攻撃すればBにダメージが入るスキル……。
それで壁を切りつけ続け、クロ姉にダメージを与えていっていたあゆみちゃん。
クロ姉はそのダメージに耐えながらあゆみちゃんへと向かって行きます。
その時、あゆみちゃんの笑い声が響き渡りました。
「ハハハッ! 止めようとするよなァ! けどな! このスキルの効果はこれだけじゃないんだよ! スキルの使用中はどんな手を使われたとしても邪魔されない! そういう効果もあるんだよ!」
『天上天下唯我独尊』には、そのスキルを他者が止めることができない、という効果もあるようでした。
あゆみちゃんの笑い声が闘技場内にこだまします。
あゆみちゃんは勝ち誇っているようでしたが、クロ姉は問答無用であゆみちゃんに向けて得物を振り回しました。
直後。
――パリィィィィンッ!
と、ガラスが割れるような音が響いて。
「アーハッハッハッハーッ! ……んぇ――ごはぁっ!?」
そのままハンマーの面があゆみちゃんに直撃。
あゆみちゃんは透明な壁に叩きつけられました。
あー……。
これはクロ姉の武器に付与されている、なんでもかんでも弱体化できる『傾国傾城』を使われましたね……。
それで、スキルの使用を邪魔されないという効果を打ち消された、と……。
こうなったらもうクロ姉の独擅場ですね……。
「な、なんでスキルが……!? お前、何したんだよ!?」
クロ姉のことを指差して喚くあゆみちゃんにクロ姉は、
「また『お前』……。私のいないとこでセツちゃんにそんな態度取ってるんだ。ふうん」
「なんなんだよ、お前! それじゃまるで……」
「愚弟」
「っ!?!?」
冷めた目を向けて言ったのでした。
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