第277話(第七章第32話) 飢えた怪物7

「そ、そこまで! 『ファーマー』一本先取!」


 ハーツさんが黒粒子となって消えたため、審判の方が宣言します。

 これで私の勝利が確定しました。

 相手のスキルを全て暴くこともできたため、重畳なのではないでしょうか?

 私は待機スペースに行ってマーチちゃんやライザ、クロ姉とハイタッチをしました。

 みんな、激励の言葉で迎えてくれました。



「それでは決勝戦二本目の対戦カードを決めていきたいと思います! ルーレットスタート! ……決まりました! 決勝戦二本目は



――『ファーマー』大将:『MARK4』次鋒となります!」



「ひゃい!?」


 審判さんの発言に、私は耳を疑いました。

 驚きすぎて変な声が出てしまいます。

 ま、まさか、二回連続なんて……!

 残りの試合は十五戦で、その内私が出るのは三戦だというのに……。

 この前の試合にも私は出ていて連戦ということになりますから、そうなる確率は単純計算で二十分の一になるはずです……。

 結構低い確率だと思うんですけど……。


 などと頭の中で嘆いていましたがそうしていても始まらないため、私は覚悟を決めて舞台の上へと上がっていきました。



 対戦相手はクローバーという方でした。

 勝利しました。

 スキルは一つしか判明しませんでしたが。


 クローバーさんは『小さな4合しあわせ』という、彼女を中心とした半径四メートルほどの範囲をシロツメクサ畑に変えてそこから四つ葉のクローバーを見つけ出せたら一定時間状態異常にならなくなったりモンスターを操れたりステータスが著しく上昇したりレアなアイテムをゲットできたりするスキルを持っているそうです。

 ただそのスキル、結構厄介な仕様があって……。

 スキル使用者とその仲間以外に先に四つ葉のクローバーを見つけられるとMPが0になる、というデメリットがあったのです。

 そうとは知らなかった私は、三つ葉だらけの緑の中から一瞬で四つ葉のクローバーを見つけてしまって……。

 クローバーさんは、これじゃ何もできない! と嘆いて棄権しました。

 ……勝利は勝利です。



 決勝戦三本目。



――『ファーマー』大将:『MARK4』先鋒



「またですか!?」


 いや、おかしいでしょ!?

 三連戦って……!

 確率で言ったら百四十分の一ですよ!?

 ……も、もう、私の試合は残り一試合だけになった、と考えるようにしましょう。

 そう考えないとやっていけません……。


 ……。


 勝ちました。

 相手はダイヤという大量の武器を操る方でしたが、その中の一つの棍棒を弾いたらビリヤードみたいになって全ての武器が破壊されました。

(武器には耐久値が設定されていますから)

(高すぎる器用さがなせる業でしょうか?)

 それでダイヤさんが呆然としている間に投げて倒しました。


「しょ、勝者『ファーマー』! 三本目獲得……!」


 勝ちが確定します。

 連戦で集中力が切れてみんなに迷惑をかける結果になる……なんてことがなくてホッとしましたが、私は安心しきれませんでした。

 この流れでいくと四連戦なんてことも考えられますから……。

 本当にルーレット回してるの? って疑いたくなるレベルです。



 ……回っていました。

 ここまできたら私の四連戦になるのではないかと想定していたのですが……。


「決勝戦四本目、『ファーマー』次鋒:『MARK4』次鋒!」


 ……流石に千八百二十分の一を引き当てる、ということはなかったようです。

 ルーレットが回っていないのではないか? と疑ってしまったことが恥ずかしくなってきました。


「行ってくるの」

「が、頑張って! 応援してるから!」


 予想していた展開と違って私は少し腑抜けた状態になってしまっていましたが、舞台へと続く階段に向かうマーチちゃんを見て慌てて彼女に言葉を掛けました。

 マーチちゃんは私の声に応えて舞台へと上がっていきました。


 マーチちゃん対クローバーさんの戦いが始まります。


 今回はデメリットの大きい『小さな4合わせ』を使わず、相手が次に使うスキルを当てたらそのスキルの効果を奪えるという『差し押さえ』を使用してきたクローバーさん。

 彼女はそれで『ポケットの中のビスケット』を指定してきました。

(……これ、たぶんですけど、もう一つのスキルは相手のスキルがわかるスキルなのではないかと思います)

(ライザの『アナライズ』と似たスキルですね……『アナライズ』よりできることが少なくないと困りますが)


 ……あっ。

 マーチちゃん、薬品の入った弾をセットして……射ました。

 あれはスキルを使ったわけではないのでクローバーさんのスキルは不発に終わります。

 それどころか劇薬がかかって……。

 クローバーさんは何もできずに消滅していきました。


「しょ、勝者『ファーマー』! よって四本目、獲得……!」


 圧倒的ですね、マーチちゃん。

 こちらに振り向いて跳びはねながら手を振って勝った喜びを表現しているマーチちゃん、可愛かったです。

 駆けて私たちの元に戻ってきたマーチちゃんとハイタッチを交わしました。



 決勝戦五本目、『ファーマー』次鋒:『MARK4』先鋒。


 ……またマーチちゃんが出なければいけないようです。

 このルーレット、なんか偏っていませんか?

 私は訝しみましたが証拠はなかったため指摘することはできず、マーチちゃん対ダイヤさんの試合が始まりました。


 ……。


 勝ちました。

 マーチちゃんの圧倒的勝利です。

 ダイヤさんはなんか、『泣かせ』というスキルを持っている、とかでのマーチちゃんに勝った気でいました。

 それはNPCにお金を払わずに商品を手に入れたりサービスを受けられたりするスキルらしく、彼女が大量の武器を揃えることができていたのはそのスキルのおかげとのこと。

 あとは相手のお金(ゲーム内)を使えるとかなんとか……。

(ちなみに、ダイヤさんのもう一つのスキルは『ブラッキジャック』というお金で攻撃するスキルだそうです)

 ……まあ、マーチちゃんが射た魔石の弾が武器の間を掻い潜ってダイヤさんの脳天に直撃、瞬殺されていましたが。


 勝てばなんとやら! ……ですよね!



 決勝戦六本目、『ファーマー』次鋒:『MARK4』副将。


 ……なんで?

 このルーレットほんとにちゃんと回ってるんですか?

 またマーチちゃんです。

 流石に私だけでなくマーチちゃんやライザ、クロ姉も、おかしいのではないか? と不満を漏らしていました。


 しかし相変わらず証拠がないため、怪しくても試合を止めるだけの力が私たちの言葉にはありません。

 マーチちゃん対ハーツさんの戦いが始まってしまいました。


 試合開始早々、ハーツさんの『真実の愛トゥルーハート』で動きを止められてしまったマーチちゃん。

 HPを大きく削れる『HPドレイン』を使われそうになります。

 ですが!


「るーりるー!」


 マーチちゃんがアイテムとして持っていたカラメルの複製体(=リゼ:マーチちゃん命名)が現れてそれを阻止!

 リゼはハーツさんを呑み込みました。


 その後、相手の待機スペースから白い光が見え、ハーツさんが復活したことが読み取れます。


「しょ、勝者『ファーマー』!」


 恐らく、リゼが呑み込んだ相手のHPを搾り取ったのだと思います。

 コエちゃんがカラメルのレベルを上げていてできることが多くなっていて、リゼはそのカラメルの複製体ですからカラメルと同様にできることが多いんですよね……。

 マーチちゃんに死角なし、って感じです。



 ただこのあと、もっと死角のない人が出場します。

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