第275話(第七章第30話) 飢えた怪物5(セツ視点)

 イベントも到頭最終日。

 私たちは特設競技場へと向かいながら話していました。


「いよいよ最終決戦ですね」

「相手はサクラたちを負かした『MARK4』とかいうパーティなの」

「「……『MARK4』?」」

「え? お姉さんとクロの言葉が被った……?」

「……姿がほぼ同じなんで、こうしてみると本当に姉妹みてぇですね」


 内容は決勝戦について。

 これから戦うパーティの名前が出てきた時、私とクロ姉の言葉が重なりました。

 『MARK4』……。

 どこかで聞いたことがあるパーティ名です。

 そう感じて呟いたら、クロ姉も同じように呟いていました。

 ……クロ姉も聞いたことがある、ってこと?

 何か感じるものがあるのではないか? クロ姉はそんな様子でした。


 私とクロ姉が、うーん、うーん……、と唸っていると(たぶんクロ姉も相手パーティについて考えていたのだと思う)、ライザが言ってきました。


「どこかで見たことある名前だな……、みてぇな顔してますが、それは恐らく、これまでのイベントで好成績を収めてるから、じゃねぇですかね? 魔石集めイベントで9位、ダンジョン踏破イベントで7位、村救出イベントで4位を取ってるとこですから」

「そっか……。それで、なのかな……?」

「……ん」


 私とクロ姉が訝しんでいたことに理由をつけてくれたライザ。

 ですが、どこか腑に落ちません。

 クロ姉も納得しきれていない表情をしているように私には見えて……。


「兎に角! いつも通りにやれば優勝できると思うの! 気を引き締めていくの!」


 考え込んでいた私たちにマーチちゃんが、次の試合に集中するように! と大事なことを思い出させてくれました。

 だから私はとりあえず、次の試合でどんなことがあっても勝てるようにするにはどうすればいいか、ということだけを考えることにしました。



 そうやって壇上に上がって。

 相手パーティよりも早く着いてしまったため待っていると、やがて対戦相手の皆さんがやってきます。

 そのパーティの、ある一人の姿を捉えた時、私は大変驚かされました。

 そこにいたのは、ツンツン頭の如何にもやんちゃ坊主って感じの剣を持ってる人



――あゆみちゃんだったからです。



「えっ、あゆ――」


 私は驚きすぎて思わず大きな声を上げそうになりました。

 しかし、その声はさらに大きな声で掻き消されました。

 他ならぬあゆみちゃんの声によって。


「よう刹那! 随分と勝手にやってるみてぇじゃねぇか!」


 私の本当の名前を大声で口にするあゆみちゃん。

 ですがその声は、私に向けられてはいませんでした。

 彼が見ていたのは、



――クロ姉



 ……え?

 ……あっ。

 ゲームの世界こっちでのクロ姉イチ姉は、『私』とそっくりなのでした……!

 だからあゆみちゃんは、クロ姉を私だと勘違いしたんだ……!

 ……幼馴染なのに?

 ……いえ、「DtoDダイブ・トゥ・ドリーム」のゲームって確か現実での知り合いの顔は認識できるようにプログラムされているんでしたっけ?(ライザ談)

 あゆみちゃんは『現実の私』を知っているからこそ、その『私』の姿をしているクロ姉のことを私だと勘違いしたのかもしれません。

 ええ……? 気づいてよ……。

 でも、うーん……、私も『あゆみちゃん』そっくりなプレイヤーさんが出てきたら気づける自信はないかも?

 ……うん、あんまり責めることはできないかもしれません(ブーメランが返ってくるかもなので)。


 というわけで少し静観することにしました。


「……この声……っ。何? なんの用?」


 クロ姉の方は声であゆみちゃんだと気づいたようです。

 あゆみちゃんに話し掛けられて、クロ姉は明らかに不機嫌になっていました。

 そういえば、クロ姉とあゆみちゃんってあんまり仲が良くないんですよね……。

 空気がピリッとしたのを感じて、私は止めた方がいいのではないか? と考え始めます。

 私が決断する前に会話は進んでいて……。


「……俺は忘れてねぇからな。お前が夏休みの宿題手伝ってくれなかったこと……! おかげで怒られるわ、補習させられるわで散々な目に遭った! だが! 全てはここで戦う時のためのものだったんだ! ギッタンギッタンにしてやるから覚悟しろ!」


 なんてことをあゆみちゃんは言いだしました。

 クロ姉に向かって指を差しながら。

 もう止めるべきだと判断して動き出したのですが、私はクロ姉に制されました。


「はあ……。宿題は自分でやるものだと思うよ? あゆ……ロードさん」


 クロ姉が、クロ姉の口調ではない返し方をしていたから。

 ……あれ? その言葉遣い、私の言い方を真似てる?


「当てにしてた俺も俺だけどよ……! 何も終わるまで一週間も残ってねぇタイミングで言ってくることねぇだろ!?」


 それでますますクロ姉に視線が向くようになっていたあゆみちゃん。

 彼は大将のようですが、整列した時に目の前にいる私には目もくれていませんでした。



「決勝戦は、場所はこの舞台の上で、内容は相手チームとの総当たり戦になります。

 全ての相手プレイヤーと1対1で戦っていただきますので、合計十六戦行うことになります。

 勝てば一本となり九本先に取ったパーティの勝利……といいたいところですが、大将同士の戦いで勝った方には4ポイントが入りますので十本先取したパーティの勝利――PvPイベントの覇者となります。

 その他、持ち込めるアイテムの数などに変更はありません。


 それではこれより、決勝戦『ファーマー』対『MARK4』を執り行います!」


 審判さんが宣言したため決勝戦が始まることになりました。

 ですが、私たちは動けずに立ち尽くします。

 決勝戦は総当たり戦のような対戦方式を採用しているとのことでしたので、これから誰と誰が戦うのかが判断できなかったからです。

 それは相手の皆さんも同じだったようで、審判の方に尋ねていました。


「あの~……、これから誰と誰が戦うんです?」

「あっ」


 その子、不思議の国っぽいドレスを着た女の子が確認すると審判さんは、しまった! と言わんばかりの顔をして説明してきました。


「も、申し訳ありません! 対戦カードはこちらのルーレットで決めさせていただきます! 向かって左側が『ファーマー』、右側が『MARK4』の出場者の表示となります! 時間がなかったため表記の仕方は先鋒・次鋒・副将・大将となりますが、こちらは準々決勝で就いていたポジションでの代名詞となります。ご了承ください。それでは早速回させていただきます!」


 審判の方は私たちに謝りながら、審判の方の近くに大きなルーレットを出現させました。

 左の上の方に「ファーマー」、右の上の方に「MARK4」という吹き出しみたいなものがついているレトロな感じのルーレットを。

 そして、それがどういうものなのかを私たちに話したあと、審判さんの手によってルーレットが回されました。

 クルクルクル……と回って。

 ルーレットが止まります。


「決まりました! 決勝戦一本目は……



――『ファーマー』大将:『MARK4』副将



 となります!」

「っ!?」


 ……いきなりですか!?

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