第274話(第七章第29話) 飢えた怪物4
~~~~ キリ視点 ~~~~
『勝者「MARK4」!』
「っ!?」
……わけがわからなかった。
審判がアナウンスした内容が理解できない……。
うちらが、負けた……?
あんな――
――サボテンに剣を刺してるだけの奴に……?
うちはあの時、サクラが謎の攻撃に苦しめられてるのを見てスーちゃんとパインにサクラの治療を頼んだあと、ごく狭い範囲だけど空高くまで『急激な気候変動』で「海」の地形にして、それで上空まで移動していった。
ある程度の高さまで行ったら、今度は「天空」の地形を広範囲につくって、空から相手パーティを探すことにした。
こういうののセオリーって、大体一番遠いところに敵陣をつくられる気がする。
だからまっすぐ、うちらが転送させられた火山エリアから一番距離がある砂漠エリアの方に急いで向かった。
忍の元になってるジョブ・斥候は素早さがある方で、うちは上位職にもなってるしそれなりにレベルもあるからそれほど時間を掛けずに砂漠エリアの上空までやって来れた。
そしてうちが睨んだ通り、砂漠エリアの南側、サボテンが多く自生しているところにプレイヤーの影があった。
その数はきっちり四人分。
間違いない、相手パーティだ。
その中で一人のプレイヤーがサボテンに向かって何かをしようとしていた。
うちはすかさずその人たちの周りを「海」の地形に変えた。
あのまま行動させてたらマズい――そんな予感がしたから。
うちの『急激な気候変動』によって、砂漠エリアが水の中に沈んだ。
けれど……。
三人のプレイヤーは力なくぷかぷかと浮き出した。
ただ一人、サボテンに剣を突き立てようとしていたプレイヤーだけはその身体が水に覆われているというのに、平然としていて。
その行動は止まらず、サボテンを突き刺した。
水中にいることも意に介さず、その人が何度も、何度もぐりぐりとやっていると――
『準決勝第二試合、勝者「MARK4」!』
準決勝の勝者が決まった、というアナウンスが響き渡った。
……愕然とした。
サクラたちとは距離があったはずだ。
それなのにどうやってサクラを倒せてしまったのか、それがうちにはわからなかった。
雲の上で呆然と立ち尽くしてしまっていたうち。
ふと気づくと、視線を感じた。
眼下にいた一人のプレイヤーがこっちを見ている気がした。
距離を取っていたからどんな顔を向けてきていたのかはわからなかったけど……。
……でも。
寒気を覚えた。
もう決着はついているのに動き出したそのプレイヤー。
その人は剣を掲げて、またサボテンを穿った。
と、同時に、
「がはっ!?」
うちの胸から剣身が生えてきて――。
剣先が上下に揺れて、うちの傷を広げた。
下を見ると、サボテンに刺さったままの剣を抜けないようにしながら乱雑に動かしているその人の姿があった。
サボテンに刺さった剣が動くと、うちの胸から突き出ている剣身も同じように動く。
これ、あいつがやってるんだ……っ。
そういうスキルなんだろう……。
……そんなことよりも問題なのは。
――もう終わってるはずなのにうちを攻撃してきたことだ。
「い、ぎ……! ふざ、けんな……っ!」
痛い。
超痛い。
無駄に傷つけられてることが納得できなかった。
うちはやめさせよとしてあいつの足元の地形を雲に変えたけど、どういうわけかあいつは
あいつの動きは止まらなくて……。
――うちのHPは、削り切られた。
気がついたら、うちは特設闘技場(第二)の舞台の上にいた。
そこにはサクラたちと、相手の女の子たちもいて……。
一人いない、って思ってたら、うちをやったあいつが白い光に包まれながらやってきた。
その顔はうちを見下げているようで……。
なんかすごくムカついた。
「ちょっと、キミ。うちまでやる必要はなかったんじゃない? あとその顔、すっごいムカつくんだけど」
何か言ってやらないと気が済まなかった。
でも、そいつに響いてる様子はなくて。
「完璧な証明がしたかったんだよ。俺の方が強ェってな。それにあんただって俺を攻撃してたじゃん。イーブンだろ?」
「なっ!?」
そんなことを言ってきたんだ。
正当性がある、って。
……ふざけてる。
勝負がついているのに攻撃してきたこと、それが許されるのか!? と抗議をしたくなった。
だが、しかし。
うちがその言葉を発する前に、うちの声は妨げられる。
スピーカーから流れてくる声によって。
『ロード・スペードさんのやったことは褒められたことではありません。……が、キリさんもロードさんを害そうとしましたし、今回はおあいこということで。お二人の行いは今回に限って不問とします』
相手の行動を問題にしないと言い出した「運営」側の人。
……信じらんない。
あれは、あっちがやってきたから自己防衛を計っただけなのに……!
それを、うちが相手から売られた喧嘩を買った、ってみなされたなんて……っ!
うちにも非があった、って捉えられた所為で、うちら「花鳥風月」の準決勝敗退が決まってしまった。
決勝進出が決まった相手のリーダーは、小馬鹿にするようにこっちを見てきていた。
……ほんとマジでムカつくんですけどっ!
終わったから特設競技場から出る。
みんな、その足取りは重くなっていた。
うちがあいつを止められたら結果は変わってたのかな……、とはどうしても思ってしまう。
それをみんなに言おうとした時、セツさんたちがこっちに向かってきていたのが見えた。
彼女たちはうちらが醸し出してる空気で結果がどうだったのかを理解したんだろう。
「……意外。てっきり上がってくるものだと思ってた……」
「ちょっと、クロ姉! ……その、お疲れさまでした」
「まだお疲れ様っつーのは早ぇですけどね」
「そうなの。まだ三位決定戦が残ってるの!」
「そうだった! ……戦えないのは残念だけど、最後は私たち全員で勝って終わりましょう!」
そんな励まし方をしてくれて。
……そうだ。
まだうちらのイベントは終わってない……!
最後は勝って終わる――。
セツさんたちにそのことを思い出させてもらったうちらは気持ちを切り替えて全力で明日の三位決定戦に臨むことにした。
……とまあ、それはちょっと逸れるからあとで、ってことで。
そして二日後。
この日がやってきた。
うちらが観客席で見ていると審判の人が言った。
『決勝戦は、場所はこの舞台の上で、内容は相手チームとの総当たり戦になります。
全ての相手プレイヤーと1対1で戦っていただきますので、合計十六戦行うことになります。
勝てば一本となり九本先に取ったパーティの勝利……といいたいところですが、大将同士の戦いで勝った方には4ポイントが入りますので十本先取したパーティの勝利――PvPイベントの覇者となります。
その他、持ち込めるアイテムの数などに変更はありません。
それではこれより、決勝戦「ファーマー」対「MARK4」を執り行います!』
二十三日、イベント最終日。
最終決戦の火蓋は切られた。
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