第272話(第七章第27話) 飢えた怪物2
~~~~ サクラ視点 ~~~~
【時は、第一闘技場で「ファーマー」vs「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」の試合が始まろうとしていたころ】
あたしたちは第二闘技場というところにいた。
……始めて来たわね。
今までずっと第一闘技場で戦っていたもの。
壇上に呼ばれて相手を見た時、ちょっと、というかかなり戸惑った。
……幼く見えたのよ、相手が。
あたしは170センチあるし、ススキちゃんとキリちゃんも160センチはあると思う。
パインちゃんだけは160センチに満たないんだけど……。
それに比べると、相手は三人が女の子で、三人ともパインちゃんと同じかそれよりも小さかった。
みんな、中学生くらいって感じ……。
一人だけ、あたしの前にいた男の子は、ススキちゃんやキリちゃんより大きかったけれど、顔にはあどけなさが残っていて……。
少し戦うのに躊躇してしまいそうになったけれど……。
「……何見てんだよ、おばさん」
「おば……っ!?」
今、この子、あたしのこと、おばさん、って言った!?
女子大生のあたしに向かって……!?
試合前に相手のことを観察するのは当然のことよね!?
めちゃくちゃ失礼じゃない!? この子!?
……ただ。
男の子があたしのことをすごく睨みつけてきていてそれが怖かったから、あたしは言い返すことができなくて……。
途轍もない不安に駆られて、隣にいたパインちゃんに確認していた。
「……ね、ねえ、あたしってそんなに老けて見えるかしら?」
「サクラちゃんは高校生って言われても違和感ないよ」
あたしのほしい言葉をくれるパインちゃん。
その姿は、ムッとした表情であたしにひどいことを言った男の子のことを睨んでいて……。
何、この子……天使!
あたしはたまらなくなってパインちゃんに抱きついていた。
……パインちゃんは、恥ずかしいから放して! って言ってきてたけど、そのお願いはちょっと叶えてあげられそうになかった。
「うう、ありがとうパインちゃん……! お礼に好きなもの言って? なんでも買ってあげる……!」
「い、いいよ、何も買わなくても! それより放して!」
などと、あたしとパインちゃんが戯れてると(パインちゃんにその気はなかったかもしれないけれど)、今度はあたしに見られて不機嫌になってた男の子がパインちゃんのことをじぃーっと見ていた。
あたしには、見るな、って言ってきたのに、自分はいい、なんて横暴すぎない?
「な、何……?」
パインちゃんが視線に気づいて男の子に問う。
見られていた部分を両方の腕で隠しながら。
……男の子だったら見ちゃうか。
この場にいるなかで、今はパインちゃんのが一番大きくなっちゃってるし……。
とりあえず、パインちゃんをあたしの後ろに隠そう、と動き出した時、その男の子が言ってきた。
「いや。俺の幼馴染と似たようなモンつけてんな、って思って。気持ち悪いくらいデケェな」
……。
この子、やっぱり超絶失礼だ……!
どうしてくれるのよ!?
パインちゃんがショックで俯いて涙目になっちゃったじゃない!
さっきまで戦うのに負い目を感じていたけれど、この男の子にはお灸を据える必要があるわよね!?
……後ろめたさをなくしてくれたことだけはよかったわ。
そんなことがあったのだけれど……。
審判の人は気にした様子もなく、与えられた仕事を進めていっていた。
「準決勝は4対4のチーム戦となります。PvPイベント予戦が行われたイベント特設ステージが舞台となります。制限時間は一時間。それが経過した時に生き残っていたプレイヤーが多い方のパーティの勝利となります。また、大将戦に出られていた方をそのまま大将と定め、相手のパーティメンバーが何人残っていたとしてもその大将を討ち取った場合はその時点で試合終了、大将を討ち取った側の勝利となります。大将を討ち取れず、同数で制限時間が過ぎてしまった場合、この闘技場にて大将戦を執り行うことになります。その他、持ち込めるアイテムの数などに変更はありません。以上が準決勝のルールとなります。
それではこれよりイベント特設ステージに転送します。移動完了後、準決勝第二試合『花鳥風月』対『MARK4』の試合開始となります。いざ尋常に、勝負」
あたしたちの足元と、相手四人の足元に、一つずつ現れる魔法陣。
白い光に包まれて、あたしたちはイベント特設ステージへと転送させられた。
……で、送られたのが、
――ゴポ、ゴポッ! ドカアアアアアアアアンッ!
火山エリア……。
高い山が定期的に噴火をし、ドロドロの溶岩を流している危険地帯……。
噴石とか飛んでくるし……。
……備えててよかったわ。
あたしたちの装備はクロさんに強化してもらってて、地形によるダメージと悪影響を受けないから。
(キリはその特殊効果が付与されなくてもスキルで防げるから、別の特殊効果を付けてもらってたけど)
特にあたしは、この装備を替えると『能ある鷹は爪を隠す』が使えなくなっちゃうから本当に助かった。
ただ、噴石だけは地形によるダメージと悪影響を無効化できる特殊効果でもどうしようもないから、他で対処しなくちゃいけないのだけど。
(というわけで、パインちゃんがスキルであたしたちを守ってくれてる)
地形から受ける影響をどうにか対処することができたあたしたちは、これからのことについて話し合った。
「このイベント特設ステージって、結構広い、よね? この火山以外にも、海とか砂漠とか谷とか、あ、あと……ひぅ」
「あ、あははー……。地下、だね。……どーする? 普通に探しても見つけらんない可能性もあるっしょ?」
「ここは危ないので滅多なことがない限り相手はやって来ない気がします。潜伏するには優れているかもしれませんが、隠れているだけでは勝てませんから……」
「攻めるしかない、ってことね? だったら中央にある平原に行ってみるのはどうかしら? 地形で装備を縛られるのを嫌がるならそこへ向かう気がするもの」
消極的な戦いをしていたら、相手の情報を得ることなく大将戦をすることになる……。
それは下手をしたら危険な選択かもしれない。
準決勝まで勝ち上がってきている相手なのだもの。
いろいろと考慮して行動するべきよね……。
ということで、あたしたちは平原を目指すことにした。
(ちなみにススキちゃんから、爆発を起こして相手パーティをこっちに呼びよせるのはどうか? という提案もあったのだけど、キリちゃんに却下されてた)
(その方法だと相手はうちらの居場所がわかるけどその逆は無理だから一方的に狙われる展開になりかねない、って)
地図とかなかったから迷いながら進んで、やっとのことで景色が変わり始めた。
たぶん、二十分くらい火山地帯を彷徨ってたと思う。
あたしたちは四人揃ってライザさんのすごさを痛感していた。
そんな時だった。
あたしたちに油断していたつもりはなかった。
ちゃんと警戒していて、相手の姿や気配を感じ取ろうとしていた。
けど。
「――え」
突然、なんの予兆もなく――
――あたしの胸に大きな穴が開いた。
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